アットリーニの魅力 ー 最高の『ナポリ仕立て』完全解説

アットリーニとの出会い

ドレス系メンズファッションを追う者が、行き着くところは二カ所あります。ロンドンのサヴィルロウ、そしてイタリア南部のナポリ。

私がファッションに興味を持ち始め、まだ右も左も分からない頃に偶然手にした最初のインポートジャケットはValditaro ヴァルディターロのナポリ風仕立てジャケットでした。雨振り袖=マニカ・カミーチャの独特なギャザーや、なだらかに低い位置で絞られたウエストライン、その圧倒的に軽い着心地に驚いたのを、今でも覚えています。

そしてセレクトショップやファッションブランドをさんざん回り道をしたあげく、インポートの魅力に浸かり、最後にたどり着いたのはナポリでした。そう、Cesare Attolini チェザレ・アットリーニのジャケットです。

今回はそのCesare Attolini チェザレ・アットリーニを紹介していきます。

チェザレ・アットリーニが生まれるまで

イタリアはそもそも、イギリスのスーツ文化を支える生産国として発展したファッション大国です。

現在でもイタリアの洒落者は積極的にイギリス風をファッションに取り入れていると言いますし、またスーツスタイルもイギリスをベースとしていますね。またヴィンテージの生地なんかを見てみると、イタリア製の生地にわざわざMade in England なんて書かれたりしているそうです。

これはその時代、イタリアがまだ英国に準ずる生産国であったため、一流の品にはどれもこれもMade in Englandの表記があったことを示していますね。

それもこれもイタリアは昔から、商人による都市国家が発達していたために統一が遅れ、先進国であるイギリスに比べるとずいぶんと人件費が安く、それでいて優れた職人文化が存在していたからでしょう。

しかし彼らは模倣から入りながらも、いつまでも生産国に甘んじていることはありませんでした。イギリス人の生み出したスーツスタイルにイタリア流の個性とイタリア人のための改良を加え、世界3大スーツスタイルと言われるまでになるイタリアン・クラシコを作り出したわけですね。

そしてそのスタイルを作り出すのに大きく貢献したのが、ナポリに開業した一軒の仕立て屋「ロンドンハウス」であり、チェザレ・アットリーニの父であるヴィンツェンツォ・アットリーニなのです。

ヴィンツェンツォ・アットリーニが名を上げ始めた頃、ナポリにはすでに優れたサルトリアがいくつも存在していました。しかしヴィンツェンツォ・アットリーニはすでにあったスタイルに満足することなく、さらに優れた着心地とより美しいシルエットを実現し、さらにはナポリ人の粋を表現すべくスーツに改良を加えていった。現在「ナポリ仕立て」と呼ばれるディティールの多くは彼が生み出したものなのです。

例えば袖口4つのボタンを少しずつ重ねて付ける、俗に言う「キッスボタン」と呼ばれる仕様。さらには全てのボタンに穴かがりをほどこすディティールは現在でこそ定番ですが、彼が生み出したスタイルです。

そしてバルカポケット。これまで直線的にデザインしていたポケットのラインを船底のような緩やかなカーブにして、実際に着用したときにもっとも美しい形になるようにするものです。

冒頭でマニカカミーチャについても触れましたが、こちらもヴィンツェンツォ・アットリーニの生み出したスタイル。そして今ではそれ無しでクラシコ・イタリアを語ることはできない、というほど大きな存在になっている段返りの3つボタンも、彼が考案しました。

このようにヴィンツェンツォ・アットリーニがイギリス伝統のスーツを大胆に改革し、それがきっかけとなってナポリ仕立てというジャンルはより色を強め、さらに多くの偉大なサルト達の手により、個性豊かなスーツとして現在に続く人気を確立しました。

そしてこの伝説的なサルトであったヴィンツェンツォ・アットリーニの後を継いだのが、チェザレ・アットリーニです。チェザレ・アットリーニは仕立てだけではなくビジネスの才能にも恵まれた人間で、イタリアの高級紳士服のプレタポルテを確立した第一人者だとも言われています。

これまでの伝統的な手法をそのままに、ナポリの腕の立つサルトを集めてマニュファクチュアによる服作りを開始した。これはそこら中に凄腕の仕立て職人が存在していたナポリだからこそ成し得た技であり、現在に至るまで多くのイタリアのサルトリアで継続されている体勢です。

kiton キートン、ISAIA イザイアをモデリストとして成功させた彼は、自身のブランドであるチェザレ・アットリーニを確立。Kiton キートンと並んで、ナポリ仕立てを世界最高峰のスーツとして世界に発信しました。

現在80歳を超える彼は現在、長男のマッシミリアーノ・アットリーニを社長に、次男のジュゼッペ・アットリーニを副社長にしながらも、積極的に工房に赴いて指導を続けていると言います。

チェザレ・アットリーニの魅力

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チェザレ・アットリーニのジャケットは、その知名度でありながら100人弱のサルトが集まる比較的小さなファクトリーで作られています。Kiton キートンのファクトリーが350人ほど、brioni ブリオーニが1500人。

サルデーニャ島のCASTANGIA カスタンジアが70名ほどというから、チェザレ・アットリーニの「あくまでサルトリアである」というこだわりが伝わってくるようです。

しかし何よりチェザレ・アットリーニの魅力は手縫いを中心としたその仕立てにあります。

概してイタリアの高級既製服というのは、吊るしたときの見てくれがあまりよくありません。各所にシワが寄るし、スーツに興味の無い人から見れば全体的にゆがんでいるようにも見えるでしょう。しかしインポートのスーツやジャケットが好きな人には分かりますね。このジャケットはただものではない。

立体的でふんわりと仕上がったふくらみのあるラペルに、端正な佇まいでバランスよく落ちる袖。ゴージはあくまで高すぎず低過ぎず、クラシックな位置を守っている。極端に高いゴージはかつての極端に低いゴージと同じく流行遅れになってしまうかもしれませんが、これならいつの時代も着ることができるはずです。

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全体的なシルエットは特別タイトなものではありませんが、ウエストは滑らかに絞られ、身体のラインを強調してくれます。構築的な印象はありませんが、だからといって崩し過ぎてもいない。最近は一枚仕立てのジャケットが多く、さらにはカーディガンのようにラフな極端に軽快さを追求したジャケットも見られます。ナポリ仕立ての名の下にテーラードジャケットらしさの失われたアンコンジャケットも作られています。

しかしチェザレ・アットリーニは軽快さを追求しながらも、あくまで身体を美しく魅せるシルエットを保ち続けている。ブリティッシュトラッドのスーツをベースに変革をもたらしたアットリーニだからこそブリティッシュスーツに敬意を払い、最低限のシルエット要素は断固として譲らないとしているのかもしれません。

さりげなく入ったエレガントな袖の波は、ナポリ仕立てのアイデンティティを印象づける雨振り袖です。そのラインは美しいの一言でしょう。私が初めて手にしたナポリ風仕立てのヴァルディターロはずいぶんとギャザーを強調したマニカ・カミーチャで、それはそれで面白いものでした。

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しかしチェザレ・アットリーニはあくまで上品に、生地のドレープ感を生かした波打つ海面のような仕上げです。チェザレ・アットリーニのジャケットやスーツは特別な別注品でない限り、概して薄めの肩パットと、ふんわりと柔らかに寄せたマニカ・カミーチャの肩になっていますね。

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チェザレ・アットリーニのジャケットはもちろんバルカポケットとなっていますが、重要なのはそのバルカポケットの存在意義です。

故・落合正勝氏が彼の著書で触れていますが、アットリーニはポケットを船の底の形にしたくてバルカポケットを考案したわけではありません。

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ただ彼の作り出すジャケットの前身頃が立体的で丸みを帯びていたために、必然的にポケットが曲線的である必要があったのです。今日ではバルカポケットの名が一人歩きしていますが、平面的なジャケットであればバルカポケットはむしろ無駄でしょう。チェザレ・アットリーニの美しいジャケットだからこそ、このような丸みがポケットに必要なのです。

実のところ、現在のスーツの語られ方はこんなものです。

「クラシコ・イタリアモデル、本切羽、バルカポケット仕様、AMFステッチ……」

しかしこういったディティールは何も、スーツやジャケットに先行するものではありません。ただひたすらに良いジャケットを求めていくと、そういったディティールがついてくるのです。

上品さを崩さないギリギリの線で主張をする、ダブルステッチもナポリのブランドであるアットリーニならではの個性ですね。

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ダブルステッチもまたナポリ仕立てのディティールと言われていますが、チェザレ・アットリーニのダブルステッチは非常に表情豊かで、AMFとは違った人間らしさを感じます。またボタンホールについては、ぎっしりと目の詰まった仕上げがため息の出るほど美しい。

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裏面から見ると、表面の美しさのためにどれほどの苦労が費やされているかが分かります。また写真では分かりにくいですが、ラペル裏にはロールを美しくするための八刺しが丁寧になされています。

あらゆるところが手縫いにて仕上げられたアットリーニのジャケットは、マシンメイドには出すことのできない、やわらかな着心地と、丸みを帯びた柔らかく自然な風合いを実現しています。

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そして、ジャケットを脱いだときに見えるその手作り感溢れる縫い目に魅力を感じてしまうのが、ジャケット中毒の末期症状です。

いかがでしたか?

今回はイタリアが世界に誇るナポリ仕立ての、チェザレ・アットリーニを紹介しました。

チェザレ・アットリーニのジャケットが持つのは写真や文章で伝えられるだけの魅力だけではありません。軽々しく語ることの出来ぬ、畏怖の念を抱かせるような独特の雰囲気と、一度着たものを魅了する魔力に近いものがあります。

ぜひ、セレクトショップや新宿伊勢丹などで実際に試してください。

 

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Sartoria Ciardi サルトリア・チャルディを始めとして3つのサルトリアから選べる、本物のナポリ仕立てメジャーメイドとビスポーク。
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アットリーニのシャツについて

attolini shirt

アットリーニはドレスシャツも展開していますが、以前はAnna Matuozzo アンナ・マトゥオッツォというブランドがOEMで生産していました。このシャツもその時代のもので、アンナ・マトゥオッツォ製のシャツだと思われます。

このアンナ・マトゥオッツォと言えば、何を隠そう一人の女性の名前そのもので、その女性を中心とした8人の女性職人達が小さな一室にてハンドメイドで作る、なんともホームメイド感のあるシャツですね。

そうは言ってもこのアンナ・マトゥオッツォはナポリの普通のママというわけではなく、かのロンドンハウスから独立しているというから、素晴らしいシャツ職人です。

そして彼女の作るシャツはギャザーの寄せ方、生地の選び方、縫製など全てが身体を優しく包みこむような素晴らしいものになっています。襟付けや袖付けの柔らかい手縫いは、いくらFRAY フライのシャツが優れていようともやはり異なる、マシンメイドとは違う種類の着心地を実現しています。

シャツを意味するカミーチャはイタリア語の女性名詞ですが、彼女の作るカミーチャはまさに、ナポリを代表していると言って過言ではありません。

現在アットリーニのシャツは別の工房に変わっていますが、品質やレベルはもちろん変わることなく、一流のサルトリアとして恥じることのない品質のシャツを販売しています。

アットリーニのセカンドライン

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最後にアットリーニのセカンドラインについて紹介しておきましょう。

アットリーニのセカンドラインは何度も名前が変わっているようですが、アットリーニ家の長男であり、父と同じ名をもらったヴィンツェンツォ・アットリーニが展開しています。

・Eligo エリーゴ

・Stile Latino スティレ・ラティーノ

・V.A. ヴィンツェンツォ・アットリーニ

などがそれですね。マシンメイドとハンドメイドを融合させた仕立てを特徴としており、アットリーニの確かな技術力と新しい感性を融合させたブランドラインとなっています。

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同じグレード及び位置づけのブランドは現在kiton キートン社が展開している、Sartorio サルトリオがありますね。

ちなみに昔はサルトリオもまた、アットリーニの工場で作られていました。サルトリオのジャケットもまたアットリーニが作った物は特に手が込んでおり、高く評価されています。

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いずれもBelvest ベルベストやISAIA イザイアなどを超える値段設定となっていることが多く、同じ金額を出せば相当選択肢が広いですが、その中でもアットリーニのセカンドラインを選ぶ理由は、その世界観を感じたいからに他ならないでしょう。

Stile Latino スティレ・ラティーノやEligo エリーゴについては以下の記事で詳しく解説していますので、是非ご覧下さい。

Stile Latino スティレ・ラティーノとEligo エリーゴの全て

 

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