読書にはオリーブオイルの灯りを

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眠れない真夜中にふと小説を読むとき、もしくは繊細な心理描写を持つ映画を楽しむとき、人類の叡知とも言える発光ダイオードのまばゆく人工的な光は消すことにして、オリーブオイルの生み出す柔らかで温もりを感じる灯りにその役割を担ってもらってはどうか。

このオイルフロートは、市販されているお好みのサラダオイルの上に浮かべて灯芯に火を点けるだけで手軽に楽しめる仕様となっている。

この製品にはオイルに浮かべるフロート5枚、そのフロートに挿して火を点ける灯芯が120本ほど入っているため当分は楽しむことができるだろう。このフロートは、空気を溜めるために作られたポケットに、空気を封入した状態を保つようにゆっくりとサラダオイルを注ぐことで、ポケットにある空気の浮力でフロートがサラダオイルに浮遊するという算段だ。そのポケットの間に設けられた溝をサラダオイルがくぐり抜けて灯芯に達し、その灯芯がサラダオイルを吸い上げることによってランプの機能を果たしている。灯芯の燃焼によりサラダオイルが消費され油面が降下してくると、灯芯が油面から突出し火が大きくなることでフロートが熱変形してしまうことと、フロートを浮かべるグラスは耐熱性のものを用いることには注意を払わなければならない。なお一般的なサラダオイルは発火点が300℃以上もあり、キャンドルなどに比べて安全性は十分に高い。グラスにあらかじめ水を注いでおき、そこにサラダオイルを入れて使用するとサラダオイルと水が綺麗にセパレートされ、オイルを使い切ると同時に水によって灯芯の火が消火されるためさらなる安全性を確保できる。あらかじめ注いでおく水に着色を施してもまた違った色味の光が楽しめるだろう。灯芯の長ささえ適切であれば、煤も全くと言っていいほど排出されない上に、周囲の物や壁紙の表面に油が付着して不快な手触りとなることもない。

酸化して料理には使えないようなサラダオイルや、ポマスなど風味が優れないサラダオイルを捨てるのは忍びないと思われるかもしれないが、これはそのジレンマに対する合理的なソリューションの一つでもあるだろう。

特にオイルとしてオリーブオイルを用いるとこのランプは真価を発揮する。十字軍によりセントジョンズ島から持ち込まれ、照明においても鮮やかな緑色を保ったことからローマ人に「夜会のエメラルド」とも称されたペリドットにも劣らない、美しく澄んだ緑色が灯りによって照し出される。オリーブオイルの和名である「橄欖油」という名付けにも納得がいくだろう。そして、灯芯の火によって徐々に温められたオリーブオイルはグリニッシュでフルーティーな香りを周囲に漂わせる。

第二次ポエニ戦争中の紀元前203年、現チュニジアのウティカにおける戦いでスキピオ率いるローマ帝国軍がカルタゴ軍に対して決定的とも言える勝利を収めた際に、約2ガロンのオリーブオイルが支給されたと言うが、それほど貴重なオリーブオイルを現代においては湯水の如く使用することができることに有り難さを感じられずにはいられない。

魅力はオリーブオイルの生み出すその光そのものだけに留まらない。バカラやサンルイ、そしてウォーターフォード、自分のお気に入りの美しいレッドクリスタルグラスを使えば、オリーブオイルの生み出す光はそのクリスタルの洗練されたカットによって、まるですべてが計算されていたかのように緻密で美しい幾何学模様としてテーブルの上や壁、そして天井に射影される。ノートルダム大聖堂のステンドグラスや、サマルカンドに在るグリ・アミール廟のアラベスク模様を彷彿とさせるような対称性のある紋様が油面の揺れにより周期的にその姿を移ろわせるのはあまりに繊細で、尚且つ人々が戦勝を祝い灯心を囲んで踊っているかのように豊かな表現を感じ取れる。

オリーブオイルの灯りは時代に逆行していると思われるかもしれないが、悠久の時を経て人々の生活を照らし続けてきた理由が其処に在る。

柔和でくすみのないその輝きの前で、手元の本はいつもより饒舌に語り始めるだろう。

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