みなさまこんにちは、ライター高橋です。本日は、フランスの大家で管弦楽の魔術師とも称されるM.ラヴェル作曲のマ・メール・ロワを紹介したいと思います。
まずはラヴェルについて軽く解説いたしましょう。ラヴェルは19世紀後半~20世紀前半にかけて活躍した印象派の作曲家で、一般的には「ボレロ」や「水の戯れ」といった作品が知られています。その洗練された和声感と多彩なオーケストレーションによって音楽会に多大なる影響を与えているラヴェルですが、その人生は順風満帆とは行きませんでした。たとえば青年時代、「ローマ賞」という作曲界に置いて登竜門とされていた賞に5度挑戦するも、大賞を受賞することが出来ませんでした。5回目は特に波紋を呼び、当時パリ音楽院学長であったデュポワまでもが辞任に追いやられるなどといった一騒動にまでなりました。しかしそれは、それだけラヴェルが各方面から高い評価を受けていたと言う証拠でもあると思います。また1933年頃より失行症に陥り、文章や楽譜を書くことはおろか今までに創作した自分の曲でさえもはや判別がつかなくなってしまうほどに衰弱しました。しかしその音楽性だけは衰えず、自作曲の演奏者へ指導などをしていたと言うから驚きです。
マ・メール・ロワ
さて、前置きはこのぐらいにして本題へ移りましょう。マ・メール・ロワはいわゆるマザーグースと同意のフランス語であり、この曲集の作品はフランスの作家ペローの作品を始め、様々な童話からモチーフを得ています。元々は子供向けにピアノの連弾曲として書かれたものですが、やがて管弦楽やバレエ曲として編曲されて世界中で愛されている作品の一つです
1. 眠れる森の美女のパヴァーヌ
1曲目は童話としてはもちろん、近年ではディズニーがアニメ化したり劇団四季などのミュージカルなどでも取り上げられることの多い、眠れる森の美女がモチーフになっています。Lent、とてもゆっくりと。どこかセピアの写真のように、色あせてしまったような、しかしなんだかとても心地よい和声によって支配された旋律が、木々に囲まれた穏やかな森の様子と、そこに横たわる美しきお姫様と言うなんとも夢のある情景を描き出しています。
2.親指小僧
一寸法師とも呼ばれるこの作品。パンを道に撒いておけば自分がどこにいってもそれを伝って道がわかるだろうと思った小僧、しかし、鳥がパンを全部食べちゃった。彼はどこにもパンを見つけられなくてびっくり!といったいかにも可愛らしく童話らしいお話がモチーフです。3度と言う音程関係によって続いていく道のり、時々現れる拍子の変化は気まぐれでしょうか?中間部にはまさに鳥の鳴き声のようなパッセージ。とてもユーモアに満ちている作品でしょう。
3.パゴダの女王”レドロネット”
マリー・カトリーヌによる緑の蛇と言う童話の一説からモチーフを得ています。パゴダとは塔と言う意味であり、悪い妖精によって姿を醜くされてしまった王女がそこに住んでいます。その後様々な困難を乗り越えて王子様と結ばれるといった、いわゆるプリンセスストーリーと言うジャンルになるお話です。その物語の中から、王女がお風呂に入ると中国の陶器で出来た人形たちが歌ったり、様々な楽器を演奏したりといった微笑ましい一説が取り上げられています。冒頭快活なテンポで始まり、木菅楽器がコロコロとメロディを奏でていきます。中間部で歌のような旋律で世界が広げられた後、再び木管が主役となり華やかに締めくくります。
4.美女と野獣の会話
こちらの作品は、ヴィルヌーヴによって書かれた美女と野獣よりモチーフを得ています。野獣の求婚を一度断った美女ですが野獣の真実の愛を知った後、死に際の野獣が「最後に一目会えて悔いなく逝ける」といったのに対し「あなたは死なない、私の夫になるのよ」と告げ、その瞬間二人は結ばれて野獣にかけられていた魔法が溶ける。といった感動的なシーンです。ソプラノにて奏でられる美しい美女の声と、低音の木管によって奏でられるしゃがれた野獣の声の対比や、G.P.により一瞬音楽が止まり野獣の死が表現されるなど、細部に渡って世界観を表現している感動的な作品になります。
5. 妖精の園
1曲目と同じく、眠れる森の美女がモチーフとなっています。王子とのキスによって、永久の眠りから解放されるといった感動的なシーンを描いています。Lent et Grave 重く、荘厳にといった指示の元、重い扉がゆっくり開かれて少しずつ光が刺すような幻想的な冒頭に始まります。高音部でのまるで蝶が飛び交い囁いているかのようなPPを経て、大地のそこから湧き上がってくる喜びの渦が解き放たれたならば、ついに彼女は目覚め、そこにある全ての生命が祝福を捧げるでしょう。
オススメのCD
この作品は録音されることが少ないので、選択肢が狭いのですが、Amazonで買えるものですと、ジュリーニとロサンゼルスフィルのものなどが良いかと思います。ジュリーニはイタリア人でありながら、主にドイツ系の作品を扱っていた指揮者になります。しかし、個人的には同様にフランスものやロシアものなんかの演奏も素晴らしいと思っております。同じCDに収録されている展覧会の絵なども素晴らしい作品なので、後々紹介できたらと思っております。
おわりに
マ・メール・ロワ、いかがでしたでしょうか?きっとこの作品を聴き終えた頃には、いつもおねだりして楽しみにしていて、聴き終える頃にはいつの間にか眠っていたような、そんないつかのおとぎ話を、あなたもふと思い出したのではないでしょうか?都会の喧騒に塗れていつしか童心に帰りたくなった時は、もう一度この作品を思い出してみてください。きっとあなたの心を癒してくれることでしょう。