Aultmoreオルトモア蒸留所のテイスティング

料理

ウイスキーというのは数ある飲み物のなかでも最も面白い部類に入ります。香りと味の変化が無限大で、その世界に足を踏み入れれば底なしの沼が待ち受けているからです。
ワインも同じように熟成による味や香りの変化を楽しめるのですが、醸造酒のため一度抜栓すると基本的に劣化に進んでいきます。抜栓して数日経った方が美味しいワインは極めて少数ですが、ウイスキーは開栓してから半年放置した方が風味が豊かになることもあり、それが難しくまた楽しみでもあります。

味の違いは何から生まれるか、それは蒸留所、大麦の種類、酵母の種類、樽の種類、熟成年数、温度環境など要因は様々ですが、見落としがちなのが「誰がいつ、どの樽をボトルに詰めるか」です。今回のテイスティングでは日本であまり有名ではないオルトモア蒸留所から5つのボトルを選んでテイスティングしてみました。特別ゲストとして、リナシメントの執筆者である「りんりん」を招いて味について感想を聞いてみました。

5本のうち2本はオルトモア蒸留所がリリースするボトル、残りの2つは独立系瓶詰業者(インディペンデント・ボトラーズ)がボトリング、1つは蒸留所から任意の樽を選び瓶詰めしたものです。

オルトモア蒸留所とは?

公式サイトより引用
 https://www.aultmore.com/

Aultmore distillery was founded in 1897 by Alexander Edward, one of Scotland’s best-known distillers, during the peak of the late-Victorian whisky boom. Supplied to the big blending houses of the day, AULTMORE single malt’s popularity with them gave rise to the distillery’s success, having drawn great admiration for the smoothness of its spirit. In fact, its qualities are so fine and well-balanced that it was soon one of just a few single malts rated ‘Top Class’ by industry experts. https://www.aultmore.com/

オルトモア蒸留所は1897年にスコットランドで最も有名な蒸留所の一つである「アレクサンダー・エドワード」によって、ビクトリア朝末期のウイスキーブームのピーク時に設立されました。当時の大手ブレンドハウスに供給されていたオルトモアのシングルモルトが人気を博し、その滑らかな味わいに絶大な賞賛を受けて成功を収めました。その品質は非常に繊細でバランスが取れており、専門家から「最高品質」と評価された数少ないシングルモルトの一つです。

オルトモア蒸留所の歴史

オルトモアはスコットランド・スペイサイドのキースにあるウイスキー蒸留所で、その名前の由来はゲール語で「大きな小川」を意味するAn t-Allt Mòrというフレーズからいています。1895年にベンリネス蒸留所のオーナーであったアレクサンダー・エドワードによって設立され、当初は水車を動力源としていましたが、すぐに蒸気機関に変更されて70年間昼夜を問わず稼働しました。メンテナンスの時には引退した水車から動力が供給されました。当時の蒸気機関は敷地内に展示されています。

1899年にはパティソンに所有権が移りましたがその年に倒産してしまいました。それに伴い生産量が激減して、蒸留所は閉鎖されることに、しばらく経ち1904年頃に再開しましたが第一次世界大戦中に大麦不足のため再び閉鎖されるという不運に見舞われています。第一次世界大戦の終結後についに蒸留所を再開でき、1923年にはジョン・デュワー・アンド・サンズ(John Dewar and sons)によって買収されました。早くから環境対応に取り組んでいて、1950年代にウイスキー製造時の廃棄物であるドラフを動物の飼料として使用した最初の蒸留所でした。

1968年に蒸溜所のモルトフロア(フロアモルティング)が閉鎖され、1970年に蒸溜所全体が改装されて拡張されました。既存の2つのスチルに加えて新しいスピリッツスチルとウォッシュスチルが設置され、1971年にオルトモアは再オープンとなりました。1998年には、1923年から1925年までオルトモアを所有していたバカルディの子会社デュワーズ(Dewars)に売却されました。

デュワーズのキーモルトにブレンド

1998年からデュワーズに売却されたこともあり、デュワーズのブレンデッドウイスキーにキーモルトとしてオルトモアが使用されています。デュワーズは中核のアバフェルディに続き、ロイヤル・ブラックラ、オルトモア、クレイゲラキ、マクダフが少しずつブレンドされています。

オルトモアは昨今流行りのシングルモルトの中でもマイナーな部類で、日本ではあまり有名ではありません。デュワーズはバランタインやシーバスリーガルのように大衆店でも扱っていることもあるので、もしかしたら少量ではありますが知らずのうちにオルトモアを飲んでいるということがあるかもしれません。

さて早速ですが、テイスティングをしたいと思います。今回は記事のエンターテインメントとして、執筆者のりんりんに無理を言って得点を付けてもらいました。基準としては一番入手しやすいスタンダードな12年を50点基準としてプラス評価、最大100点で評価しました。


オルトモア 12年

4千円代で買えるシングルモルトとしては非常に美味しい一本です。以前の「6千円以下で本当に美味しいウイスキーはどれ?同時抜栓した比較レビュー」であまりに美味しく、レビューのあともジワジワ減って、ハイボールなどで一瞬で飲みきってしまったので再度購入しました。
グレンフィディック系の清涼感がありつつ、昔のグレンリベットのようなコクや飲みごたえを感じられる素晴らしい一本です。

りんりんポイント 50点

トップノートもぎたての新鮮なりんご、アカシアはちみつ、バタートースト。
タンニンの収斂性が雑、立体感がない。氷で冷やすとビターチョコレート系。(りんりん)


オルトモア 18年

実売価格が12,000円とかなり高く、期待して買ったのですが思ったよりも?
12年と比べると華やかさが増して圧倒的な香りの広がり方をみせますが、飲んでみると複雑みや余韻が乏しく、アレ?となりました。過度な期待で買ってしまうと少し後悔する可能性もあります…。これが6~7千円だったら納得なのですが。

りんりんポイント 58点

アップルパイのりんご、マーマレード、消え方が綺麗。
タンニンが消えていく、カラメルやトフィーなど、クリーン。オークが強すぎる。(りんりん)


オルトモア 11年 (La Maison du Whisky)

Bottling serie Exceptional Cask Series Bottled 2018
Stated Age 11 years old Casktype 1st & 2nd Fill Oloroso Sherry Casks
Casknumber Batch AU2107 Number of bottles 2472 Strength 46.0 % Vol.

こちらはフランスのラ・メゾン・デュ・ウイスキーが樽を選んだボトルで、限定2472本の発売となっています。ファーストフィルとセカンドフィルのオロロソシェリーをバテッドしたカスクです。
見るからに濃厚なシェリーカスクの色合いをしています。オルトモアの短熟としては高価で16,000円ほどです。やはり名門のラ・メゾン・デュ・ウイスキー価格なのか、それとも希少な樽だったのか分かりませんがチャレンジ精神が必要です。
ちなみにExceptional Cask Seriesというのは、クライゲラヒやアバルフェルディなど、デュワーズの傘下の蒸留所では何度かリリースされているようです。例外的なカスクシリーズという意味で、特別なボトラーズだけに許可しているようです。

りんりんポイント 84点

干したレーズン、万年筆のインク、デラウェアみたいな小粒のぶどうを干した感じ、青肉メロン。
粘土の高い質感、みずみずしさ、優しいタンニン、余韻が長くて甘い、バニラ。良質なアッサムのセカンドフラッシュのメレン、ホットケーキにメープルシロップを欠けた感じの甘い何か。シナモン、クローブ。(りんりん)


オルトモア 22年 1991 (BBR ベリーブラザーズ&ラッド)

Bottler Berry Bros & Rudd (BR) Bottling serie Berrys’ Vintage 1991
Bottled 2014 Stated Age 22 years old Casknumber 6089 Strength 46.0 % Vol.

みんな大好き!英国Berry Bros & Rudd (BR)のBerrys’シリーズです。
1991年に蒸留、2014年に瓶詰めされた一本です。22年という超熟ですが色が薄いことからバーボン樽が主体だと思われます。特に何本詰めたなど書いておらずざっくりとした情報です。
実は2019年冬には抜栓して、そこから放置している一本です。開けたては渋みしか出てこない最悪の一本、ハイボールでも美味しくないというびっくり品質かと思ったのですが、忘れたころに飲んでみると「おぉ〜!なんじゃこりゃ」と感動的な結果に。言葉にできないので、りんりんに表現してもらいました。
半年以上経っていますが、まだまだ飲み頃ではなさそうです。開栓後のピークが1年以上かかるウイスキーがあるとは…とほほ

りんりんポイント 80点〜85点 ※グラスに注ぐと後から木の香りが馴染んで一体化していく。

森林、杉の木と腐葉土。
バタートースト、ヒノキと杉、針葉樹林系の木の香りが強い、露天風呂の風呂桶。
りんごではなく柑橘系、甘夏とか皮が渋いけい、キレが良い、アルコールのウィッシュ感が出てくる。(りんりん)


オルトモア 18年 2000 (アデルフィ)

みんな大好き!アデルフィ、関連記事もどうぞ アデルフィへの信仰心が試されるウイスキーセット
いい色です。着色なしでこの色合だと期待できますし、18年というちょうど良い熟成期間です。ただし、開けてみるとびっくり固くて飲めたものじゃない。なんというか、キャラメル系の焼菓子を嗅ぎながらタンニンの強いオルトモア18年って感じです。こちらもまた2019年に抜栓して今月飲んだのですが、半年以上経ってようやく飲み頃を迎えつつあります。

オルトモアのカスクは香りが開くまでに時間がかかるようです。

りんりんポイント 90点

バタースコッチ、カルヴァドスのようなりんごの匂い、南国の花の蜜、新しく届いた新聞紙、レーズンやプルーン、円熟した果実、ちょっと経つとカスタードプリン、アーモンド、メープルシロップ、ラングドシャみたいなお菓子感じ。焙煎したカカオ豆。(りんりん)


オルトモアの総評

初めて飲んだのが12年でしたが、料理に最も合うのは12年、それもハイボールです。ほかは料理には全く合わないと思います。食後にゆっくり楽しむ、もしくは甘めのデザート、フルーツなどに合わせるのが良さそうです。
BB&Rやアデルフィにいたってはストレートで少量ずつ、リビングでゆったり楽しむのに向いている味わいです。時間をかけて1ショットに30分以上かけてもおそすぎることはありません。

今回は何千種類もあるオルトモア蒸留所のボトルの中から5本を抜擢してみましたが、そこから生まれてくる香りや味わいに驚くほど差があることが分かりました。そして難しいのは、開栓直後に飲んだ評価と半年経った時の評価が全く分かれることです。同一のカスクNoのボトルであっても、バーでショット飲みしていたら感想が人によってバラバラな結果になると思います。

ただ、飲み比べて分かったことは、オルトモアは「りんご」「森林」「バター」で構成されているということ。そして、なによりも「ゆっくり飲む」というのが大切なシングルモルトということです。今まで人より多くのウイスキーを飲んできましたが、ゆっくり飲むのがテーマなウイスキーは珍しいです。リナシメント読者のみなさまも、もし風変わりなオルトモアに出会ったときは、このことを思い出して独特な香りに包まれる素晴らしい一時を楽しんでみてください。

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