時代背景を描く難しさ、漫画におけるリアリティの追求

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最近Twitterで、漫画の一コマのスクリーンショットとともに、その時代には存在しないものが描かれていると指摘するツイートを見かけることが増えています。

例えば、こちらのツイートは1983年にサイズが小さいアルファードが描かれているのがおかしいとされています。サイズが小さいのは仕方ないとしても、 確かに1980年代前半にはミニバンは存在しなかったわけで、 古いクラウンなどセダン車を書くのが良さそうですね。

車の描写に限らず、見落とされがちなのが、住宅の窓や外壁のデザイン、ガス機器などです。時代ごとにデザインが大きく異なるため、当時の雑誌や本、テレビドラマなどを参考にするのが良いですが、手軽に再現したい場合は「ちょっと昔の日本の景色bot」などのアカウントを参考にするのも一案です。

またこちらはファンタジー漫画であり、細かい設定に口を出すのはどうかと思いますが、 ケーキの下にアルミ箔があることで指摘されてしまっています。

確かに、この1カットだけを見ると、2000年以降の日本を思わせるような絵になってしまっています。私はしがない食器マニアですが、このシェイプのカップは2010年前後から流行したものですし、プリント転写のパターンもこの頃人気だったものです。

ファンタジーモノなので特に関係がないかもしれませんが、 ケーキのデザインやカップ&ソーサーを見て、 「最近の日本だな」と思ってしまう方も多いかもしれません。

昔の西洋を舞台にしていて失敗しやすい描写は?

歴史的な作品で特に間違いがちな描写の一つに、シャンパーニュの乾杯シーンがあります。

現在一般的に使われている細長いフルートグラスは、実は19世紀後半から普及し始めたものです。19世紀以前のシーンでフルートグラスが登場すると、歴史に詳しい観客や読者は違和感を覚える可能性があります。特に、シャンパーニュが飲まれるようになったのは18世紀中頃からであり、それ以前の作品にシャンパーニュを描写すること自体がやや違和感を覚えます。

一方、クープグラスは18世紀から19世紀にかけて人気がありましたが、泡が抜けやすいため、その後フルートグラスに取って代わられました。しかし、クープグラスは1920年代のアメリカで再び人気を博し、特に1930年代から1960年代の映画やセレブリティの影響で愛用されました。フランスのマリー・アントワネットがモデルとされたという逸話もありますが、これは実際には事実ではなく、後に創作された話です。

また、ナイフやフォーク、スプーンなどのカトラリーについても、これらがセットとして広く使用されるようになったのは19世紀からです。それ以前は、ヨーロッパでは多くの食事が野蛮にも手掴みで行われ、肉を切り分けるためナイフだけが主に使用されていました。

ロンドンのポートベローマーケット

一方、日本では6世紀から7世紀にはすでに箸やさじが使用されていたと言われています。この点からも、食器文化においては日本がヨーロッパに先行していたことがわかります。

ロンドンのポートベローマーケットに行くと、このように立派なカトロリーが並んでいますが、いずれもそこまで古いわけではないですし、貴族や富裕層の一部が日常的に使っていただけであり、庶民は手掴みでご飯を食べていたことになります。

他にも、特定の歴史的時代を舞台にした作品では、衣服のデザインや素材、色合いがその時代に適しているかを確認することも大切です。例えば、18世紀のヨーロッパを舞台にした作品で、19世紀後半に流行した豪華なビクトリアン風ドレスが登場すると、違和感を覚えてしまいます。

宮廷で演奏するシーンでは、ピアノではなくチェンバロ、また、演奏している人たちの人数や構成、選曲、髪型、他にも庭のデザイン、こうしたものたちが文化的な人にとっては当たり前でも、絵を描く人にとっては当たり前ではないので、そこの差を埋めることが大切になってきます。

時代物の漫画の描写は難しい

特に日本では、武器や兵器の描写に対して非常に詳しいファンが多く、その点については厳しく指摘されることがよくあります。しかし、それ以外の部分、食文化や調度品、建物、衣服といったものはおろそかにされることもあります。

「別に大した問題ではないから、適当でもいいでしょう」と思う人もいるかもしれませんが、 例えば、私たち日本人がアメリカ人が作った作品を見て、中国の調度品と日本の調度品がごちゃ混ぜになって、 神道と仏教も混ざって出てきたら、「うーん、なんだか…」となんとも言えない気持ちになると思います。

これらをよりリアルに描くためには、当時の資料や写真を参考にしたり、映画やドラマからその時代の雰囲気を掴むのが効果的です。少し手間がかかるかもしれませんが、そういった細かい部分にこだわることで、読者にとってより没入感のある作品ができそうです。

(※カバー写真はファンタジーな雰囲気もあるフランス・ボーヌ市街です)

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