ナポリ仕立ての血統
ナポリは世界に名だたるサルトリア(仕立て屋)の都市ですが、その源流となっているのがアットリーニの系譜です。
現在のナポリ仕立てと呼ばれるものの基礎を作ったヴィンツェンツォ・アットリーニを起点として、もはや伝説のサルトリア家系となっているアットリーニは、現在はチェザレ・アットリーニが、kiton キートンやbrioni ブリオーニよりもさらにサルトリア色の強い職人技のジャケットを作るとして世界に名を馳せています。
そしてそのアットリーニ家の長男が立ち上げたブランドが、Eligo エリーゴ。
どんな素晴らしい意味かと言えば、イタリア語で「探し物」という意味なのだとか。適当もテキトウ、私に任せてくれればもう少し気の利いた名前を考えたでしょう。「Fungi=きのこ」とかね。
まあそんなこんなで適当なノリで立ち上げたのが悪かったのか、現在は名前が変わり、Stile Latino スティレ・ラティーノというブランドになっています。以下のようなタグですね。微妙な差異はあるにしろ、基本的には同じブランドと言えます。
今回は、そのEligo エリーゴ = 現 Stile Latino スティレ・ラティーノを紹介しましょう。
チェザレ・アットリーニに出来ないことを
先ほど書いたように、アットリーニは天才と呼ばれたヴィンツェンツォ・アットリーニに親に持つ、エリートの家系です。そして世界最高峰の座をキトンやブリオーニを争っているチェザレ・アットリーニは、その正統な流れと言える。そしてそのクオリティは確かに既製服で世界最高峰のものになっています。
しかし逆に言えば、その正統さが仇となり、チェザレ・アットリーニは自由がきかない。例えば丈が短く、drop9みたいに絞りの入った現代的なシルエットのコレクションを発表しようものなら、世界中のクラシコ・イタリアファンから「なんのつもりかね?」と大バッシングをされてしまうわけですね。
そこでEligo エリーゴ = 現 Stile Latino スティレラティーノの登場です。
現代的な要素、遊び心のあるディティールや生地を採用したジャケットを自由に発表できる、クラシコナポリ仕立ての新しいスタンダードを打ち出していけるブランド。それでありながら一流の血を分けた仕立てができ、サルトリアとしての色を持つ。
この独特の成り立ちと、面白みのあるコンセプトに毒に当たってしまう人は多く、Stile Latino スティレ・ラティーノの一着20万以上もするジャケットを次々にクレジットカードで購入し、チェザレ・アットリーニのジャケットを質に入れなければならなくなる人が後を絶たないと言います。
真意のほどは分かりません。
いずれにしろこのあたりのブランドの位置感にはまる人というのは、少なくありません。現在kiton社が展開しているSartorio サルトリオやDi Massimo Piombo ディマッシモピオンボ、そしてStile Latino スティレ・ラティーノ。
恐ろしく硬派で世界を魅了するテーラリング技術を持ったブランドが展開するこれらのセカンドラインやコラボラインは決して「廉価版」ではなく、正統派にはできない「革新」をやってのけるための「コレクションライン」とも言えるブランドなのです。
Stile Latino スティレ・ラティーノの特徴
Stile Latino スティレ・ラティーノはコレクションラインだ、なんて書きましたが実際にはどんな特徴があるのか。それを見ていきましょう。まずはブランドのコンセプトですね。実は名前がそのままコンセプトになっています。
Stile Latino = ラテンスタイル
これだからナポリ人は嫌いになれません。
まったく、「探し物」を反省してどれほど苦心しながら一生懸命考えて付け替えた名前かと思いきやって感じですが。最近では流石に反省して、長男の名前であるVincento Attoliniをそのままブランド名にしようとしているようです。
それはさておきラテンスタイルですね。つまり明るさと軽快さを前面に打ち出し、それでいながら押さえるべきポイントは押さえ、洒落っ気のあるジャケットやスーツを。ということです。具体的には、まず生地です。チェザレ・アットリーニでは扱えないような特殊な生地を採用していたりすることが多い。まさに今回例に出している写真のジャケットがそうですね。
コットンリネンで、全体的にネップのあるザラリとした雰囲気の生地です。独特の控えめな光沢感が、リネンの上質さを感じさせます。荒々しく編まれた生地でありながらあくまで目が詰まっており、シルエットが崩れすぎないのも魅力です。
次に色や柄です。今度はEligo エリーゴ時代のこのジャケットを見てみましょう。
こちらもコットンリネンのジャケットで、表情はまったく異なります。どちらかといえばオーソドックスなコットンリネンの生地と言う感じですが、注目すべきはその柄です。
ビジネスユースからはずれた、ワイルドなペンシルストライプ。ピッチが広いこともそのカジュアル感の理由の一つですが、はっきりとしたその線自体も太く、それがまた独特な印象です。
大胆にプリーツの入ったマニカカミーチャは、ナポリ仕立てそのもの。しかし薄めの肩パットが入り、あくまでラフになりすぎない仕様になっています。
カジュアルな柄とバランスを取るために、あえてという感じがしますね。もちろんリラックス感を演出しようとすれば、いくらでもできます。しかしこのエリーゴのジャケットは、一枚仕立てにすることなく背抜きにし、仕立ては本格的にしている。
このへんのさじ加減が、ラテンスタイルたる所以でしょう。
なぜスティレ・ラティーノを選ぶか
と紹介をしてみましたが、先ほどちらと紹介したように、Stile Latino スティレ・ラティーノは現在20万円を超える値段帯のジャケットをメインとしています。
もしラッキーなお札を20枚持ってセレクトショップに行ったのであれば、買えるジャケットは何もスティレ・ラティーノに限りません。横に並んでいるSartorio サルトリオ、その横の棚のBelvest ベルベストとCaruso カルーゾ、後ろのマネキンが着ているISAIA イザイア、雑誌を騒がせているBOGLIOLI ボリオリだのLardini ラルディーニだのは言うに及びません。
そんな中からStile Latino スティレ・ラティーノが選ばれるのはやはり、そのブランドの血統を感じられ、同時に新しくて新鮮さもあるジャケットを手に入れたいからではないでしょうか。
ベルベストやカルーゾの仕立ては素晴らしいが、決して踏み越えない一線がある。イザイアはかちっと着こなしてこそ美しいシルエットだ。ボリオリやラルディーニはあまりにあからさまにマシンメイドっぽさのある雰囲気だし、何よりアクリルやらナイロン混の生地ばかりだ。
そうなったとき、残るはサルトリオです。サルトリオは生地感で定評があり、その位置づけも雰囲気もスティレ・ラティーノに近いものがありますね。迷うのであれば、最終的にはこの2つのブランドではないでしょうか。
最後は選び手のフィーリングです。
世界を制したkiton キトンか、ナポリ職人気質のAttolini アットリーニか。ここまで来るともはや、ジャケットそのものを見なければ、どちらを取るか決めることはできないでしょう。(ちなみに、昔のサルトリオはアットリーニが作っていたそうです)
しかしそのサシの勝負になったとしても、スティレ・ラティーノに漂う洒脱感といったら、サルトリオもしのぐ「魔法」に近い何かを持っています。
いかがでしたか?
今回はチェザレ・アットリーニの流れを汲む、Eligo エリーゴ = 現スティレ・ラティーノを紹介してみました。セレクトショップでそのタグを見かけたら、わくわくしましょう。試着をしたくなってしまったら、覚悟をしましょう。
その病気は治りません。そいつがクローゼットに来るまではね。
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