誰も教えてくれない!本物のウイスキー選び

一人暮らしの教科書

こんばんは、はっしーです。
ウイスキー選びについて、ネットの情報とモルトバー界隈との情報の差が激しいことが気になり、本当のウイスキー選びについて書く事に決めました。私自身が好きな銘柄に偏りがあり、ウイスキーの歴史的背景や年代物も含めて語れるわけではありません。それでも美味しいウイスキーに出会う方法の一つとして参考にしてみて下さい。

ネットで「ウイスキー選び方」と検索すると例えばこうです。

プロが教えるウイスキー選び(一例)

  1. バランタイン
  2. マッカラン
  3. グレンリベット
  4. カティサーク
  5. ボウモア

こんな感じのランキングになっています。
コンビニでも手に入りそうなラインナップです。確かに超入門としては分かりやすのですが、本当に美味しいウイスキーに出会うには役に立ちません。別の記事にも書いていますが、本当に美味しいウイスキーに出会いたいのであればウイスキー専門のバーでアドバイスをもらうことです。バーテンダーや常連客の中には専門家並の知識を持っている人も居るので、好みから適切な一本を導いてくれます。
オフィシャル、ボトラーズ含めて、価格帯や味などアドバイスをもらうことができます。少なくとも何本か良質なウイスキーをグラスで貰い、それをメモすることで後日手に入れることができるのです。

しかし選んでもらうにしても、予め基本的な知識があった方が良いに越したことはないのです。
ではウイスキーの製法や基礎をササッとおさらいしながら、本当に美味しいウイスキーの選び方について話したいと思います。

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ウイスキーの超入門編

ここでウイスキーの種類について手早く復習してみます。

お酒の種類

お酒は大きく分けて二種類あります。
それは「醸造酒(じょうぞうしゅ)」「蒸留酒(じょうりゅうしゅ)」です。

醸造というのは、しばし日本酒の種類を表す単語をして使われていますが、厳密には醸造酒には「ビール」や「日本酒」、「ワイン」などがあります。これは大麦や米、葡萄などを液状にして、その糖分を「酵母(こうぼ)」が食べてアルコールが生まれるものです。分かりやすく表現すると、ぶどうを潰して放置するとぶどう自身の酵母でワインができることがあります。これが醸造酒です。
しかし実際には培養酵母を使ったり、雑菌の繁殖などでうまくいかない場合がありますが、醸造は古典的なアルコール飲料と言えます。

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一方、蒸留酒というのは、「醸造酒」を加熱して、その水蒸気のアルコールが高い部分だけを集めた物と言えます。ですので基本的には無色透明の物が多いです。ブランデーやウイスキーなどに色があるのは樽の色が液体に移ったためです。
例えばシェリーカスクのような濃い色のウイスキーは、元々シェリー(スペインの酒精強化白ワイン)が入っていた樽を利用します。そのカスク(樽)の中に透明なウイスキーを入れて長期保管しているから濃い色なのです。つまりウイスキーも元々は無色透明なのです。

ビールのような液体を沸騰して生まれたのがウイスキー、と思えばだいたい合っています。

ここから製法についても触れてみます。白州蒸溜所に訪れたときの写真を交えて解説します。

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ウイスキーは大麦でできている

モルトウイスキーでは主に二条大麦を使用します。二条大麦は、穂軸に沿って麦の粒が2列に並んだ種類です。でんぷん質が多く、タンパク質が少ないのが特徴です。麦茶も大麦を使いますが、ウイスキーとは異なり六条大麦という6列に並んだ品種を用います。

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これが「もろみ」と呼ばれる液体です。泡が出ているのは、酵母が大麦の液を食べてアルコールに変えるときに、同時に炭酸ガスを発生させるためです。ちなみに、ヨーロッパのビールはこうした過程で炭酸が生まれるわけです。日本のビールは酵母を取り除いて、後から強力な炭酸を注入します。

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「大麦」を液状にして、酵母を入れて「もろみ」にして、副産物のアルコールを発生させます。それを加熱して、沸騰させ、沸点が水より低いアルコールが蒸発して、それを集めた液体が「ウイスキーの原酒」となります。

上記の写真は、「ポットスチル」といい、ウイスキーのマニアなら必ず一度は話題に出る装置です。魔法使いの帽子のような形をしていますね。この中でグツグツと煮立てて、アルコールだけが、帽子の先っぽから取り出すことができるわけですね!それで出来た無色透明の液を、樽の中に保存するのです。

樽での長期熟成は味をまろやかにするため

樽で透明の液(ニューポット)を長期間保存します。最初はトゲトゲしく荒い味も、時間を経って寝かされる事によってまろやかなウイスキーへと変化します。ボトラーズによっては6年で発売したりすることもありますが、基本的には12年以上寝かせてから出荷します。写真の白州蒸溜所では、温度変化の少ない夏でも涼しい場所に保管されて、日光が余り当たらないようになっています。

なぜ、樽に入れると美味しくなるのか。これには樽に秘密があります。樽は木材(オーク材・楢)を切り出して作られますが、新品を使わないのです。一度、シェリーやバーボンの入っていた樽を、空にしてから透明のウイスキーを入れます。バーボンというのはアメリカのウイスキーですが、バーボンに限っては「新樽」を使います。ウイスキーの種類について説明します。

ウイスキーはバーボンとスコッチの2種類!

バーボンとスコッチ。これがウイスキーを分ける一番大きな種類です。厳密にはアイリッシュウイスキーや日本の国産ウイスキー、カナダウイスキー、台湾ウイスキーなど世界各国で作られています。まずはバーボンとスコッチの2種類だけ覚えておけば大丈夫です。
スコッチというのは、麦だけで作ったもので、「スコットランド(英国)」で作られる伝統的なウイスキーです。日本のウイスキーも製法はスコッチタイプです。バーボンというのは、アメリカを中心に作っているもので、とうもろこしや雑穀・ライ麦なども混ぜあわせて作るものです。大雑把な区別では、この2種類になります。

味の違い、これは本来品種や銘柄、地方によっても異なりますが、大きな差で言うと甘さが違います。バーボンの方が滑らかなカラメルのような舌触りで、「甘く」感じる人が多いはずです。一方、スコッチはシャープでキレが良く、アルコールがツンとくるような尖った香りを感じるはずです。もちろん、スコッチのなかでも甘みを持つボトルもありますが、大きく分けるとこうなります。

スコッチウイスキーにも種類が沢山?

日本で特に人気のスコッチの選び方について話してみます。

この画像ではカリラ蒸留所を例にしています。
まずは中央の図の「シングルモルト」と「カスクストレングス」、これは酒屋で売っている一般的なウイスキーです。
しばし「オフィシャル」と呼ばれる正規品的な存在です。蒸留所が自ら樽詰めを行います。

シングルモルトウイスキー(オフィシャル)の特徴

その蒸留所のイメージを表現したウイスキーです。例えばカリラ12年、またはグレンリベット12年、マッカラン12年など、各蒸留所の個性を表現したウイスキーです。
とても安定した品質を誇ります。例えば日本、アメリカ、イタリアで買っても同じ味がします。世界中にリリースしていて、どこに行っても同じ味が楽しめます。厳密には「イタリア向け」など輸出先に合わせて味が違うこともありますが、現在流通しているほとんどのオフィシャルウイスキーは同じ味がするのです。

そして数年後に同一のラベルを買っても味が変わらないということも有ります。つまりカリラ12年を数年後にアメリカで買っても同じ味であったりするのです。何故かというと、農産物で樽ごとに味に変化があるにも関わらず、蒸留所が樽をブレンドすることによって品質を一定に保っているからです。

安定感と同時に、個性の喪失という問題もあります。数万本、数十万本を何年間も同じ味にするので、樽一つずつの個性がありません。イメージで言うと、新潟県の全ての農家の米を回収して混ぜ合わせて出荷するようなものです。
バランスは良いのですが、没個性的になります。

カスクストレングス(オフィシャル)の特徴

非加水のカスクストレングスは、ややマニア向けなウイスキーで、自社の樽をブレンドしたあとに加水を行いません。これによって樽本来の個性が出やすく、強い香りやインスピレーションを得ることができます。
一方でアルコールが50%以上で飲みにくいというデメリットもあるので、飲みやすさを重視するのであればお勧めできません。しかし蒸留所のリアルな個性を楽しめます。

ブレンデッドウイスキーの特徴

図左のブレンデッドウイスキーは、様々な蒸留所のウイスキーを混ぜ合わせて販売しています。例えばバランタインやシーバスリーガル、ジョニーウォーカー、カティサークなどです。一見では個性の無い蒸留所、余り人気の無い蒸留所でも、ブレンドすることによって味が良くなることもあります。
イメージで言うと、香水の原料を調香(ブレンド)するような作業で、天才的な完成のブレンダーがウイスキーを混ぜて完成させます。バランスが良く美味しいという特徴がありますが、先ほどと同じように多くの原酒を混ぜ合わせて加水しているため、ブレンデッドとしての個性はありますが、樽の個性は失われてしまいます。諸刃の剣です。

ボトラーズ・シングルカスク ウイスキーの特徴

最後に図右の、いわゆる「ボトラーズ」これがまさしくモルトバーでも人気のジャンルです。買い付け業者が蒸留所から樽のまま持ってきて自社で瓶詰めします。実際には蒸留所が依頼を受けて詰めるケースも多いでしょうが、イメージ的には樽買いです。中でもゴードン&マクファイルやシグナトリーという会社が有名です。
カスクストレングス+シングルカスクというのは一つの樽から数十本、数百本しか取ることができません。ですので購入したボトルのエチケットに142/257というように257本しか取れなくて、その中の142番目といった記載があります。

この他にも、ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティなどという会員制の協会に加入していないと購入できないものや、ウイスキーの蒸留所をあえて隠してリリースされるボトル、事情があって蒸留所を非公開にして売らなければいけないのでボトルに対してスプーン1杯別のウイスキーを加えた、ティースプーンモルトなどもあります。

ノンチルフィルタードという、本来濾過されるものを濾過せずにボトリングしたものなど、とにかくボトラーズのウイスキーはマニアに向けた様々なウイスキーが存在します。多くのボトルには蒸留年代と瓶詰めの日付が書いてあり、蒸留所の強い個性を楽しめるジャンルと言えます。

例えば写真左のElixir Distillers Port Askaig(ポート アスケイグ)、蒸留所は非公開とされながら中身はCaol ilaと言われている。

ここまでの話は、多くのサイトで紹介されています。
「カリラ12年が美味しい!」と一口に表現しても、たくさんの樽がブレンドされたということがわかります。

さて、ここからはネットでは全く議論されていない部分、ロットについて書いてみます。
筆者(はっしー)は紅茶マニアでダージリンの農園をロット別で大量に試飲してテイスティングノートを残したりしていました。

お茶マニアではこんな会話があります。
「キャッスルトンのファーストフラッシュ美味しいよね?」「え?それDJ何番?それともEX?」
「ええとね、DJ1だよ」「なんだ初物じゃん〜どうせお祝儀価格でしょ」
といった具合に、ロットナンバーによって収穫回数が分かるのです。摘み取り日とロットナンバーで傾向が分かる人もいるくらいです。

俄に信じがたいと思いますが、ウイスキーにも同じことが言えます。
「カーンモアのセレブレーション・オブ・ザカスクのカリラ2006年美味しいよね〜」
これで100%同一のものを表現できる気がしますが、ロットが存在するのです…。

一見同じに見えるカリラ2006年、よく見て下さい色が違います。右のほうが僅かに濃いです。下のカスクナンバーを見ると308735と308737と違う樽だったことが分かります。ボトリングこそ同じ日ですが、263本と237本と1樽から取れた量が異なることも分かります。同じ樽でも気温や気密によってエンジェルシェア(天使の分け前)という揮発量が異なります。
原酒のニューポットの状態では全く同じでも、樽の状態によって差があるのです。

Caol Ila 2006 Cask number 308735 ¥10,130(税込)

カリラを飲め!で特集したロットは、308733なので2006年は少なくとも3種類以上流通していることとなります。
ボトリングは去年の2018年なので、今年の物のほうが1年熟成していると言えます。

ウイスキーの衝撃の新事実

ウイスキーを常飲している人は薄々気がついている人も多いですが、ボトルを抜栓した直後は固くて飲めたものではありません。種類や蒸留所、年数の違いにも寄りますが、抜栓直後に美味しい!というものは少ないです。
ですので、本当に馴染みのモルトバーだと「これ今日抜栓したばかりですが…」とハーフショットで飲ませてくれたり、一度全てボトルから出してデキャンタージュしてから瓶に戻すところもあります。

もう一つの驚く事実

これは、グラスに放置するのとボトルで放置するので違うということです。抜栓してウイスキーグラスに1ショット注いで24時間放置したものと、抜栓して蓋をしたボトルを24時間放置したもので、味の開き方が異なることです。
酸素に触れるので当たり前ですが、仮に抜栓直後のウイスキーをブルゴーニュグラスに入れてスワリングしても、味が劇的に改善するとは限らないと言いたいのです。

Caol Ila 2006 Cask number 308737 ¥9,330(税込)

では抜栓した翌日のレビュー。

Caol Ila 2006 Cask number 308733 ¥9,980

(抜栓3ヶ月終わりかけのボトル)
昔のタリスカーのニュアンスに似ている。昆布のような旨味。
最もピーティーで輪島の塩のような旨味がある。アルコール感は弱め。

Caol Ila 2006 Cask number 308737 ¥9,330(税込)

塩っぽさの中に若々しいグリニッシュ。余韻が非常に長い、733に似ている。香りの良い部分だけがグラスの縁に残る。
ピートは少なめ、後から煙の香り、塩の旨味がない。こっちの方がうまい?加水で733に似た旨味が出てくる
ボリューム感じある。時間経つと一気に香りが広がってくる。真夏の夜に食べる葡萄のようなニュアンス。

Caol Ila 2006 Cask number 308735 ¥10,130(税込)

香りが甘みある、塩っぽさの中にヴァニラの香りが立ち上がる。
ボディに充分な厚みがある、抜栓直後は少々アルコール臭い、焼きたての甘いワッフルのようなバニラ。
ダビドフのシルバー(シガリロ)の火をつける前の香りに似ている。悪い意味でカーンモア感が出ている、アルコールがあるのにもったり、後半がアルコール感が強くなってくる。まだまだ全然閉じてる。

後半はややパイナップル。抜栓後時間経つと安定してくる。美味しくないのでは・・・?

カリラ抜栓2週間後のレビュー

Cask number 308737

ストレートでは蜂蜜っぽい甘い香りとヴァニラ、余韻は短くキレが良い。
氷で少し冷やして飲むと急にシャープになって飲みやすい。
むしろ冷やすことで、ぼんやりとしていた輪郭がくっきりと一点に集中する。
しかし氷+炭酸水を入れるとコクが出すぎてフレッシュではない、悪い意味での重厚感が出てしまう。

Cask number 308735

ストレートではアルコール感が強く、香りも前面に出る、余韻が長く濃縮されているよう。
氷で冷やすのに向いていない。しかし氷+炭酸水のハイボールであれば喉越しの時にグリニッシュな香りが立ち上がってきて良い。5月初めの朝露で濡れた新緑を歩くような爽快な香りがある。

カリラとサンルイクリスタル

ウイスキーとは

「分かろうとする必要がない」

むしろ分かろうとするほどに分からなくなってゆきます。例えば十五年以上、黙々と様々なウイスキーを飲み続けてきましたが、せいぜい飲んだウイスキーの蒸留所を当てる事ができたり、香りやダブルマチュアードを指摘できる程度です。
美味しいのか、というのは飲むほどに分からなくなってゆきます。

美味しさというのは、ウイスキーを飲むグラスの種類や液体の温度、部屋の室温湿度によって異なりますし、直前の食事内容や、煙草・シガーの有無、それに体調が大きな影響を与えます。そして最も美味しさに左右されるのは、飲むシチュエーションです。必ずしも誰かと話ながら楽しむ必要はありませんが、ウイスキーの銘柄によっては友人とワイワイしながらハイボールで飲むのが美味しいものもありますし、一方で静かな自室でステレオを聴きながらじっくりと一人で飲むのに向いているものもあります。仕事終わりにダブルのジャケットを着て、ダビドフの太いシガーの煙を吸いながら飲むべき一杯もあります。
ですので今回ウイスキーの基本と選び方を書いてみましたが、銘柄に固着しすぎず、一杯のウイスキーと”その瞬間を過ごす”ことが一番大切だと思います。

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