有楽町・数寄屋橋に位置する東急プラザ銀座は、地下におしゃれな飲食店が集まっています。キャビアやシャンパンが楽しめるお店もありますが、あまり知られていないのが「グランマルシェ・デュ・ヴァン 銀座店」です。
この店舗は一番奥に位置しており、手ごろな価格でワインと軽食を楽しむことができます。特に目を引くのは、エノマティックに置かれた高級ワインです。1本10万円に近い超高級ワインが、千円台から量り売りされています。普段はなかなか味わうことのできない逸品を1グラスから体験できます。
まず最初に、専用のカードを購入します。
このカードはプリペイド式で、5000円以上チャージするとカード発行手数料が無料となります。また、10000円チャージすると500円分のサービスが付与されるため、高額なワインを楽しむ予定の方は最初から多めにチャージすることをおすすめします。
あとは、カードをエノマティック機械に挿入し、希望する量を選んで押せばOKです。
その後、グラスに注がれます。無料でお水なども提供されるため、様々なワインを試飲しながら味覚を磨くことができます。
安いものだと250円程度から試せるので、ワインの経験値を上げることができます。
地方に住んでいると、こうした高級ワインは中々飲めないので、最初に来たときは本当に感動しました。
テイスティングメモ
フィサン クロ モロー モノポール
石灰質で酸味が強い。想像以上にあっさりしていて余韻などは短く感じます。
抜栓してから時間が経っているのか、もしかしたら開栓直後の方が美味しいのかもしれません。
フィリップ・シャルロパン シャブリ 1er フルショーム
近くの区画のボーロワよりも樽香が強めでバニラを感じます。エレガントで余韻が長いのが特徴です。
国産の柑橘を思わせる香りで、甘夏や文旦のような甘みの少なく苦味の多い品種の皮を割ったときのような香りです。
上品で骨格もあり、10年以上の長期熟成ができそうです。
マルク・モレ サン・トーバン・プルミエ・クリュ・シャルモワ
モレ・ニエロン家とコラン家は、横浜家系ラーメンよりも遥かに複雑で、理解するのに非常に難解です。フェルナンモレからマルクモレへ、さらにマルクモレ・エ・フィスやモレ・コフィネに至るまで、アルベール系にはベルナールモレやジャン・マルク・モレ、トマモレなどがいます。とにかく似たような名前や系譜が非常に複雑で、覚えるのが難しいです。
試飲する際には、そうしたことはどうでもいいことですが、このサン・トーバンのシャルモワは、アンレミリィと同等に優れた畑です。
このシャルモワは、同じようにバニラ系の香りがトップノートで強く出ますが、柑橘ではなく新品の桐箪笥のような、乾燥した木材の香りが出てきます。飲んでみると甘みが強く、鶏肉などの料理に合わせやすい印象があります。
シャペル・シャンベルタン ピエール・ダモワ
このワインは桁違いに美味しいです。香りにはキノコやプーアール茶のような特有なニュアンスが。冷涼さと果実の熟成を感じさせ偉大なビンテージだと分かります。全体的にバランスが非常に良く取れており、様々な要素が調和しています。
また、意外なことに、飲み頃が早く訪れています。通常、こうした高品質なワインは長期間熟成させることが一般的ですが、早い段階から楽しむことができそうです。
エキスや旨み成分が非常に強く、口に含んだ瞬間からその深い味わいが広がります。意外なことに、格安で流通しているオークセイ・デュレスのクロ・デュ・ムーラン・オー・モワーヌのような古酒特有のダシのような風味や、骨格を感じることができます。
一般的にジュブレ・シャンベルタンで語られる、筋肉質で本革のような香りとは異なり、フローリスやクリードのような英国の香水のような雰囲気もあり素晴らしいです。
ジュブレ・シャンベルタン クロード・デュガ
生花の香りで包まれるジュブレ・シャンベルタンで、バラではなく仏花に使われる菊の花のような香りです。
抜栓から時間が経ったためか、酸味が強かったのですが、中々よいジュブレ・シャンベルタンでした。
日本の仏花のようなニュアンスが特徴で面白かったです。
シャルロパン クロ・ド・ヴージョ
このワインは何が何でも濃すぎます。グロ・フレール・エ・スールとは異なり、葡萄の段階で驚くほどの凝縮が行われていることが分かります。しかしこれほどの濃さは、飲み疲れをもたらすほどです。長期間の保管は可能だと思いますが、エレガントなクロヴジョの特徴はなく、単に力強い印象が主体です。個人的には、モンジャール・ミュニュレのヴージョ・プルミエ・クリュの方が好みかもしれません。
私は土の香りと鉄分、五香粉のようなスパイス香りがあるクロ・ド・ヴージョが好きなので、少し物足りなさを感じました。
シャルロパン エシェゾー
このワインは骨格を持っていますが、アルヌー・ラショーのようなスパイスや八角の香りは控えめです。飲み頃は10年以上先だと思います。
バラのような花の香りが優勢で、コンフュロン・コトティドに似た印象があります。
2020年のビンテージには共通点があり、どれも非常に濃厚です。香りは良いのですが、エシェゾーとしてはやや単調な香りに感じます。
- エシェゾー:10ml 1,550円、25ml 3,730円、50ml 6,700円。
- クロ・ド・ヴージョ:15ml 1,770円、25ml 2,810円、50ml 5,490円。
販売価格は、エシェゾーが99,000円、クロ・ド・ヴージョが80,300円です。
一昔前には、どちらも約3万円前後であったことを思うと、最近のブルゴーニュワインの価格上昇は異常です。
6杯取りでしっかりと125ml飲む場合、1グラスあたり16,500円となります。
一般の飲食店なら1グラスあたり3〜5万円程度に相当するため、その価格の価値があるかは未知です。
試飲に意味があるのか?
もう一つ重要な悩みが、試飲に意味があるのかということです。
1本のワインをオーケストラに例えるとします。
オーケストラでは序章からAllegro、Adagio、Scherzoといったように共通したテーマの中で、テンポやリズムが変化して一つの物語性を形成します。
友人とワインのコルクを抜いて、何日かかけて楽しむ場合は、全ての目録とじっくり対峙したことになります。
これは、1本のワインを理解するには最も正しい方法です。更に良いのは、定期的に同じボトルを開栓することです。
1ケース(12本)単位で買って何回も飲むのは、そのワインの本質を理解する最短の方法です。
1グラスだけ飲んだ人は、1曲だけ聴いた人に近いです。
抜栓直後であれば、序曲だけ聴いた人になってしまいますし、数日後の最後の1杯を飲んだ人は最終章だけを聴く人になります。
10mlだけを飲む人はなかなかに最悪で、カラヤン指揮のブラームス交響曲第1番の途中の1分を聴いて、その曲を語る行為に近いです。
本来であれば1本じっくり対峙するべきですが、わずかな部分を切り取って判断するのは不可能なことです。
そんなわけで、経験値が上がると紹介しましたが、できれば25ml、できれば50ml。可能であれば125mlほどは飲まないと、そのワインの良し悪しを判断するのは不可能な気がします。
そして、そのワインの本質を理解するのであれば、同じワインを様々な料理に合わせて何度も飲んだり、同じ銘柄の別の年数を垂直飲みしたり、近隣の畑や生産者と比較したり、掘り下げないとなりません。ただ、上記のように1本10万円もするような高級ワインを日常的に飲むのは不可能なのがジレンマです。