ワイン好きというのは、心のどこかにヒグマを飼っているような気がしてなりません。一度自分の「獲物」だと思ったワインに執着し、その時の香りや味わい、色を鮮明に覚えていて、別のワインを勧められても「あの時の獲物じゃない」と拒むように強いこだわりを見せることがあるからです。
大半のワイン愛好家は優しく穏やかな家庭的な一面も持っていますが、心のどこかには攻撃的な一面があり、SNS上ではその攻撃性を垣間見せることもあります。残念ながら、私も心の中にそのヒグマを抱えているようで、「キュヴェ三澤」に対して強い執着心があります。
今回、りんりん氏とブラインドテイスティングで飲んだのですが、ファーストインプレッションは「メロンソーダ」でした。アサヒが昔出していたメロンクリームソーダの香りとそっくりで、二人して笑ってしまいました。あの喫茶店で出てくるメロンクリームソーダではなく、缶に入った自動販売機で売っているタイプのやつです。
今でこそブルゴーニュワインについて偉そうに語る私ですが、小学生の頃は缶入りのメロンクリームソーダが大好きで、デカビタやライフガードも愛飲していました。ライフガードの迷彩柄のパッケージなんか、少年の心を掴むには十分すぎるデザインでしたね。
話が逸れましたが、この「キュベ・ミサワ 明野甲州」は抜栓直後、メロンクリームソーダの匂いしかしなくて、時間が経つと軽減しましたが、あまり良い印象ではないブドウの香りが残りました。りんりんは「イタリアの謎の土着品種っぽいね」と言っていました。
※写真は、りんりんの”舞”です。左のプスドールが美味しかったため、舞が見れました。
実は、私たちは以前、甲州のワインをたくさん飲んでいた時期があり、その頃はほぼ正確に100%の確率で甲州を当てられていたのですが、今回は全然違う味わいで驚きました。それだけいつも飲んでいる甲州とは別物だったということです。
ただ、りんりんからは「ブドウの醸造技術が低いか、樹齢が若すぎるか、土壌が良くないのかも」との酷評が出ました。確かに飲んでみると、複雑味や香りがほとんどなく、まるで骨格のないジュースのようでした。
キュヴェ三澤 明野甲州は何度も飲んで感動していたワインでしたが、今回は期待していた2012年ヴィンテージに初めて触れて、その完成度の低さに驚きました。裏を返せば、キュヴェ三澤 明野甲州は毎年確実に進化しており、新しいヴィンテージほど完成度が高く、美味しくなっている証拠です。
特に2015年から2018年あたりのヴィンテージは非常に洗練され、クリーンで凝縮されたブドウの味わいの中に骨格があり、ワインから強いインスピレーションが伝わってきます。私は侍のようなワインだと思ったこともありましたが、2012年からわずか5年程度で大きな進化を遂げているのが印象的です。
結局、今回の2012年は1週間ほどかけてダラダラと飲みましたが、最初の1日2日でメロンクリームソーダの香りが揮発し、その後は何となく安っぽい香酒の香りが漂いました。最近飲んだアルガーブランカ・イセハラの2010年と比較すると、当時の技術ではアルガーブランカの方が優れていたと思わざるを得ません。
バックヴィンテージのキュヴェ三澤 明野甲州に期待を寄せて飲んだ結果はやや残念でしたが、収穫がなかったわけではなく、キュヴェ三澤 明野甲州は進化し続けており、特に最近のヴィンテージでその品質が急激に向上していることが確認できました。これは非常にポジティブな発見でした。
ちなみに「キュヴェ三澤 Blanc」はシャルドネ、「キュヴェ三澤 明野甲州」は甲州で作られています。今日のんだ物は、もしかしたら現行ボトルの「甲州鳥居平畑プライベートリザーブ」の方が技術や味が上かもしれません。