石破茂氏の地方創生構想、その現実的な問題点とは?

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石破茂氏が地方創生を掲げる背景には、日本全体で進行する人口減少や地方の過疎化という深刻な問題があります。特に、過疎化が進む地方では、若者の流出が止まらず、高齢化が進行する中で、地域経済やコミュニティの存続が危ぶまれています。石破氏はこの状況を憂慮し、内閣府特命担当大臣(地方創生)として、地方経済の活性化と地域社会の持続可能性を強調してきました。

今回の自民党総裁選で新総裁に選出され、今後、総理大臣に就任する可能性が高いですが、その際、彼の地方創生構想がさらに推進されることが予想されます。しかし、この構想には、現実的に解決が困難な大きな問題が立ちはだかります。

地方創生は現実的ではない

地方創生が現実的ではない理由は数多くあります。

その一つが人口減少と、同時に進行する地方のインフラ維持の困難です。過疎化が進む地方では、経済的な活動が低下する一方で、インフラの維持や更新に多額の費用がかかります。また、老朽化が進んだ建物や設備の改修にも資金が必要です。日本全体でインフラの老朽化が深刻な問題となっており、地方自治体にとってはこれが大きな負担となっています。

例えば、わずか数十人が住む小さな村においても、道路やガードレール、橋、信号機、水道、ガス、電気、インターネットといった基本的なインフラの維持は必要です。また、災害対応のために消防署や救急車、警察も確保する必要があります。これに加えて、バス路線が廃止されることが多いため、自治体がワンボックス車を用いたコミュニティバスを運行するケースも見られます。さらに、食料品の販売が困難な地域では、移動販売車が配置されることもありますが、こうしたコストは住民数に見合わないほど高額です。

また、人口減少が進むと、住民が納める税金の額も減少します。一方で、道路や橋といったインフラの維持費は変わらずかかるため、地方自治体の財政を圧迫します。地方創生の試みは多岐にわたりますが、限られた予算の中でインフラを維持しつつ、地方を発展させることは現実的に厳しいといえるでしょう。

地方のインフラ維持に限界が訪れる

日本の地方における道路や橋などのインフラは、主に高度経済成長期(1955年~1972年)に建設されたものが多くあります。これらのインフラは、2024年現在で建設から約50年が経過しており、老朽化が進んでいます。鉄筋コンクリート構造の建築物でも、半世紀が経過すると補強や改修が必要となり、崩壊のリスクも増大します。

参照元:社会資本の現状と将来予測https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/02research/02_01.html

例えば、トンネルや橋のような重要なインフラは特に老朽化が顕著であり、数十年が経過した場合、莫大な費用をかけて補強する必要があるケースが少なくありません。こうした維持費用は、インフラが広範に分布する地域ほど増大し、限られた人口の地方では十分な税収を確保できないため、維持が難しくなります。人口減少と高齢化が進む中で、地方のインフラ維持は限界に達しつつあり、地方創生の実現は非常に困難です。

都市に近いほど公共事業費も圧縮できる

一方、都市部に近いほど公共事業費が抑えられるという現実もあります。たとえば、静岡市の人口は約68万人で、埼玉県川口市は約61万人、千葉県船橋市は約64万人と似た規模ですが、土木費はそれぞれ大きく異なります。2024年の静岡市の土木費は約404億円に対し、川口市は約100億円船橋市は約67億円です。

参照元:静岡市の財政状況
https://www.city.shizuoka.lg.jp/s3627/s008127.html
参照元:川口市 予算(令和5年度)
https://www.city.kawaguchi.lg.jp/soshiki/01020/030/3/4_8/index.html
参照元:船橋市 令和5年度当初予算案の概要
https://www.city.funabashi.lg.jp/shisei/zaisei/001/p112992.html

これは、静岡市が山間部を多く抱え、広範なエリアのインフラ維持に多額の費用がかかる一方で、川口市や船橋市は都市部に近く、平地が多いため、特殊な工事や維持管理がそれほど必要ないためです。このように、都市部に近い市町村の方が公共事業費を抑えられる傾向にあり、地方の維持管理費は都市部よりも格段に高くなります。

静岡市葵区

空き家問題も加速

地方創生が困難な要因として、もう一つ深刻なのが空き家問題です。過疎化が進む地方では、築50年以上の住宅が次々に空き家となり、解体費用が捻出できずに放置されるケースが増えています。この問題は、地方だけでなく都市近郊でも見られ、千葉県や埼玉県、神奈川県などでも空き家が増加しています。

参照元:空き家問題とは?日本の現状や対策、私たちにできることを解説
https://cococolor-earth.com/empty-house/

特に地方では、建物の価値が低いため、解体後に土地が売却される見込みがなく、結果として空き家がそのまま放置されることが多いです。また、相続人がいない場合、最終的には国に帰属することになりますが、これが地域の景観や治安にも悪影響を及ぼします。こうした空き家問題は今後ますます深刻化していくと考えられ、地方の衰退をさらに加速させる要因となります。

災害時、どこまで復興できるのか

台風や豪雨などの自然災害によって大きな被害を受けた地方の小さな町を復興するには、膨大な費用が必要です。人口1万人程度の町でも、住宅の再建やインフラの修復、農業や漁業の復興支援、公共施設の再建などにかかる費用は少なく見積もっても約100億円に上ります。

具体的には、住宅の再建費用として1軒あたり約500万円~1,000万円が必要であり、数百棟が被害を受けた場合、総額は数十億円に達します。また、道路や橋といったインフラの修復にも1kmあたり数億円が必要であり、主要なインフラが損壊した場合には、数十億円規模の費用がかかります。さらに、農業や漁業への復興支援、公共施設の再建も考慮すると、復興に必要な総額は100億円を超えることが容易に想像できます。

持続可能な発展への道筋

現在の日本では、人口減少と高齢化が進み、地方創生を推進することは非常に難しい状況です。

地方のインフラ維持には莫大な費用がかかり、一方で税収は減少しています。このような状況下で、日本全体のバランスを考慮した地方創生を進めることは理想的です。むしろ、都市部の再開発や集約化されたコンパクトシティへの取り組みが現実的な選択肢として浮上してきています。

石破氏が掲げる地方創生は、日本全体の人口減少や過疎化に対する理想的な解決策かもしれませんが、実際にそれを実現するためには多くの障害があります。地方のインフラ維持費の膨大さ、人口減少に伴う税収減、さらには空き家問題の深刻化など、現実的な課題は数多く存在します。日本全体で見れば、限られた財源の中で地方と都市のバランスをどう取るかという問題は避けて通れません。

今後、国や自治体は、地方創生と都市集約化の両方を視野に入れながら、日本全体の成長戦略を練り直す必要があるでしょう。どちらか一方に偏らず、地域ごとの特性を活かした柔軟な政策が求められています。

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