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PENSIER

【翻訳】マスネ&シルヴェストル《四月の詩》

訳者まえがき 優れた詩が、歌曲の詞としても優れているとはかぎらない。例えばマラルメの詩が世紀の傑作であることは誰の目にも明らかであるが、絶対的な美を湛える彼の詩にとっては、ラヴェルの旋律さえ余計な異物である。他方、マラルメと比べれば明らかに...
PENSIER

【翻訳】グノー:ラマルティーヌの詞による4歌曲

訳者まえがき 「私たちは、懐郷病と呼びなされるあの感情を踏まえ、彼は懐天病を患っていると言ったものだ1)」――ラマルティーヌによる自伝的小説『ラファエル』の一節である。まさしく彼は、天への憧憬を抱えていた。また同時に、ロマン主義者である彼に...
PENSIER

【翻訳】フォーレ&レルベルグ《イヴの歌》

訳者まえがき 歌曲の困難は、詩と音楽の調和に存する。歌詞を伝えようとするあまり音楽が疎かになってはいけないが、かといって音楽性を過度に重視すれば、歌詞は無意味な添え物にすぎなくなる。歌詞と音楽が、均衡を保ちつつ、相互に補い合うような作品が、...
MEN'S FASHION

フロックコートをめぐる随想

懐古趣味が高じて買ってしまった、年代物のフロックコートがある。購入先の店主によれば、1930年代に英国で仕立てられたものらしい。フロックコート自体は19世紀の衣服であるが、なるほど確かにこの一着は、典型的な30年代の仕立てである。肩は着用者...
PENSIER

年の瀬に寄せて

コロナ禍によりパソコンと向き合う時間が一層増した2020年、相変わらずインターネットは騒々しい。 かつて執筆は、限られた者のたしなみであった。自らの言説を書物に編み世に問うには、作家としての力量や、知識人としての教養が求められた。出版社の眼...
PENSIER

【翻訳】レミ・ド・グールモン「ポール・ヴェルレーヌ」(『仮面の書』より)

訳者まえがき とある高名な仏文学者に聞いた話では、ヴェルレーヌを専門とする研究者は意外に少ないらしい。マラルメやランボーと並び称されるこの大詩人に専門家が付かない理由は、氏いわく後期の作品群にある。ある作家を専門的に研究する場合、何よりもま...
PENSIER

【翻訳】レミ・ド・グールモン「ヴィリエ・ド・リラダン」(『仮面の書』より)

訳者まえがき ヴィリエ・ド・リラダンは、革命が生んだ最後の悲劇である。彼はフランス有数の名家の血を引きながらも、没落貴族の末裔として、貧民同然の暮らしを強いられた。「現代において真に高貴な唯一の栄光たる大作家の栄光をば、わが一族の威光に付け...
PENSIER

【翻訳】レミ・ド・グールモン「ロベール・ド・モンテスキュー」(『仮面の書』より)

訳者まえがき デ・ゼッサントおよびシャルリュスのモデルであり、ポール・エルーやエミール・ガレのパトロン、そしてブランメルの系譜に連なる最後のダンディでもある、ロベール・ド・モンテスキュー伯爵――19世紀末フランスの芸術や社会について調べてい...
PENSIER

【翻訳】レミ・ド・グールモン「アンリ・ド・レニエ」(『仮面の書』より)

訳者まえがき 「今どきレニエを読むとは珍しい」――古書店の老店主にそう言われたことがある。つくづくお世辞のうまい店主である。この詩人を愛する者にとって、過去への愛に勝る美徳はないのだから。 アンリ・ド・レニエの作品は、今日ではほとんど読まれ...
PENSIER

【翻訳】レミ・ド・グールモン「アルベール・サマン」(『仮面の書』より)

訳者まえがき 歴史に名を残すことなく、忘れ去られた詩人たちがいる。凡庸とみなされ、群小詩人と一括され、学界からも出版界からも等閑視されてきた彼らの作品は、はたして大作家たちのそれと比べて本当に劣っているのだろうか――これは文学史の根本問題で...
MEN'S FASHION

この夏改めて考える、ジョン・スメドレーの魅力

はじめに 5月も末となり、走り梅雨の合間に差す陽光の暖かさが、早くも夏を予感させます。盛夏に向けて支度を整えるには、うってつけの時期です。 ウェルドレッサーを志す日本人を毎年悩ませるのが、夏の暑さです。湿度の低いヨーロッパであれば、真夏でも...
ライフスタイル

手漉きの伝統を今に伝える、アマトルーダAmatrudaのレターペーパー

これまで本誌では様々なレターペーパーを取り上げてきましたが、そろそろ筆者のとっておきをご紹介しましょう。アマルフィの製紙工房、アマトルーダの手漉き紙です。 1. 繁栄と衰退 現代ではすっかり観光都市となってしまったアマルフィは、かつて紙の名...
ライフスタイル

ハードタイプのシーリングワックス5選(附:封蝋郵送の手引き)

※封蝋の種類や押し方については、拙稿「封蝋のすゝめ」をご覧ください。 はじめに 封蝋の歴史は古く、近代郵便制度が成立するはるか前から、西洋の人々は手紙に蝋で封を施してきました。しかし現代では、郵便の仕分け過程に機械が導入され、これが手紙を手...
PENSIER

事物と神秘――二重空間・カラヴァッジョ・ボデゴン

はじめに 一枚の絵画が私をとまどわせる。 画布のこちら側にはみ出しているかのような果物籠に誘われ、私の目は画中の世界に迷い込む。すると私は、食卓の向こうに、神秘的な光を浴びて輝くイエス・キリストそのひとを見出す。数多の信者たちが愛し崇めてき...
TRAVEL

美篶堂伊那製本所を訪ねる

以前丸の内にある文具店ANGERS bureauを訪れた際、あるノートが目に留まりました。シンプルなくるみ製本でしたが、小口は見事に砥いであり、端正な美を湛えていました。確か表紙には、柔らかい紺色の紙が使われていたはずです。使い込めば、きっ...
ライフスタイル

フレキシブルタイプのシーリングワックス3選

はじめに 封蝋を押した手紙を送る際、どうしても気になるのが、せっかくの封蝋が割れないかということです。以前お伝えしたとおり、シーリングワックスには、割れやすい伝統的なハードタイプと、可塑性が高く割れにくいフレキシブルタイプがあります。幸い日...
ライフスタイル

古風な畝が美しい、レイド紙便箋&封筒3選

はじめに レイド紙laid paperとは、簾の目が入った紙のことです。今でこそ特殊な紙として扱われていますが、18世紀半ばになめらかなウーヴ紙wove paperが発明されるまで、ヨーロッパではレイド紙が一般に使用されていました。縦横に走...
ライフスタイル

封蝋のすゝめ

はじめに 白い封筒は、確かにそれ自体として美しいものに違いありません。しかし筆者のような懐古主義者には、ただ糊付けされただけの封筒は、どこか物足りなく感じられます。それはまるで、意図的なセンツァ・クラヴァッタという風でもないのに、ネクタイを...
ライフスタイル

伝統とモダニズム――グムンドGmundのレターペーパー

はじめに ドイツ南部、オーストリアにほど近いアルプスの山間に位置し、豊かな水を湛える氷河湖、テーゲルン湖――そこからさらにマングファル川に沿い1キロほど北上したところに、一軒の製紙工場があります。ドイツを代表するペーパーファクトリー、グムン...
PENSIER

鏡の幻惑――エドゥアール・マネ《フォリー・ベルジェールのバー》

はじめに 現在、東京都美術館ではコートールド美術館展が行われています。モネの風景画やルノワールの風俗画、そして多数のセザンヌ作品も興味深いところではありますが、何より注目すべきは、エドゥアール・マネ晩年の傑作《フォリー・ベルジェールのバー》...
ライフスタイル

昔日の優雅――G. Laloのレターセット

イギリスのスマイソンSmythson、アメリカのクレインCrane & Co.――欧米各国には、それぞれ国を代表するソーシャル・ステショナリー・ブランドがあります。フランスの場合、そのようなブランドとしてG.ラロG. Laloが挙げられまし...
PENSIER

山梨県立美術館特別展「黄昏の絵画たち」覚書

はじめに 《種をまく人》をはじめとするミレーのコレクションで名高い山梨県立美術館では、「黄昏の絵画たち――近代絵画に描かれた夕日・夕景」と題する特別展が、8月25日まで開催されています。終了間際のこの展覧会を今頃になって取り上げるのは、つい...
ライフスタイル

古い洋書の傍らに――クリストフル アルビ レターオープナー

フランスの書籍を渉猟していると、時折アンカット本に出会うことがあります。天や小口が裁断されておらず、ページがつながったまま販売されている、あの時代錯誤な本のことです。 Amazon.frでcomme neuf(新品同様)と表記されている古書...
PENSIER

動物的な友人――ドガ《マネとマネ夫人像》

上野にある国立西洋美術館では、現在松方コレクション展が開催されています。修復された《睡蓮、柳の反映》の公開が話題を呼んでいますが、この企画展にはもうひとつ、著しく破損した絵画が展示されています。 エドガール・ドガ《マネとマネ夫人像》です。と...
PENSIER

雅宴画の裏に隠されたもの――ヴェルレーヌ「月の光」

「雅宴画Fête galante」――ヴァトーが美術アカデミーに入会する際、《シテール島への巡礼》に与えられた名前です。その後は同作品のような絵画に用いる一般的な呼称となりました。 この語句はまた、19世紀の詩人ポール・ヴェルレーヌが著した...
PENSIER

日常の美――バレル・コレクション展覚書

渋谷にある総合文化施設Bunkamuraは、喧噪に満ちた駅前とは対照的に、静寂と平穏、そして知的な楽しみに溢れています。 この場所で現在行われているのが、「印象派への旅 海運王の夢――バレル・コレクション」という企画展です。19世紀末から2...