ワインを長くやっていると、先入観によって本当に価値のあるものを見逃してしまうことがあります。
例えば、ブルゴーニュであれば「ジュヴレ・シャンベルタンやヴォーヌ・ロマネが最もおいしいワインの村である」 「評価されている村こそが素晴らしい、他の無名な村は味わいが劣っている」と勘違いしやすいです。
なるべく先入観を排除しようとしているのですが、バーのソムリエールが「ジヴリはどうでしょうか?」と提案していただいたとき、「え……ジヴリか……」と躊躇してしまいました。
ジヴリ プルミエ・クリュ セリエ・オー・モワーヌ 2017年 ドメーヌ・テナール
結論からいうと、感銘を受けるほどに誠に素晴らしい生産者のワインです。
ヴォーヌ・ロマネにあるスパイスや薔薇の華やかさ、ジュヴレ・シャンベルタンの獣のような畏怖はありません。特徴のつかみやすい香りはないのですが、古典的なブルゴーニュワインを思わせる、信仰心を取り戻すことのできる香りと味わいでした。
言っていることが理解できないかもしれませんが、どこか単調で地味に感じるバロック音楽の演奏を聞くような感覚です。
20年以上の熟成を前提とした古典的な作り。全房発酵ではないものの、キメの細かいタンニンが骨格を支え、5年前なのに追熟を必要と思わせる品質だった。コート・シャロネーズにありがちな田舎臭さを、徹底的に排除した仕上がり。優れたフィサンのようなミネラル感があり、ぶどうに良い緊張感があり、カビや水っぽさは全く無い。
昨今流行りの、「エレガント」「早飲み」「香水」「ジューシーな果実感」「フレッシュ」「透明感」とは対極にあります。
2017年から既に5年経っているにも関わらず、まだまだ熟成を必要とすることがひと目で分かります。
香りは固く閉ざされ、味わいも今がピークではなく、十年以上先にあることが伝わってくるほどです。グラスの温度を上げても、ネガティブな要素が一切出てくることはなく、ワイングラスの中で破綻がありません。
土壌の良さと、生産者が丁寧に作っていることが、この1本からヒシヒシと伝わってきます。傾向としては、「オーセイ・デュレス モノポール クロ・デュ・ムーラン・オー・モワンヌ」のような単一の畑で完成されたワインを感じます。
ワイン初心者にはいささか飲みにくく、慣れてきた人には物足りないかもしれせん。祈りや信仰を思い起こさせるブルゴーニュワインの本質を持った1本です。