久々に食器の話をしてみます。都会だと洋食器の文化もある程度は根付いているようで、喫茶店でカップ&ソーサーを楽しんだり、百貨店の食器コーナーで選ぶカップルの姿を見ることがあります。
中古ショップでもブランド食器が人気で、マイセンのトレーを20代のカップルが眺めていたかと思ったら、ほんの2分ほどで「買って行こうか!」と即決していたのを見てさすがに驚きました。コロナによるライフスタイルの変化で、ステイホームが増えてきたことによる紅茶や珈琲の習慣と、洋食器の人気がジワジワと広がっているのかもしれませんね。
30年ぶりにラスター彩が復活の兆し?
食器の愛好家をしていて驚いたことがあるのですが、最近は昭和レトロがブームになり「ラスター彩」が再び流行しつつあるということです。駅ビルでFrancfrancの前を通りがかったとき、虹色の表面つやがあるカップ&ソーサーを見かけて、ついつい手に取ったところ、まさに昭和にブームが起こったラスター彩でした。陶磁器にラスターという釉を薄くかけ、表面に金属のような虹色の光沢を表した彩色技法です。ルーツは9世紀-14世紀のイスラムにありますが、現代でもその独特な貝殻のような輝きが、夢か可愛く見えるのかもしれませんね。
2000年頃には新聞の折込チラシの通販で、「カップ&ソーサー5客セットで9,800円!」などと西洋風のラスター彩カップ&ソーサーが売られていたのを覚えています。この昭和レトロなカップはネットでは割高ですが、フリーマーケットなんかに行くと格安で並んでいるので、柄が好みなら買っても良いかもしれません。
品質の良いカップ&ソーサーの見分け方
まずは離れた距離で形状を確認します。珈琲用なのか紅茶用なのか、サイズは小さいのか大きいのか。
水平の位置にしゃがみこみ、シェイプを確認すると生産国が分かるかもしれません。上記のカップ&ソーサーは英国ウェッジウッドのリーという形状ですが、百種類以上のシリーズが展開されているので覚えやすい特徴的なものです。白磁はやや乳白色で、クリーム系の卵の殻のような柔らかい色合いです。下地の色に注目すると、ドイツなのかイギリスなのか、それとも北欧系なのか判断できるときもあります。一概にはいえませんが、クリーム系は英国に多く、中国陶磁器のようなニュートラルな白はドイツ、やや青っぽい白色は北欧系にありがちです。
上記の写真は、名前の通り『ハミングバード』が描かれたカップ&ソーサーですが、実はプリント転写になっています。銅版印刷やシルクスクリーン印刷など、いくつか種類がありますがウェッジウッドの転写技術は優れていて、絵画の銅版転写に水彩画で手彩色を施したような独特なツヤ感になっています。影の付け方も素晴らしく、躍動感あふれ今にも飛び立ちそうな姿です。
形状を見たあとは、描かれているモチーフを眺めて、それがハンドペインティングなのか、それとも転写プリントなのか確かめるのも見分ける要素の一つです。食器愛好家には「プリント=安物=悪いもの」と飛躍して考えている人もいますが、プリントでも優れている食器はありますし、ハンドペイントでもイマイチなものもあります。
このロイヤルコペンハーゲンの、サクソンフラワー(ザクセンの花)というシリーズです。一つずつ手描きで絵付けが施されています。欧州までアンティークの買い付けに行っているバイヤーの話では、この手のロイヤルコペンハーゲンは貴族が12客から24客といったロットで発注するもので、当時は1個単位で売ることはあまりなかったということです。真偽のほどは分かりませんが、100年以上前のカップ&ソーサーにはバックスタンプ(ホールマーク)が12個中1個しか押されなかったものさえあるそうです。
仏バカラのグラスも、古いものにはスタンプがありませんが同じ用に非常に古いカップ&ソーサーにはスタンプやマークが存在しないものもあります。必ずしも無印=無名メーカー製造という訳ではないので、覚えておくといいですね。
ちなみに極めて見抜くのが難しい贋作というのが存在します。それは下地の焼き物は本物のマイセンで、後から別の工房が絵付けをしたというものです。マークも本物で、下地も本物ですが絵だけ異なる。まるで漫画オークションハウスに出てきそうなストーリーです。
一脚、数十万円以上する最高品質の絵付け食器は、フラッグシップモデルとして「マスターピース」と名付けられて職人のサインが入るときがあります。マークをチラッと見たときに、シグネーチャーがあったら「もしかして…?」と疑ってみても良いかもしれません。
焼き物のレベルが年々下がっているといわれる一因が、白磁のもとになる採掘粘土です。陶磁器は粘土に長石や石英などの粉末をまぜて成形・焼成しますが、その元となる素材で色合いや硬さなどが異なってきます。
古いロイヤルコペンハーゲンやB&G(ビングオーグレンダール)なんかは、光にかざすと外の絵が透けて見えるほどに素地が透明で、それでいながら強度が高く、長石や石英の比重が高いため指で弾くとガラスのような高い音がします。
2000年頃からロイヤルコペンハーゲンはデンマークから、安価に大量生産できるタイに工場を移しました。今では製品の99%以上はタイで製造されているようです。ロイヤルバンコクハーゲンとか揶揄している人もいるくらいです。工場を移してから、素地に変化があり厚くぼってりとした下地になってしまいました。陶器のような鈍い音がして、厚みもあり重量も増加しています。
カップ&ソーサーを手に取ったときは、光にかざしてどれだけ透過しているのか確認すると、製造された時代が大まかに分かるかもしれません。先日の【渋谷 松濤美術館】デミタスカップの愉しみに行ってきましたに並んでいる工芸品のカップの中には、卵の殻より光を通すような極めて薄いものが並んでいました。
必ずしも、『薄い=品質が高い』とはなりませんが、同じブランドの同じようなカップ&ソーサーが並んでいるときに、優れた食器を見つけるヒントになります。
最後に金彩です。この厚みのある口元の金縁はドイツ・ドレスデンか、イギリスの田舎のアンティークで良く見かけます。この時に金の厚み、金彩の品質(含有量や反射)、エンボスの立体感やモチーフなどを見ておくと良いカップか判断する指標になります。
金の品位というのは意外に分かりやすいもので、一番良いのはアンティークショップや百貨店を何度か往復して、本当に高級な10万円以上のカップ&ソーサーと、3千円以下の金縁のカップ&ソーサーを比較すると、安いものはプラモデルの金メッキ、もしくは女児の玩具のような安っぽさがあります。ステンレスの表面にメッキしたようなチープな輝きです。
逆に超高級なカップ&ソーサーに用いられている金彩は、どちらかというと宝飾品店に並んでいる指輪、それも18金ではなく24金のような黄色と影になった部分は、深い黒が落ちるような吸い込まれるような質感です。
こればかりは数を多く見ると何となく分かるようになっていきます。アンティークのジュエリー愛好家なんかは、金の割材によって色合いが異なるので、不純物が何か言い当てれるような人もいるそうです。さすがに、そこまでは無理ですが、ちょっと見慣れるだけでカップ&ソーサーの良し悪しが分かるようになって楽しいですよ。