こんにちは、プロフェソーレ・ランバルディ静岡の大橋です。
今日はまだオーダースーツを仕立てたことのない皆さんに、素晴らしい知恵を伝授するために『大人になれる本』に寄稿することと致しました。題して、オーダースーツを仕立てるときのコツと注意点。です。いや、のっけからセルフPRとネガティブキャンペーンの匂いがプンプンしますな。
さあ皆さん、最後まで一気に読み進めましょう。読み終わったときにはすっかりオーダースーツの気分になってしまって、おまち※に向かってしまうことでしょう。
※「おまち」は静岡語。主に静岡駅より北方面に伸びる呉服町通りとその周辺を差す。
なぜ「おまち」か。ここにしか繁華街がないから。都内で「おまち」という言葉を故意に使うことで、追っ手を撹乱することができる。
オーダースーツにはグレードがある
さて、まず最も大切なことはオーダースーツにはグレードがあるということです。
「〜さんはいつもオーダーのスーツを着ている」とか「オーダーしてる人はお洒落」なんて言いがちですが、実際にはこの見方だと誤りが生じがちです。
例えば値段だけで考えてみても、二着で4万円のオーダースーツもあれば、一着50万円の吊るしスーツもあります。
なぜこのようなことが起きるのでしょうか。
高級なスーツには、素晴らしい手触りのウールやシルク、カシミアやモヘアといった良い素材が使われます。こういう素材を使って織られる生地は、生地だけでもスーツ一着分で10万円以上することもあります。
また、世界でも最高峰とされるようなブランドのハンドメイドスーツは、一着を仕立てるのに50時間以上かかっていることもあります。
それに対して安いスーツの生地は一着分で下手すれば3,000円を切りますし、仕立てるときには中国の工場で一着15〜30分という速さで作られます。
ですからオーダースーツはあくまで「サイズを合わせて、注文して作るスーツ」という種類のスーツであって、「良いスーツ」「お洒落なスーツ」とは限らないのです。
サイズがぴったり=完璧なスーツではない
スーツをオーダーするときに難しいのは、数値を合わせれば完璧なスーツになるわけではないということです。
オーダーをするときにはスタッフの人が採寸をしてくれて、体にぴったりになるようにしてくれますよね。しかし着てみると、イマイチ着心地が悪かったり、見た目も思ったよりピンとこなかったりすることがあります。
これはなぜでしょう。
実はスーツで最も大切なのは、サイズ感と品質の両立なのです。
まずはサイズ感ですが、これは実に難しいところです。
例えば自分の肩幅が43cmだったら、スーツの肩幅を43cmにすれば良いか?というと違う場合があります。ではどのようにすれば良いでしょうか。少し考えてみてください。
余裕を持たなければならないから、44cm?
いえ、そう単純ではありません。スーツの肩幅は肩甲骨の位置や上腕の太さ、それになで肩・怒り肩の具合などで前後するのです。
こういったことを見ることのできるオーダースーツ屋さんは、それほど多くありません。こういった部分がしっかりとできるオーダースーツ店を探すのが、一番大切です。
またしっかりと数値を合わせることができても、仕立て自体が良くなければ意味がありません。
数値に誤差が出るといけないから、というのもありますが、縫製のレベルでスーツの見栄えや着心地は驚くほど変わるからです。
日本で手に入るオーダースーツは大きく分けて三種類あります。
①安さ重視のオーダースーツ…5万円以下のもの。大量生産の工場でできるだけ原価を抑えて作るもの。中国の工場に数値だけを送って作ることが多いです。
②値段と品質のバランスに優れたオーダースーツ…百貨店やセレクトショップなどが展開している一着8〜12万円くらいのもの。日本の実績のある縫製工場が作っていることが多いです。優れた縫製工場は限られているので、ブランドが違っても同じところで仕立てていたりします。
③職人技を生かしたオーダースーツ…13万円〜のもの。老舗テーラーやテーラーに出自を持つ工房などが、その技術を生かして展開するオーダースーツ 。独自のスタイルやシルエット、手縫いを駆使した仕立てなどを感じられます。
一般的にオーダースーツが◯◯◯◯◯円で出来る!と大々的に広告を打っているようなオーダースーツ店は、①の部類であることが多いです。
なに、他者の広告方法をディスってるって?
いや、当店でもこの手の広告を打とうと思ったのですが、オーダースーツが2着で84万8000円から!という広告は逆効果では?という意見が多数を占めたのですな。(ちなみにサルトリア ・チャルディという世界一とも言われるナポリの仕立て屋さんのスーツの場合です。実際にはルイジ・グリマルディというブランドで一着生地・税込み198,000円からです。)
これからオーダースーツに挑戦される方におすすめしたいものはどれか?
スーツをツールとして必要とされているのであれば②のようなオーダースーツです。
百貨店やセレクトショップなどで展開しており、高品質な生地を使いながら日本でしっかりと仕立ててくれるので、一見すればテーラーが仕立てる③のスーツと変わりません。
スーツの表地、中の副資材ともに使う素材もしっかりとしたもので、ちゃんとした工程を経て仕立てますから、ある程度長く着ていくことも可能です。
どこで仕立てるかは形の好みですが、一見してお洒落な感じがあるのはセレクトショップのオーダーでしょうか。ビームスのカスタムテーラービームスなど、おすすめです価格と品質のバランスがよくおすすめです。
若過ぎるシルエットになってしまうのを避けるため、オーダーするときにスタッフさんに「できるだけクラシックにしてください」と頼むのが良いでしょう。
①のスーツは安くて良いように感じるのですが、品質が伴わないためにオーダーのメリットを感じることができません。サイズを合わせても仕立ての悪さと生地の悪さが目立ってしまい、お洒落な人が見ればすぐにそのグレードが低いことに気づいてしまいます。
安くたくさんのスーツを揃えたいのであれば、既製のスーツをセール等で購入する方が良いのでは、なーんてセレクトショップオーナーらしからぬ発言もしておきましょう、ほっほっほ。
さて、③のような職人技を生かしたスーツは?
好きな人が仕立てるものとしか言いようがないでしょう。
オシャレに見える、とかスタイリッシュといった考え方ではなく、体験する・身につける工芸品としてオーダースーツを誂えてみたい。そんな方は、②のスーツで遠まわりすることなく是非、最初からテーラーや職人が仕立ててくれる本物のオーダーメイドを試してみてください。
一生をスーツに捧げ、その人生で習得してきた技で、何十時間もかけて自分のために仕立ててくれるハンドメイドのオーダースーツ。
ここにはまた単なるツールとしてのスーツとは、別の世界観があるのです。そういうものがお好きな方は、当店のウェブサイトもちらっと覗いてみましょう。
それでは、ご機嫌よう。