渋谷文化村『ポーラ美術館コレクション展 甘美なるフランス』の感想

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昼頃に渋谷のBunkamuraにあるザ・ミュージアムに行ってきました。お目当ては、11/23に閉幕してしまう『ポーラ美術館コレクション展 甘美なるフランス』です。先日、上野で見た『ゴッホ展 響きあう魂 ヘレーネとフィンセント』の熱が冷めないうちに続けてみてきた形になります。
名称の通り「甘美なるフランス」ということで、フランスの美しい絵画の数々が時代の流れとともに楽しめるようになっています。1枚ではありますが、ゴッホの作品も展示されていました。

お目当ては「ジャン=バティスト=カミーユ・コロー」の絵画で、何点か収蔵されていました。
入り口すぐにカミーユ・コローの作品があるのですが、皆さんは隣にあるクロード・モネの 《睡蓮》にお熱で不人気だったので、じっくり眺めることができました。ポーラ美術館の所有する睡蓮は非常に素晴らしいですが、カミーユ・ピサロやシスレー、ギヨマンの作品群も全く劣ることのない完成度です。厳密には印象派の作品の特徴として、「未完成の状態が完成」なのでそれを完成度と表現するのは間違っているかもしれませんが、いずれにしても心を動かす何かを秘めているというのに違いはありません。

ピエール・オーギュスト・ルノワールの作品も複数収蔵されているのですが、パソコンのモニターで見るのと異なり原画は生々しさを感じました。まるで人物が生きているのではないかと思えるほどの鮮烈な印象です。
後半のマティス、ピカソ、ユトリロ、シャガールなどと比べると表現が古典的で、使用されている油絵の具の発色なども限られているのですが、それでも人物の影やドレスの複雑な色合い、家具の質感など、描かれた空間に飛ばされてしまうような感覚を得ました。

セザンヌ、ゴッホとポスト印象派まで時代が下ると、点描画などの技法を用いて新しさを表現するのに試行錯誤する様子をみることができます。ジョルジュ・スーラが色彩理論や光学理論を用いて絵画に応用したそうですが、油絵の点描画は隣接する色合いの色調が異なり、ごく近くだとチグハグに見えるのですが距離が離れることで色が混じって点で用いられていない色が見えるような視覚効果を生み出しています。
これらの技法はディスプレイや印刷物だと実感しにくいもので、やはり原画と対峙することで意味が理解できました。

フェルナン・レジェ 《鏡を持つ女性》1920年 油彩/カンヴァス

私自身、ピカソを始めとするキュビスムを今まで忌み嫌っていました。理解不能で、美しさも無く描く動機も喪失している、まったくもって意味のない絵画だと思っていました。美術の本やウィキペディアの画像で見ていると、全くもって理解できません。
しかし今回キュビズムの作品を見て、「無機質なデザインを有機的な技術で表現することに新しさがあるのではないか」と思うことができました。ディスプレイで見ると、意味不明な角の連続でパースも整っていない不安定な下手な絵にしか見えないのですが、原画を間近で見ると油の絵の具を用いてキャンバスで線と角の連続で作品を作るということが新鮮に思えました。彼らの頭の中には、現在の映画監督やアニメーターが用いるようなVFXや3Dが存在していて、それを表現する手段が古典的なキャンバスしか無いので、絵画として表現したということでしょうか。ピカソもフェルナン・レジェもMacbookとBlenderがあったら、きっと喜んで自身の脳内をワイヤーフレームにして表現していたはずです。

すっかり忘れていましたが、この『ポーラ美術館コレクション展 甘美なるフランス』の魅力のひとつに、所々思い出したようにラリックやエミール・ガレのガラス作品が並んでいるということです。私は絵画は全くの専門外ですが、ガラスを見たり収集するのは趣味なので偉大な絵画作品の途中で口直しのように見れることに感動を覚えました。
今までガラスの趣味というのは、コスパが悪く無駄金ばかり掛かって仕方ないと思っていたのですが、上記のような世界的に有名な絵画、もしお金に換算したら軽く数千万円から数億円の価値があるような絵画の横に、(ちょっと貯金すれば買えるかもしれない)ガレやラリックの作品が並んでいたので、もしやガラスの趣味ってコスパ良いのでは?とさえ、思えてしまいました。

海外オークションなどで、20万円〜300万円もあれば展示されているレベルの香水瓶が入手できます。それは絵画の原画と異なり、ガレやラリックは工房になっていて、ある程度の大量生産が可能ということにあります。特に手吹きではない型抜きの香水瓶は量産されているので、同一のモデルが市場に複数出回っています。
カミーユ・コローやモネの絵画を個人で入手するのは、例え無名な作品であっても極めて難しいことですが、ガラスであれば同格の美術品が手に入ると思うと夢がありますね!

後半のシャガールやキスリングを見ると、その発色の良さに驚きました。初期の印象派の作品を何点か見ていますが沈んだ色合いがおおく、それがわざとなのか絵の具由来なのか明確な判断がつきません。ただシャガールやキスリングは明らかに現代の油絵の具に似た発色の良さがあり、見たことのない作品であれば「1980年代に描いた?」とミスリードしてしまいそうなものも混じっています。
ピカソもビビッドカラーを多様して、スペインやシチリアのマヨルカ焼きのような配食の組み合わせを絵画に用いています。それでもピカソの絵画はやや沈んだ彩度の低い絵の具なので、時代が古く感じました。

このあたりも原画を見ることによって、自身の目でオリジナルを確かめることができるので楽しみの一つではあります。少々おセンチな考えかもしれませんが、このキャンバスの前で彼らが筆を進めていたのだなぁと思うと間接的に彼らの見た情景がフィルムのように浮かび上がってきます。

ポーラ美術館コレクション展 甘美なるフランス | Bunkamura
「ポーラ美術館コレクション展 甘美なるフランス」の特集ページ

終幕間際ですがゴッホ展と異なり、そこまで混雑しておらず余裕を持って見ることができました。
きっと午前の早い時間に行けばストレスフリーで見ることができるはずです。

中庭のカフェがおしゃれでランチをしようと思いましたが、急にがっつり食べたくなって渋谷でつけ麺を食べてしまいました……。全然おしゃれじゃない…甘美なるつけ麺。

ちなみに余談ですが、ザ・ミュージアムの前にあるお土産店には、なぜか日本であまり流通していない英国のDRHARRIS(ディー・アール・ハリス)の香水が販売されていました!英国王室御用達のブランドで、男性が使っても結構渋いと思います。

そんなわけで渋谷文化村『ポーラ美術館コレクション展 甘美なるフランス』まだ見ていないのであれば、駆け込みで訪れてみてくださいね。

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