Brioni ブリオーニの生まれた街
スペイン広場から数々の高級ブランドが軒を連ねるコンドッティ通りを歩き、デルコルソ通りで左へ折れて歩く。そしてヴェネチア広場までたどり着いて一気に視界が開けたとき、誰もがローマの偉大さにひれ伏すでしょう。
ローマでは一つ一つの建造物がイタリアのどの街よりも、ヨーロッパのどの都市よりも荘厳で巨大です。街そのものが世界中のうらやむ価値のある遺跡のようであり、街のどこを歩いても、強大な権力の痕跡を見ることになります。
ローマという街は、世界にとって特別な場所です。
かつてヨーロッパを制したローマ帝国の首都であり、カトリックの中枢、そして西欧文化の中心地であったこの都市は、今なお『永遠の都市』として多くの人々を惹き付けてやみません。
そのローマで、未だに世界の頂点に君臨し続けているものがある。
それがBrioni ブリオーニです。
ブリオーニのスタイル
世界的に有名なイタリアのサルトリア(仕立て)文化ですが、実は同じイタリア内でも都市やブランドによってずいぶんと違いがあります。
イタリア風スーツ、なんていうスタイルを謳っているツープライスのスーツがあったりもしますが、実際にはディティールばかりを追って、様々な装飾やシルエットを取り込んで、存在しないスタイルになってしまっていることも少なくありませんよね。
イタリアで有名なスタイルは、ミラノ風、フィレンツェ風、ローマ風、ナポリ風と大きく分けて四つあります。もちろんサルト(仕立て屋)によってずいぶんと違いはありますが、大きくスタイルの傾向を見れば、確かに当てはまっているものです。
中でもローマンスタイルを代表するのが、今回紹介しているブリオーニのスーツやジャケットです。
ブリオーニの最大の特徴は、イギリスのスーツのように威厳のあるスタイルを実現しながらも、軽やかでリラックスした着心地であることです。
まずは肩の部分を見てみましょう。
ブリオーニのジャケットには、薄いパットが入っています。ブリオーニの作る肩周りはちょうど人間の体と同じような形で、丸みを帯びたシルエットになっており、ぴったりと包み込んでくれる。
しかし軽さとリラックス感を追求したナポリ仕立てに比べれば、着たときの雰囲気はまるきり洗練されています。一切の無駄のない一本のラインで決まる肩から袖のシルエットは、ブリオーニのジャケットの精巧さと計算された立体感が最も明確に現れる部分ですね。
例えばフィレンツェ仕立てを代表するLIVERANO & LIVERANO リヴェラーノ、土着的なナポリ仕立てのディティールを持つLa Vera Sartoria Napoletana ラベラ・サルトリア・ナポレターナのジャケットを並べてみれば、違いが分かるでしょう。
もちろんどちらが優れていて、どちらが劣っているという話ではありません。これこそがスタイルの違いなのです。
ブリオーニは常に人を一流に見せてくれるようなショルダーのラインをスタイルとしている。英国のスーツは構築的で着る人に威厳を与えますが、ブリオーニはその英国的な威厳をそのまま再現するわけではなく、より現代的なナチュラルさをショルダーラインに与えている。
例えば一国のリーダーがブリオーニのジャケットを着たのであれば、彼は一国の命運を背負うものとしての威厳と、状況に応じて臨機応変に対応することができる思考の柔軟さ、そして一市民の声を聞くことさえもできる自然なリラックスさの全てを肩で表現することができるでしょう。
またスタイルについてを意識しながらブリオーニのジャケットをいくつか手に取っていけば、モデルによって違いはありますが、ブリオーニの最も典型的なスタイルを見て取ることができるでしょう。
少し低めのゴージラインに深めのVゾーン、2つボタン。このスタイルはブリオーニの典型と言えるでしょう。蛇足ですがバブルの時期にはラペルがもう少し広くなって、ゴージがより低く、Vゾーンがより深くなっていましたね。
ナポリを代表するブランドであるアットリーニのジャケットと並べて見てみましょう。
こうして見ると、段返り3つボタンと2つボタンでは与える印象がずいぶん違うことが分かりますね。
ナポリ仕立てのジャケットはラペルの返りの立体感をまるでスカーフかのように着こなしのアクセントとして着ることが多い。
それに対して、ブリオーニのスーツはシンプルで流れるような曲線になっています。改めてブリオーニのコレクションを見てみると、ラペルが強調されすぎず、上品な佇まいでいることがブリオーニの思う美しさであるということが分かりますね。
全体の調和を重視するのはフィレンツェ仕立てのリベラーノとも少し似ていますが、ブリオーニはそれよりもさらにラペルをスマートにフロントのシルエットにとけ込ませています。
ブリオーニのジャケットを試着したとき、心なしかラペルが細く感じましたが、これにはそういう理由があったわけです。
ブリオーニが世界最高の既製服である理由
イタリアには数多くのブランドがあり、スーツやジャケット類で一流とされるブランドも数多く存在します。しかし世界最高の既製服、という考え方をしたときに名前が挙がるのは、やはりブリオーニであることが多い。
ここで、ブリオーニがなぜ世界最高の既製服なのかを考えていきましょう。
①量産と最高クオリティの両立
ブリオーニが世界最高の既製服である理由の最も大きなものは、その品質でしょう。
手縫いを多用したスミズーラ(注文)のスーツは、スーツを極めれば必ず最後にたどり着く究極とも言えるものです。
昔は注文服と既製服の間には大きな格差がありました。多くの既製服が、「注文服のディティールを……」という文句で売られているのは、今でも変わりありませんよね。例えば安いスーツなのにも関わらず、一丁前に袖口が本切羽になっているのがまさにそれでしょう。
そのように、注文服と既製服は全く別ものだったわけです。
そんな中ブリオーニは初めて、注文服の手法とスーツ作りをそのまま既製服へと落とし込みました。注文服のように手縫いで手間をかけて作る既製服。それはちょうど「誰にでもフィットする注文服」を作るとも言えるような大変難しいことですが、優秀なモデリストと最高の技を持った職人が相互に作用し合うことで、それを実現しています。
ブリオーニと双璧を成すナポリのラグジュアリーブランドであるキートンを始め、今や数多くのブランドがこの手法を取っていますが、ブリオーニがそのパイオニアだったわけです。
注文服のように手間をかけて作る既製服。
ポケットやラペルの端、ダーツ部分などジャケット全体を縁取る手縫いの繊細なステッチワーク、手作業で仕上げられる美しい縫い合わせ。
極限まで薄く鋭く突き詰められたフロントエッジに、流線的で全ての線が調和するシルエット。
そして山脈のように一本の線が入った手縫いのボタンホールは、手仕事が成せる最大限の端正さと言えます。アットリーニやキートンのボタンホールに比べても繊細で、ブリオーニの洗練された世界観を体現していますね。
その注文服と同じようなレベルの仕立てで作られるブリオーニの既製服は、当たり前のごとく世界最高峰の品質の既製服となったわけですね。
しかしブリオーニはただ品質が良いだけではありません。
世界中に直営店を持ち、世界で最も有名なサルトリアブランドになるほどの量産を行っていながらも、常に既製服の世界で最高峰のクオリティを維持していることがブリオーニの本当の価値です。
例えば一着のスーツにかかる手間や、手縫いの比率だけを述べればブリオーニに勝るスーツは間違いなく存在するでしょう。
アットリーニのような職人技を前面に打ち出したブランド、パニコやダルクォーレといった少量で既製服を展開しているサルトリアのスーツに比べれば、ブリオーニのスーツも作りの手間では流石にかなわないかもしれません。
しかしごく一部の洒落ものをターゲットにした上記のブランドとは違い、ブリオーニは世界中のラグジュアリー層を相手にしたブランドです。もしかすると仕立てのレベルを下げても、生地感さえラグジュアリーであれば誤摩化せてしまうかもしれない人々がターゲットと言っても過言ではありません。
実際にラグジュアリー層をターゲットとするブランドのうちのいくつかは、作りや見えない部分でコストダウンを図ったり、付加価値で値段そのものに価値を持たせたりしています。
しかしブリオーニはそういうことはしません。
ある外商のイベントでブリオーニのブースを訪れた際に、仮縫いの状態まで仕立てられたブリオーニのジャケットを見る機会があり、その手間の掛け方に感動したものです。
どれだけ市場が大きくなろうとも、あくまで一流のサルトリアとしての矛持ちを崩さない。その姿勢こそがブリオーニのスーツが常に人々の信頼を得て、世界最高峰の既製服と呼ばれている理由です。
②1人の男の全てのシーンを支えるコレクション
もともとブリオーニ島というリゾート島の名前をモチーフにしたブランドだけあり、ブリオーニの提唱するスタイルはビジネスやフォーマルのシーンだけにはとどまりません。
休日のジャケパンスタイルはもちろんのこと、リゾートスタイル、ゴルフ等のスポーツカジュアル、そしてルームウェアまで、ブリオーニは1人の一流の男のライフスタイル全てをサポートするかのごとく、幅広いコレクションを展開しています。
例えばチェコ共和国の首都プラハにあるブリオーニの店舗は、世界中のラグジュアリー層が集まるFour Seasons Hotel フォーシーズンズホテルに併設されています。
もし夜のパーティで急にタキシードが必要になれば、隣のブリオーニでひとしきり揃えれば良い。そんな使い方をされているのでしょう。もちろんその次の日にモルダウ川をチェコ伝統の低い船でクルーズすることになっても、ブリオーニがあれば問題ありません。スポーツライクなブルゾンとチノパン、スニーカーまで揃うでしょう。
普段のカジュアルスタイルを装うのに必要なドレス仕立てのカジュアルシャツや、カジュアルジャケットは言うに及びません。
またブリオーニの靴は、ドレッシーなものからカジュアルユースに向いたものまで幅広く展開されています。
いずれも非常にスマートなデザインとそれを裏付ける丁寧な職人技で作られており、革靴専業のファクトリーにはないブリオーニ特有の一流のブランド感と相まって独特の魅力を持っています。
すでに何年も履いていますが、非常に柔らかな履き心地とその美しいシルエットはいつも魅力的ですね。
ちなみにブリオーニは繊細で一般人には扱えないと思われていることが多いですが、必ずしもそうとは限りません。
例えばブリオーニのカジュアルシャツは、意外にもタフです。
袖付けや襟付けを手縫いで行うナポリのシャツに比べたら精巧なミシン縫いで作られるブリオーニのシャツが丈夫なのは当然ですが、それだけじゃなく使っている生地の耐久性も意外に高い物が多い。これはブリオーニが繊細なばかりではなく、目の詰まった非常にしっかりとした織り方をした生地を用いることも少なくないからかもしれません。
上のシャツはもう何年も愛用しており、海外に行く際などには相当ハードな使い方をしていますが、手洗いに徹することだけやめなければいつまでも着ることができそうです。
ブリオーニのカジュアルジャケットで、SUPER200’Sやカシミアシルクなど贅沢な生地を用いたものはもちろん日常使いには繊細すぎるでしょう。
しかし目つきの良いホップサックウールや、タフさを兼ね備えたツイード生地を用いて仕立てられたブリオーニのカジュアルジャケットは毎日のように着込んで、味が出てこそ本当の風格が出てきます。
ブリオーニのジャケットは常に最高の品質と第一級の仕立てで作られる。それは必ずしもジャケットを脱ぐのを人に手伝ってもらえるような金持ちの奢侈品とは限りません。逆に言えば、素晴らしいジャケットを大事に一生着ていきたいと願う一般人の宝物にもなりえるのです。
③圧倒的な支持と存在感
男の世界というのは多かれ少なかれ、そして良くも悪くもステータス性がモノを言います。人前に立ち憧れられることが仕事のスター達はそれ相応の服を着る必要がありますし、一国のリーダーもリーダーらしい服を着るべきです。
そんな人々に圧倒的な支持を受けているのがBrioni ブリオーニですね。そしてその世界中から支持を受けているブリオーニを着ている、という安心感は自信をもたらしてくれる。それもまたブリオーニの魅力に他なりません。
先ほども書いたように、ブリオーニのジャケットは非常に威厳があり洗練されたシルエットです。それでいながら、安心感と親しみやすさを兼ね備えている。
世界中のエクスクリューシヴ達の要求に一番正確に応えるブランドは、ブリオーニに他なりません。
ブリオーニがライフスタイルを変える
もしあなたがまだBrioni ブリオーニを体験したことのない人で、自分の金銭的にブリオーニは憧れの存在だと感じているのなら、少しだけ時間を作ってブリオーニを正規店で体験してみると良いでしょう。
その軽やかな着心地、それを着る人の振る舞いさえも洗練させてくれるような一切無駄の無いシルエット。職人が丹精込めてかがるボタンホールに、丁寧にジャケット全体に施されたピックステッチ。
そして世界中の人々が惚れたブリオーニ独特のスタイルと、隣を歩き寄り添う大切なパートナーがつい微笑んでしまうような柔らかく優しい極上の生地。
しかしこれほどのジャケットを着るからには、グレードの合ったシャツやパンツを合わせたい。このジャケットを着るからには相応のレストランに行ってみたいし、これに似合う車を運転してみたい。ブリオーニのジャケットに似合う立ち振る舞いは? ブリオーニのジャケットに似合うライフスタイルとは?
ジャケットを着るたびに自分の人生を一つランクアップさせたくなるのが、ブリオーニの魔力です。
もしその存在に心から惚れてしまったのであれば、もう迷うことはない。自分がブリオーニに似合う人間になれば良いのですね。
そして自分にブリオーニが似合うだろう、と自信が持てたときにはきっとあなたは、それを買うことができる人間になっているはずです。
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