Brioni ブリオーニとKiton キートンを比較検証

kiton brioni

イタリアンクラシコの両雄

イタリアを代表するスーツブランドを挙げていこうとすると、真っ先に名前が挙がる二つのブランドがあります。

ローマのブリオーニ。そしてナポリのキートンです。これらのブランドはスーツ一着50万円〜100万円というかなり高級なブランドでありながら、その素晴らしい品質ゆえに世界中の著名人や政治家など特別な人たちに愛用されています。

しかしイタリアのスーツブランドを代表する二つのブランドだとは言っても、その良さはそれぞれ微妙に異なる。だいたいイタリアの高級スーツが好きな人に「どちらが好きですか」聞けば、ほとんどの人が「俺はブリオーニの方が好きだ」「私はキートンを好むね」とどちらかを答えてくれるわけです。

そういうわけで今回はイタリアンクラシコの両雄、ブリオーニとキートンを比較検証してみようと思います。

ナポリらしい柔らかさのキートン

キートンとブリオーニを比べてみたときに、まず着た本人はその着心地の違いに気がつくでしょう。ブリオーニもキートンも軽い着心地ですが、それでもキートンはまるきり着ていないかのように動きやすく、ストレスがない。長座体前屈をした後にぶんぶんと腕を振り回してもスーツがついてくるような、そんな着心地です。

この着心地の柔らかさの秘密は、キートンがナポリ仕立てをベースにしたブランドだという点にあります。ナポリ仕立てはナポリのサルトリア=仕立て屋が作る注文服のことですが、各所にナポリならではの工夫が施してあり、その着心地は世界中を見ても追従するものがないと言われています。

その工夫とは何か。まずはセンツァ・インテルノと呼ばれる芯地をほとんど用いない仕様です。これは簡単に聞こえますが、芯地が無い分生地だけで良いシルエットを作り出さなければならないので、非常に高度な技術が必要です。

さらには袖付け部分にシワを寄せるマニカ・カミーチャです。ブランドによってギャザーのように細かかったり、大きな波打ちのような感じだったりと違いはありますが、ナポリのブランドの多くが採用しています。

napli jackets

ちなみに左からダルクオーレ、キートン、アットリーニ、ラベラサルトリアナポレターナ、そしてナポリではありませんがナポリ出身の職人が立ち上げたブランドのジャケットです。

マニカ・カミーチャという言葉は「シャツ袖」という意味ですが、確かによく見るとシャツと同じような袖付けになっているわけですね。結果として可動域が広がり、着心地を最も左右する肩に広がりを持たせています。ちなみにキートンのマニカ・カミーチャは他のブランドに比べると控えめです。

これはあまりにナポリ的なマニカ・カミーチャはシワが強すぎ、世界的なブランドとしては威厳が足りない外見になってしまうからではないでしょうか。キートンのそれはダルクオーレのものなどとは違い、着るとシワがほとんど伸びて見えなくなる。非常に絶妙な加減ですね。

またナポリのスーツはアームホールが高く、やや小さくなっている。もちろん、このような仕様になっているから着心地が良い、と判断するのは安直すぎます。

これらは立体的に袖付けをするナポリ人の技術があってこそできる、高い次元の工夫なんですね。そしてキートンはそういったナポリのサルトリアが地元限定で使っていたレベルの高い工夫をうまく取り入れ、ナポリ仕立ての良さを生かしたインターナショナルなブランドとなっています。

結果として、一流のブランドであるブリオーニと比べてもすごいと感じる着心地の軽さを実現しているわけですね。

威厳のある外見なのに着心地は軽いブリオーニ

brioni

ブリオーニとキートンはちょうど、「見た目」と着心地の関係性が少し違います。キートンは柔らかい着心地で、見た目もまたリラックスしており、見る人を安心させるような雰囲気です。

しかしブリオーニはそうではない。ブリオーニは威厳がある見た目でありながらも、着心地が極めて軽い。つまりリラックスした雰囲気をそのまま魅力にしたキートンとは違い、ブリオーニは見た目では男らしく、格式高い雰囲気を実現しながらいかに着る人に負担なく軽い着心地にするかという点で良さを追求しているのですね。

今回のジャケットに関しても、肩パットが入っており見た感じでは構築的に見えます。しかし実際に着てみると、普通のアンコンジャケットかのように感じる。

実際のところ、軽い着心地というのは非常に実現が難しいものです。というのも、肩から背中に掛けて重さを均等に分散すること、また動作を妨げない立体的な作りにすることによって初めてそういった着心地の軽さができる。安い普通のマシンメイドのブランドにはそれができません。できないからこそ、やたらとアンコンのジャケットを出して、安直にジャケットの「重量」を軽くしているんですね。

しかしブリオーニはそういったことはせず、あくまで高い技術によって着心地を軽くしている。だからこそ、見た目では威厳がありイギリスのスーツのように格式高くて男らしいのに着心地は軽いというマジックを成し遂げていると言えるでしょう。

ボタンホールにブランドの素地が見える

kiton brioni button hole

さて着心地の違いを感じた後、改めて二つのブランドのジャケットを比べてみると今度はボタンホールに目がいくでしょう。この位高級なブランドになるとボタンホールというのは全て手縫いによって施されるので、その分ブランドの実力と方向性が非常に良く現れますね。

また実用性に関係が無い分、ブランドの美意識もよく反映されます。

左がブリオーニ、右がキートンです。整然と整い、美しい段差を作り上げているブリオーニのボタンホールに対し、キートンは手作業の温かみが感じられる、わりとラフな雰囲気です。

ブリオーニはローマのブランドですが、比較的に北部らしさがある。それは、洗練された美しさと格式のある雰囲気です。ブリオーニのスーツのシルエット全体に感じられることですが、ボタンホール一つを見てもそれが分かりますね。雰囲気が似ているのはベルベストのボタンホールですが、ベルベストよりもさらに細く繊細で、高さがあります。特にこのように高さがあるボタンホールを作っているのはブリオーニだけではないでしょうか。

それに対しキートンは手縫い感の溢れる作りで、カタチも投げ縄のような感じ。けっこうラフな雰囲気ですね。同じくナポリの高級スーツブランドにラベラサルトリアナポレターナという、キートンで長く働いていた人が立ち上げたブランドがありますが、そのブランドに比べると少し整った印象。

ナポリ仕立てというブランドの原点を表現しながらも、あくまでインターナショナルなブランドとして通用する上品さを優先しているのが、キートンのボタンホールだと思います。

どちらが良いかより、どちらが好きか

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キートンとブリオーニ、どちらも非常に素晴らしいブランドです。そしてどちらも同じレベルの生地をコレクションし、同じように研究を重ねて素晴らしいスーツやジャケットを作っている。

そのため、これらの二つのブランドを比べて優劣を付けるのは難しいことだと思います。もちろん約750人の工場で作り、世界中に多数の店舗を構えるブリオーニよりは、約350人の少し小規模な工場で作り、店舗数も少ないキートンの方が作りの手は込んでいるかもしれません。

しかしブリオーニのスーツには、キートンのスーツにはない格式高さがある。それは一国の代表が着たり、人の前に立って堂々と話す人にふさわしい威厳ですね。逆にキートンのスーツには、非常にラグジュアリーで高級でありながらも、着ている人の前に立っても威圧感がなく、むしろ着ている人とその場に落ち着きをもたらしてくれるような良さがあります。

このように、それぞれに個性があるのがブリオーニとキートンのスーツ。一例として自分の場合は、肩が元々わりとしっかりとしているのに身長が低めのため、あまり肩が構築的だと、全体的に寸詰まりな印象になってしまう。そういうわけで肩が自然なキートンのスーツが気に入っていますね。

逆に普段スーツスタイルがなんとなく心細い、貧相に見えてしまう人や、人前に立つ自信が欲しい人には是非ブリオーニのスーツをおすすめしたいところです。

ぜひ実際に二つのブランドのスーツを試着してみて、鏡で自分の姿を見てから、どちらを選ぶか決めましょう。