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『高級ワインとは何か?』シャトー・マルゴー2018年とムートン2017年のテイスティング

年末に、「『超高級ワイン』は本当に美味しいのか?10万円以上のワインを同時テイスティング」という記事を公開しましたが、今度はシャトーマルゴーとシャトー・ムートン・ロートシルトの2本をテイスティングしました。ワインを探求する者の端くれとして、一度くらいは五大シャトーを真剣に飲んでみたいという気持ちがあったためです。

結果として、右岸のシャトー・オー・ブリオンを除いて、シャトー・マルゴー、ムートン、ラフィット、ラトゥールを全て飲むことができました。セカンドラベルを含めると、かなりの量の王道のボルドーを飲む経験ができました。SNSで見かけるハードコアなワインマニアは、このような高級なワインを毎日のように開けていますが、私はイチ庶民のため、この程度の経験から推測することとします。

高級ワインが難しい理由とは

高級ワインが他のお酒と比べ難しいという理由のひとつに、ワインの状態を自分自身で判断しなければならないというものがあります。どういうことかというと、ワインのコルクを抜いた時点で、正確には抜く前から、そのワインの素性を明確にして、状態が良いのか悪いのか、優れているのか、といったことを飲み手が判断しなければいけません。

仮にフレンチレストランであれば、優れたソムリエが銘柄選びからヴィンテージ、抜栓したときの状態まで代わりに判断してくれますが、自宅で飲むのであれば自分自身でそれら全てを考えなければならないのです。そしてワインが高級になればなるほど、その判断は困難を極めることになります。なぜなら高級ワインというのは、長期保管が前提とされ、飲み頃が10年から20年、長いと50年以上のことを考えられて作っているものさえあります。そうなると、それらのワインをいつ開けるかと判断するだけでも、豊富な経験と判断能力が必要となります。

美味しさのピークがいつなのか誰も分からない

芸能人が出演する番組で、ワインのテイスティングしながら「若すぎる」と感想を述べているのを見たことがありますでしょうか。これはまさに正しい表現で、仮に10万円以上する高級なワインでも、飲み頃がずれてしまうと美味しくないと思ってしまうのが現実です。もしくは間違って、今開けてしまったことを後悔してしまうかもしれません。

西洋梨を買って、未熟なまま皮を剥いてしまっても、その芳醇な香りは楽しめませんし、逆に果実が熟れすぎて腐ってしまうような状態では、味も酸っぱくなり美味しさのピークは過ぎてしまっています。ワインというのは瓶の中で同じことが起こっています。そして、大まかな目安こそあるものの、生産者やそのボトルの個性によってもピークのタイミングが変化していきます。

例えばシャトー・ラトゥールは年間約35万本以上もボトリングしています。ブドウという天然の農作物を、手で耕し、手で収穫し、それを醸したものがワインとなります。ですので、たとえ同じ年数表記のワインであっても中身がボトルによって全く異なるということは想像に容易いはずです。

シャトー・マルゴー2018年

私自身、一度は飲んでみたいと思い続け何年も経っていました。空想上のシャトー・マルゴーというのは、シャトー・パルメをさらに艶やかに、エレガントにした上位互換のような存在だと思っていました。

初めて飲んだ感想としては、パルメとは全く傾向が違うということです。王道でオーセンティックな味わいで、どこか男性的なニュアンスさえ持っているように思います。晩餐会で提供されるような格式ある、高貴な香りを体験することができます。それはこのワインが持つ凝縮感や、ぶどうの持つ力強いエネルギー、またそこから生まれる香りによってインスピレーションを与えます。

樹齢の長いボルドー特有の深い土の味わいを感じることができます。メルローが主体になっているのですが、ありがちなボルドーのメルローの甘い香りではなく、黒に近い深紅の薔薇の花弁ようなどっしりと深みのある香りを持っています。そしてそれよりも目立つのは、カベルネソーヴィニヨンの味わいで、ヴィンテージが新しいにもかかわらず、口に刺さるという事は全くありません。若いカベルネ・ソーヴィニヨンというのはネガティブな印象が強く、安物だとイガイガしたり硬いタンニンが気になったり、口に入れた瞬間後悔するようなものも多く存在します。実際に、同じヴィンテージのシャトー・コス・デストゥルネルを試飲したとき、なんて渋い仕上がりなんだと後悔してしまいました。

ところがこのシャトーマルゴーは、まだ3年しか経っていないのに棘は存在せず、まろやかでそれでいて骨格がきっちりとしていて、確実に40〜50年以上は持つであろうと思わせるポテンシャルがあります。

正直に言って、このマルゴーが飲み頃を迎えるのは私が50~60歳になった頃だと思います。テイスティングしたメモには、2050年以上が飲み頃と書き残されています。もし、ボトリングされて4~5年で美味しいマルゴー(村)が飲みたいのであれば、アルタエゴ・ド・パルメやシャトー・ボイド・カントナック、シャトー・ディッサン何かをお勧めします。ボトリングされて15年程度であればシャトー・パルメも良いかもしれません。

以前、1960年代のシャトー・パルメを飲みましたが、美しい華やかを残しながらも、さすがに枯れている印象を受けました。そのような半世紀以上前のマルゴー村を飲むのであれば、シャトー・マルゴーは最適解となりそうです。そういった意味でも、記念日に高級ワインを飲もうとなったとき、若いシャトー・マルゴーを空けるというのはあまりお勧めはできません。

シャトー・ムートン・ロートシルト2017年

テイスティングメモに、「テンペスト・嵐のような」というメモが残されています。ピンクペッパー、紹興酒、小麦で作った醤油、落ち着きのない雑多な味わい。
今までプティ・ムートンという2ndワインを飲んでいますが、セカンドとは味わいは全く異なります。こちらも古樹を感じさせるのですが、どこか骨格が弱く不安定なワインに思いました。
ポイヤックにしては酸味が強く、獣のような香りはほとんど感じることが出来ませんでした。正直少しがっかりしてしまったというのが本音です。

ヴィンテージや飲んだ時期がバラバラですが、2017~2018年に限っていうとラトゥール>マルゴー>ラフィット>ムートンの順番で優れた品質なのではないかと予想してみます。ラフィットやムートンも、素晴らしい黄金期はきっとあったはずですが、2010年後半にかけて作り方が変わったためか、葡萄が変わったためか分かりませんが、これらが20年経ってどれほど美味しくなるかは分かりません。

これ以上は水先案内人が必要

単独でワインを楽しむのであれば、1万円〜2万円程度のワインがいったんの到達点となります。それ以上は単独で進むのは困難な道になっていきます。登山も航海も、行き先が険しいほど安全に進むにはガイドや水先案内人が必要です。
ワインの場合も10万円を超える価格帯になると、そのワインの楽しみ方を知っている人に案内してもらわないと、パフォーマンスを発揮することは不可能に近いです。シーンに合った銘柄の選び方、適切な熟成させる期間、ワインを開けるときの季節や食事、抜栓するタイミング、デキャンタージュの有無など、熟練者でないと的確に判断するのは極めて困難です。使用するグラスの選び方と、注ぐ量ひとつとっても無数の選択肢があるのです。

高級ワインの大きな問題

それ以前に、このような5大シャトーのような高級ワインには大きな問題が内包されています。生産者は作ったワインをなるべく早く売って換金しなければなりません。ですが、よく熟成されて美味しく飲めるまでには四半世紀以上掛かるのが当たり前の世界です。つまり商社、酒販店、飲食店、消費者のどこかで、飲み頃になるまで大切に保管されていなければならないのです。

ごく一部のインポーターは、バックヴィンテージを保管していますが本数は限られていますし、多くは早い段階で売却されてしまいます。酒販店も一部は保管しているかもしれませんが、キャッシュフローの関係からたくさんの在庫を何十年も抱えるのは難しいことです。有名所でいうとマーラーベッセなど、スイスやフランスのワイン商には長期間自社のセラーで熟成させてから適切なタイミングで出荷させるようなところが存在しますが、日本にはほとんどありません。そうなると、消費者が自分のワインセラーで何十年も抱えることになるのです。

1~2年であれば適切に保管できても、それが四半世紀以上になると状態が良いワインというのは激減してしまいます。ネットショップやオークションを見ても、コンディションの良い昔のボルドーはほとんど流通しません。エノテカのセラーでも80年代以前になると、液面がショルダー以下のような湿度が足りない状態で保管されていたものが販売されているのです。

そういったわけで、飲み頃はずいぶん先にあるのに、それを入手するというのは一般人では極めて難しいということです。そんな時、ワイン愛好家や水先案内人がいると、どこからともなく状態の良い古酒を大量にストックしている店や人物につなぎ合わせてもらえ、本当においしい高級ワインを楽しむことができるのです。

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