世界でも有数の美しさを誇る丘の上の街、オルビエートから、ローマに向けて車を走らせると、突如として現れる断崖絶壁。切り立った岩の上の古い建物が連なったその姿は古代の砦を思わせる、幻想的な街です。
皆さんの中には、イタリアに天空の城ラピュタのモデルとなった、天空の街があるというのを聞いたことがある人もいるかもしれません。このオルテもまた、天空の街のような印象を持たせる崖の上の街。しかし天空の城として有名なのはチヴィタという別の街。このオルテは、偶然その姿を見かけ、その雰囲気に惹かれて、まるで呼び寄せられるように訪れたことのある人しか知ることのない、知られざる街なのです。
観光客はおらず、現地の人だけひっそりと暮らしている、時間を忘れてしまうような静かな街へと。さあ入っていきましょう。
古い街、静かな街
まずは街の入り口の駐車場に車を停めて。駐車場から周囲を見渡せば、すでにそこがかなりの高台になっているということが分かります。そしてふと、丁度対面にある穏やかな山に視線を投げると、山の中腹に教会を見つけました。
振り返ってすぐ上を見上げてみれば、絶壁の上に、普通に人々が暮らしています。
よく見てみると、彼らの家の土台となっているのが、ただの崖ではないということが分かりますね。大昔にまだ戦争が耐えなかった頃、ここは砦として使われていた街だったのかもしれません。この崖は石積みの壁で補強されており、そこには何かの跡らしい空間も見えます。今はもう忘れ去られた空間で、鳩が住む他には使い道がないようです。
街の中は建物一つ一つが、相当な古さ。まるで聖フランチェスコの時代に作られた家々を、修繕しながらそのままの形で使っているかのよう。少なくとも基本的な道や、広場や、街の様子はほとんど変わっていないでしょう。崖の上という拡張の利かない立地が、この街を文明の発達から取り残し、ひっそりとした生活だけが続いているのかもしれません。
少し路地へと入ってみましょう。
どんどん崖へと近づいていきます。民家は本当に崖っぷちにあるため、まるで空に浮いているかのような不思議な様相の路地になっているのです。
街の下には大きく、近代的な建物も見えます。ちょうどこの街だけが古い時代に空に浮いて、そのまま現代から隔離されているかのよう。
街の縁(へり)となっている石の壁の上を、猫たちが歩いています。もちろんその向こうは完全な崖です。
そしてその反対側を振り返れば、崖に面した玄関。玄関を開ければ、目の前にはパノラマです。
それでは再び、路地から戻っていきましょう。ゆっくりと歩いてもせいぜい10分ほど。オルテの中心部です。
わずかな広場と、教会、そして一件のバル、これでほとんど全てです。0.8ユーロのエスプレッソを頼んで、カウンター席で軽く煽り、今度は聖フランチェスコ教会を目指しましょう。
聖フランチェスコの教会
目指しましょう、なんて言ったところで、実際には徒歩3分です。途中では、上を見上げるのを忘れずに。
イタリアには古い建物が多いですが、木を用いてこんなふうに支えられた「渡し」は珍しい。年季の入った木は、何年に渡ってこの場所を支えているのでしょうか。
そんなことを考えているうちに、すぐに聖フランチェスコ教会です。アッシジに行ったことのある人はこの質素な建物の、あまりの地味さに驚くでしょう。
ですが、素朴な生活を目指した聖フランチェスコのための教会として、これほどふさわしいものはない。アッシジの大きな聖堂は、巨大化し分裂しかけていたフランチェスコ派の信仰を、巡礼という共通の習慣によってつなぎとめるために計画されたと言われています。それに対しこのオルテの教会は、フランチェスコの本来の思想を感じさせる、質素で堅実な雰囲気です。
中庭も少しのぞくことができます。豪華な飾りも、聖人の像もない回廊。奥にはコリント式とも思わせる、古い柱も見られますね。
さあ、これでオルテの旅は終わりです。
途中一人の観光客に合うこともなく、一つの街を見て回ってしまいました。ここではただ住民たちが、古くから伝わるものに感謝し、次の世代に感謝されるかたちのままこの街を残そうと、ひっそりと生活しているだけなのです。
そしてこの街に何かの魅力を感じ、ふらりと立ちよった幸運な人々は、この街の人々の生活にふと、聖フランチェスコの姿を思い起こすでしょう。
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