『超高級ワイン』は本当に美味しいのか?10万円以上のワインを同時テイスティング

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今年もありがとうございました。みなさん大人になれましたでしょうか?
例年以上に厳しい寒波が懐を直撃していますが、少々無理をして羽振りの良い高級ワイン話で年末を〆たいと思います。
掴みどころのない長文になってしまったので結論からいうと、高級ワインの世界は「底がない沼地」だということが分かりました。とても簡単な感想に思うかもしれませんが、これを理解するまでにワインを10年以上にわたって千本以上も口にすることが必要でした。

なぜワインを語るのが難しいのか?

ワインを語るというのは、クラシック音楽や絵画を語るのよりも難しいことです。ジョージア(グルジア)がワインの発祥といわれていますが、紀元前6000年前には葡萄を潰してつくられたといわれます。今のイタリア・ナポリからほど近い「ポンペイ廃墟」でも紀元79年のヴェスヴィオス火山の大噴火で埋もれた酒場やワインが出土しています。

フランスのボルドーも同じように長い歴史があり、ローマ時代に葡萄が栽培されてワインが作られています。ローマ帝国から持ち込まれたという説がありますが、フランスの地層から葡萄の種の化石が発掘されることがあり、さらに前から在来種があったとする説もあります。日本では弥生時代より前にワインが存在したと思うと凄く長い歴史です。

それと比べると近代のフランス「メドック格付け」という基準は新しく、1855年にパリ万国博覧会に出品するために制定されました。その基準は生産量や畑の大きさではなく、実際にワインが取り引きされている価格を元にしたとされ、今でもメドック格付け1級のシャトーは水準の高いワインを作り続けています。
世界中で様々なスタイルのワインが無数に作られていますが、フランスという一国のボルドー地区だけでも、数百以上の生産者が存在し、各年年のビンテージワインが流通しています。人生を使ってワインを飲み続けても、すべてを飲みきるのが不可能だということが分かるはずです。

ワインというのはボトルの中に入った小さな宇宙です。たとえば絵画であれば、視力が普通で視覚異常がない健常者は多くの人が同じように見えるはずです。受け取った視覚的な情報から、その情景や背景、イマジネーションを得ることになります。ワインは同じ銘柄、同じ年数でも1本ずつ異なったものが入っています、驚くことに同じ1本でも上と底で異なるボトルも存在します。

同じ日に、同じテーブルで2つのグラスに注げば、同じ感覚を得ることができるか?と問われれば、それもまた異なります。なぜならボトルの1杯目と最後のグラスでは、色も香りも味も、全く違うことがあるのです。ワインは蒸留をしない醸造酒ですので、中にはブドウの果皮由来の成分が混在しています。数時間でも立てて置くと比重の重い成分が底に向かってゆるやかに沈殿します。赤ワインは成分が濃いのは目で見ても分かりますが、一見では透き通ったように見える白ワインでも、良質なものは酒石酸などが沈殿し、そこに触れているワインはコルク付近の1杯目とは味が異なります。

ワインはボトル1本が小さな宇宙で、良い生産者のワインはグラスに注いだ瞬間からニホニウムの原子核の崩壊を観察するように一瞬にして香りが変化してしまいます。そのため同じテーブルで飲んでいる全員が同じものを飲んでいるとは限らないのです。銘柄と年数が同じボトルというのは、同じ情景が観測できる確立が高いといった程度しかなく、まったく同じものが入っているとは限らないのがワインの難しいところです。
余談ですが、ウイスキーや蒸留酒というのはボトルによる個体差が非常に少ないのが特徴です。1つのカスク(樽)を詰めたものであれば、250本中の2本を購入しても観測できるほどの誤差が無いのが常です。

最高級ワインは未知なる領域

実は私自身、予算の関係上そこまで多くのボルドーワインを飲んだ経験がありません。シャトー・ラトゥールには恵まれていて、イベントでファーストラベルを3種類、セカンド、サードも飲む機会がありました。昨年末は私の誕生日年の1989年のラトゥールも開け記事にしています。シャトー・ラフィットは、セカンドラベルのカリュアドは何度か飲んでいるのですが、ファーストラベルは今回が初めてでした。1万円以上のワインは数百本以上飲んでいるのですが、1本10万円を超すワインとなると飲む機会が限られます。

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エノテカで偶然にも見つけたテイスティングイベントでは、最も有名なボルドーワインの1本といっても過言ではないラフィットのファーストラベルと、カルト的な人気を誇るイタリア・トスカーナのマッセートMASSETO、ナパ・ヴァレーのボンド・ヴァシィーナVECINAを同時に飲むことができました。
前菜代わりに先日紹介した「味が変わった!ルイ・ロデレールの新シャンパーニュ3種類飲み比べ」の用意もあり総額50万円以上という一般人からは信じられない豪華な企画です。

シャトー・ラフィット・ロートシルトのテイスティングノート

2012年 セパージュ カベルネ・ソーヴィニヨン 91% メルロー8.5% プティ・ヴェルド 0.5%
作柄なのか補助品種として少量だけプティ・ヴェルドが入っているようです。9割以上がカベルネ・ソーヴィニヨン中心のブレンド比率です。

シャトー・ラフィット・ロートシルト 2012年 143,000円(税抜価格130,000円)

書き殴りのテイスティングメモを転記してみます。

カリュアドの延長線上、クリーミー、獣、腐葉土、ラトゥールよりスケール小さい。
とにかく滑らか、クリームチーズと小麦粉、バター、生クリーム、小さな小粒の酸味。
砂糖菓子、抜栓して時間短いのに酸味が目立つ。不快感はないけれど、なんていうかシシェルのポイヤックがめちゃくちゃ状態良い程度。ラトゥールのような湧き上がる獣は感じられない、あくまでカリュアドを洗練させた味わい。スケールが狭く小さい、スワリングしても壮大な感覚はでない。2008年のラトゥールを開けた時よりショボイ、よく枯れたラフィをのんでいないので不明だけれど現時点では2012年が良くなっていく感覚はない
2008年のラトゥールの方が今後の変化を期待させる。これだと、まだパルメ94年の方が美味しい、奥ゆきが乏しい。香りがとても良いだけ残念、現時点では究極のエレガンスではない。
時間経つと湧き上がる古樹感、ずっとスワリングしても酸化に強い、最後に残る香りはケモノ、動物の毛の匂い。

ポイヤック村で同格のワインはラトゥールを6回ほど、セカンドのカリュアド・ド・ラフィットを3回ほどしか体験がないので、過去の経験に基づいてのレビューとなります。

マッセートMASSETO 2017年

マッセート MASSETO 2017年 110,000円(税抜価格100,000円)
品種 メルロ(100%)

最高級の空想上の香水、キリアンより複雑で伽羅や香木の域まで達している。
イタリアの美術館、教会、ローマのVia del Corsoにあるサンティ・アンブロージョ・エ・カルロ・アル・コルソ聖堂に入ったときに広い空間から降り注いでくるような神々しい香り。
酸味が非常に強いのに舌が痛くない、ワインという概念を飲んでいる。音が大きいのに耳が痛くならない演奏のように不思議な感覚。余韻は意外にも短い、メルローなのにキレがよく、すっと消える。フランスのメルローではありえない特性がある。サンジョベーゼの土の香りに似ている、湧き上がるパワー、少しインク。神の存在を信じることができるような神秘を持ったワイン。

でもでも、いくら出すか?聞かれたら現時点ではボトル2万が限界。これならボルドー右岸のシャトー・クィンタス飲みたい。香りは確かに良い、飲めるインクというか、とにかく奇跡的な香りを持っていることは確か。
まだ、たった4年しか経過していないので、あと20年〜30年後にこのワインを飲んだら、協会のステンドグラスから御光が差込、大理石の象嵌細工の前にひざまずくかもしれない。それだけ何か感じさせるものが存在した。

ヴァシィーナ VECINA 2016年

ヴァシィーナ VECINA 2016年 107,800円(税抜価格98,000円)
品種 カベルネ・ソーヴィニヨン

古書の部屋、スパイス、中東のオリエンタル、生臭さのギリギリを攻めている。
ジビエ、生の黒胡椒、油性絵の具。2〜3万円かな?この前のチリの方がすごい!ピーロードのチリ。余韻は短い、摺り下ろしたゴマ甘い輸入キャンディ、ギリギリ埃っぽい、酸味より渋み。

こちらはマッセートと比較すると想像できる範囲でのレベルの高さ。カベルネ・ソーヴィニヨンというよりは、ジンファンデルの良いやつみたいな、なんか不思議な香りが出てきたことは確か。
以前、ピーロートジャパンのイベントで飲んだ「Sena, Aconcagua Valley, Chile 2016(¥22,506)」の方が、心を揺さぶる香りと奥行き。ヴァシィーナはボルドースタイルだけれど、ボルドーになれていない。
一本もらえるならチリのセーニャかな。

1本のボトルに10万円以上の価値があるのか?

数千万円以上ものお金を自由に使うことができる貴族階級であれば、このような偉大なワインをセラーにケース単位(12本)で眠らせておけば良いですが、一般庶民のワイン愛好家からしたら無理に揃える必要は無いと思います。誕生日や結婚記念日、子供の生まれ年などのビンテージを記念として購入するのは良いことですが、晩酌として選ぶにはコスパが悪すぎます。

また1級品だからといって安直に美味しいわけではありません。美味しいと思える「経験値」と「適切なタイミング」で飲む必要があります。これが他のお酒と比べて難しいところです。

正直、今回テイスティングしたラフィットを飲むのであれば、オフビンテージ(不作)と呼ばれる1994年のシャトー・パルメ(実売価格4万円程度)を選んだ方が堪能的な体験ができます。熟成が足りないと思われるかもしれませんが、少なくともこのラフィットは今ではありませんでした。

先日飲んだ、シャトー・ラトゥールはワインの骨格がしっかりしていて「抜栓するのには早すぎる!」と思ったのですが、2012年のラフィットは骨格が弱いように思います。ブドウ自身の力というか、ラトゥールにあるような長期熟成に向いているタンニンを持っていないように思いました。香りは優れていて、燻煙というか動物・ケモノの毛を思わせるようなポイヤックに特有の香りがありますが、その良さを発揮できていません。

美味しいボルドーワインというのは、生産者(畑)これが大切で、次に作柄(収穫年)、さらにこの2つが揃ったあとに適切な方法で、適切な期間を瓶の中で熟成するということです。昨年飲んだシャトー・ラトゥール1989年はその全てを兼ね備えていました。
今回飲んだワインはプリムール試飲会のように未熟なワインを、素性を確かめるために飲んだようなものです。とても官能的という域までは達していません。某漫画で熟成の若いシャトー・マルゴーを飲んで胎児殺しと表現していましたが、2012年のラフィットもまた「今ではない」ということだけは確かです。

私自身の経験値の問題か、実際にそうであるのか分かりませんが、1980年~1990年代のボルドーと昨今のボルドーは元の素性が違うように感じてなりません。2012年のラフィットを30年間寝かせて美味しくなるのか?と聞かれたら「分からない」と答えてしまいます。無理に若い1級シャトーをかうのであれば、しっかりと熟成した作柄の良い年の「シャトー・ピション・ロングヴィル・バロン」を飲んだ方が感動を得ることができます。

 


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