コロナが始まった時は、筆者は一過性のものですぐにまた日常に戻れると思っていました。しかしすでにコロナ騒ぎの発端から一年になろうとしています。現在、「第三波」に対する注意報が声高に叫ばれている中、日本にお住いの方々が海外旅行するというのは夢に近くなっています。
そんな中、旅行客が大きな収入源である美術館も打撃を受けています。筆者の住んでいるオランダの話をすれば、現在オランダの260の美術館が一年以内に閉鎖するリスクを抱えているそうです(https://www.dutchnews.nl/news/2020/11/mauritshuis-becomes-first-gigapixel-museum-in-the-world/)。
一方、コロナ禍だからこそ、新たな技術が花開いた事例もあります。今回ご紹介するマウリッツハイス美術館(Mauritshuis)の事例がそうです。
マウリッツハイス美術館はオランダの行政の中心地デン・ハーグにある、おそらくオランダで一、二を争う有名な美術館です。古典様式の美しい建築はかつてナッサウ=ジーゲン侯ヨハン・マウリッツの邸宅でした(Mauritshuisというのは直訳すれば「マウリッツの家」です)。この人物は現在のオランダ王室の家系オラニエ=ナッサウ家の傍系で、かつてのオランダ領ブラジルの総督でした。現在では一般的にブラジルを語るさいにオランダが持ち出されることは滅多にありませんが、かつてはオランダもブラジルの植民地経営に一役買っていたということですね。マウリッツハイス美術館を訪れれば、往時のブラジルを描いた興味深い絵画を見ることも出来ます。
しかし、世界的にマウリッツハイスを有名にしているのはなんといってもかの有名なフェルメールの『真珠の耳飾りの少女』がここにあることでしょう。青いターバンを巻いて、赤く輝く肉感的な小さな唇を少し開いた少女の絵は、写真を見れば誰でも見覚えがあると思います。
マウリッツハイス、フェルメールのこの作品だけでなく、レンブラントなど数々のオランダ黄金時代の名作が展示されています。この美術館が今回(2020年11月26日)、世界で初めてのギガピクセル美術館となったというニュースを目にしました。
ギガピクセル? よく分からないけどすごいね! くらいしか事情に疎い筆者には響いてこないのですが、ものすごい解像度で美術館の内部の様子を見ることが出来るようになったのです。いくつかの美術館ですでにバーチャルツアーは試されていますが、その映像の鮮明さが頭一つ抜け出ているのですね。
美術館というのはふつうタダではありません。中国の国立美術館など例外はありますが(あそこではタダなのです)世界の多くの地域で美術館に入るためには有料のチケットを買う必要があります。ところが、このマウリッツハイス美術館のバーチャルツアーはタダです。まるっきりタダ。
サイトに行っていただくと分かりますが、さらに一度訪れたことのある方は実感できると思いますが、360度で写真が用意されており、まるで美術館を本当に訪れているかのように楽しむことが出来ます。拡大縮小も非常にスムーズで、ズームをすれば作品の隣の解説文も読むことが出来ます(少し読みづらいものもありますが)。
つまり、グーグルマップのストリートビューのような感覚で操作でき、またフロアマップに表示された各部屋をクリックして移動することも出来るので、簡便です。また、自分で勝手に散策するモードと音声ガイドモードの二つを選べます(英語とオランダ語)。VRのゴーグルを持っている方はVRモードも選べます。
また、フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』のような重要性の高い作品は特別なズームや作品解説、はたまた赤外線モードすらあります。この不滅の美しさを誇るかのように見える少女も、実際に見ると年月には逆らえずひび割れだらけなのですが、そうした様子もくっきり見ることが出来ます。これは画期的なことです。美術館を実際に訪れるより多くの情報を得ることが出来ます。
赤外線モード、何がすごいかと言ったら、例えばルーベンスの有名な作品『人間の堕落とエデンの園(The Garden of Eden with the Fall of Man)』をこのモードで見ると、現在描かれている二匹の犬の位置からは少しずれている下書きの線が見られたりするのです。
マウリッツハイス、私はまだ二回しか訪れたことがありませんが、何度でも再訪したいと思わせる魅力のある美術館です。ここ数か月毎週一つの美術館を訪れることにしており、オランダの美術館に詳しい方だと自負していますが、マウリッツハイスはオランダの数多くある(400以上ある)美術館の中でも、訪れるべきリストを作るとしたら、筆頭に入ると思います。
ギガピクセルのバーチャルツアーはこちらから:https://www.mauritshuis.nl/en/explore/the-collection/virtueel-mauritshuis/
スマホでもSecond Canvas Mauritshuis(App StoreかGoogle Play)という無料アプリをダウンロードしてこのバーチャルツアーに参加することが出来ます。
ギガピクセル化をどこの会社がやったかなどの詳細が知りたければ、英語ですがこちらのニュース記事をご参照ください:https://www.dutchnews.nl/news/2020/11/mauritshuis-becomes-first-gigapixel-museum-in-the-world/