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edinburgh

例えばそれは他のどこからも遮断された彼らだけの世界だった。

それは優しく、柔らかな時間で、それはとびっきり居心地のいい屋根裏部屋の時間だった。しかし彼は去った。彼にはそこを去る必要があった。

 

誰もが使ったことのある繁華街の真ん中を通る路線バスが、誰も乗客がいなくなってからいくつかのバス停を素通りしたあたりに、ほとんどの人が訪れたことのない場所があった。それはまるきり騒がしさとは無縁の場所で、そこに住んでいる人以外にはとんと縁がなくて、そうでなくても寂しい場所だった。

しかしその日は一年で最もにぎやかな夏が始まるよりもずいぶん前で、少し肌寒い風が鉄のような色の海から吹き付けていたから、この辺ぴな場所をあえて訪れようとする者はいよいよいなかった。

そしてそこに彼がいたのは、その日のその場所だった。

「ひどく寒いですね」

私はいつも誰か「何もしていない人」が住んでいるフラットの前に置かれた、まるでツタのように丸く曲げたスチールのベンチに座って、彼に話かけた。今日みたいな日和には、火がいりますね。

「私は屋根裏部屋にいたんだ」

彼は前方に差し込んだ海の端っこ、入り江の水を見たまま言った。

「今でもあのひっそりと隠れた場所を覚えているよ、あの焦げ茶色のソファも、あのかすれた記録を記した古い新聞紙の味がするコーヒーも。皆の声やビロードのような時間が、今でもこの手で触れられるようだ。しかし、そこがどれほど快適で、どれほど安心できる時間だったとしても、君の目的が別のところにあるのなら君かその時間のどちらかが去っていくだろう」

そして彼は目を閉じて、すっと息を吸い込んで、それから吐き出すように言った。

「今はここが、気持ちいいよ」

 

同じ場所に次の日、同じ時間にその場所には彼の影だけがうっすらと残っていた。

私はそれからしばらくの間、毎日同じ場所に同じ時間、そのベンチに腰掛けて入り江に視線を投げた。そのベンチといえば、実のところ私が間借りしている部屋から階段をおり、ドアを開けてすぐの所にあったから、それは全く苦ではなかった。

しかし彼が現れることは二度となかった。そして私にはその理由が分かっていた。

 

それからまたしばらく経って、私がベンチに腰掛けるのをやめてからにわかに、暖かい風が穏やかに窓の外を流れるようになった。

私がこれまでずっと携えてきたバッグも、何もかもを部屋に残して、その場所から発ったのはそんな風が一瞬やんで、ほんのわずかな間だけ、冷たい風が私の進みたい方向に向かって流れたときだった。

 

例えばそれは他のどこからも遮断された彼らだけの世界だった。

それは優しく、柔らかな時間で、それはとびっきり居心地のいい屋根裏部屋の時間だった。しかし彼は去った。彼にはそこを去る必要があった。

そして彼はまだ目的を追う道の途中にいた。彼はその道にいながら、ある一つのことに気がつき始めていた。それは彼がその目的を達成したそのとき、そのときこそ屋根裏部屋は彼を待っているのだということだった。しかし彼はまだ目指していた。彼はまだ目指し続けていた……。