「ねえパパ、クマさんこっち向かせて」
「えっ!? ………おーい」
「あーもう!クマさん逃げちゃったじゃん。パパ嫌い」
中学生カップルが間違って動物園にきてしまった。
「あはは、子供ばっかりだね、あはは」
「あはは、そうだね、あはは」
「ねえパパ、お猿さんが喧嘩してる。かわいそう。喧嘩とめて!」
「えっ!?」
「かわいそうだよ」
「きょええええーー!きょえええーー!」
どこからか謎の鳴き声。
はんっ、やってらんねー!
「さあ、そろそろ見てない動物がいないか確認しようか!」
とお父さんが動物園マップを見ると「ゾーン①」と書かれている。
汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗汗
クジャクが羽を広げるのを今か今かと待つ親子。
「ねえパパ、クジャクさんいつ羽広げるの?」
「えっと……もうすぐ、広げると思うよ」
「ねえ、クジャクさん羽広げるの見たい」
子供が檻の前にある羽を広げたクジャクの写真を指差している。
心身の不一致を感じながら、行き場無くさまようチーターの姿。
お父さんが鏡を見るようにじっと見入ってしまう。
「ねえ、お父さん、行こうよ、もう行こうよ」
「ねえパパ、シロクマさん飼いたい」
「えっ!? でもシロクマさんは大きいから……」
「じゃあパパのかわりにシロクマさんと住める?」
「ねえなんでママはいつも、動物園に一緒に来ないの?」
「えっ!? それは……用事があるからじゃないかな」
「パパと僕がいるとだめな用事なんだね」
「ペンギンにエサをあげれるって、あそこに書いてあるよ!」
「えっ?! でもあれは11時から3時からしか……」
「でもあげれるって書いてあるもん」
「えっ?! でも、あと2時間待たなければ……」
「待つもん!」
「えっ?!」
なぜか滑り台コーナー。
動物はいない。
強いて言うなら待っているお父さんが動物を見ている。
帰り際に、入り口から一番遠い「は虫類の館」をもう一度見たいと言われる。
「ねえパパ、コウモリさんもう一回見たい」
「えっ!? でもあれって、ここから一番遠いから……」
「さっき見れたじゃん。もう見れないの?」