ハンドメイドシャツの甘さとは? Salvatore Piccolo
「甘さ」ってなんだ?という話ですね。サルバトーレピッコロのシャツはハンドメイドの「甘さ」を説明するにはぴったりな模範的なシャツなので、それについて書いていきましょう。
ハンドメイドといって一口に書きますが、実際にはハンドメイドにもレベルがあります。
これは意外に思われるかもしれませんが、あまりレベルの高くないハンドメイドは、縫い目がまるで機械で縫ったようにそろっている。「綺麗なら良いじゃん!」とそう思われるかもしれませんが、そうでもありません。
だってミシン縫いと同じように平坦に手縫いで縫い上げるくらいならば、ミシンで縫えば良い話だからです。こういった類いの手縫いは「ハンドメイド」と謳うためのものであって、それ以上の何でもありません。
逆にレベルの高いハンドメイドは1枚のシャツの中でも必要に応じて縫い方が変えてある。例えば力が掛かったときに少し伸びて欲しい部分は少し緩く縫ってあります。
これが「甘さ」です。ミシンで縫い付けてしまった2枚の布は布が伸びない限りは伸びませんが、手縫いで緩く縫った布は引っ張ると柔軟に伸びます。この効果がシャツの肩の部分などを始め主要な部分に存在することで、着心地が非常に柔らかくなります。
逆に力のかかる部分はむしろミシンで縫うよりも力強く縫う。そのように作られているハンドメイドのシャツは、一見すると普通のマシンメイドと同じサイズでも、着心地はまるで一つ上のサイズを着ているかのように可動域が広く、極端に薄いシャツを着ているかのように軽やかです。
またサルバトーレピッコロのシャツは、他のシャツには見られない完全にユニークな仕様として袖にダーツを入れています。
これにより、腕の形状がより立体的になり動作がさらに楽になります。普段39〜40のシャツを着ている人でも、サルバトーレピッコロのシャツの場合だけうっかり38を着れてしまったりするのは、こういった工夫があるからです。
そしてボタンホールなど、そのブランドの美意識が現れる部分を見てみましょう。
丁寧だけれど、あくまで手縫いらしさを存分に感じられる作り。着ていて職人の手の通った跡をこれほどまでに感じられるシャツは、サルバトーレピッコロを置いていくつも見つかりはしないでしょう。
同じくナポリにシャツブランド=カミーチェリアとして有名な、というより伝説ともなりつつあるアンナ・マトッツォというブランドがあります。こちらはアントニオ・パニコやアットリーニなどナポリ仕立ての重鎮サルトリアがこぞってシャツを任せている、もしくは任せていた天才的なシャツ職人の女性の名前です。
アンナマトッツォ製のシャツはギャザーの寄せ方やボタンホールなど各所に非常に女性的なニュアンスを感じる、非常に優雅なシャツです。それに対しこのサルバトーレピッコロのシャツはあくまで男らしく、伝統や縫製に対するある頑固なこだわりと、シャツ作りへの誇りや誠実さが感じられる雰囲気ですね。
サルバトーレピッコロの生地
作りに注目していたためあまり触れていませんでしたが、サルバトーレピッコロの用いる生地はまた、こういったオーソドックスで上質なコットンからややヴィンテージ感のある小紋柄のコットンまで非常にバリエーション豊かです。
例えば同じナポリのシャツでも、一大ブランドであるKiton キートンが展開するようなシャツは恐ろしく繊細で贅沢な生地が使われています。Kiton キートンのセカンドラインであるマタビシのシャツでさえ、シーアイランドコットンのふわりとした生地を使っています。
また先ほども書いたFRAY フライは贅沢で厳選された、滑らかで光沢感のある生地で有名ですし、 Brioni ブリオーニのようなブランドのシャツはまるっきり一般人には扱えないほど繊細な生地で出来ていたりもします。
それに比較してみると、サルバトーレピッコロのシャツにはわりとオーソドックスな生地も多い。これはサルバトーレピッコロが「世界中のセレブ達のために作られている贅沢品」ではなく、あくまで「イタリアの洒落者達の毎日のワードローブ中で最も贅沢なシャツ」だからでしょう。
彼がさらりと着こなす、毎日着るシャツが別に最高級のシーアイランドコットンで出来ている必要はない。サルバトーレピッコロのシャツの生地は贅沢でありながらも、極端に繊細なものではなく、いわば「贅沢な日常」を演出してくれるような上質で誠実な素材で出来ているわけです。
もし私がナポリのスーツを上質なナポリのシャツと合わせるとしたら、Kiton キートンのスーツにBorrelli ボレッリのシャツを、Cesare Attolini アットリーニのスーツにアンナマトッツォのシャツを。サルバトーレピッコロのシャツには、La Vera Sartoria Napoletana ラベラサルトリアナポレターナのスーツを合わせるかもしれません。
それはこのスーツもまた特別な人々の贅沢品ではなく、最も贅沢な日常品だからです。
いかがでしたか?
今回は2回に渡ってサルバトーレ・ピッコロのシャツの魅力を紹介してみました。ハンドメイドのよさがこれほどまでに現れているシャツは中々ありませんので、見かけたら是非手に取って、出来れば試着してみてください。