「私、ライブ行くのが好きなんです〜」「ほう、そうなんだ。最近は誰のライブ見に行ったの?」
「最近は、ワンオクロックのライブ行ったんですよ〜。すごいカッコよかったです!お兄さんはライブとか見に行きますか?」
「そうだな、最近で印象に残ってるのはミラノのスカラ座で見た『蝶々夫人』かな。いや、テノールがプラシド・ドミンゴばりで、それは素晴らしかったよ、君」
と、バーで自慢したいあなたのための5分オペラ講座。
まことに読者様にお伝えしますが、このスカラ座発言はおそらくドン引きですから、こういうときはこのように答えるのです。
「いや、最近は行ってないかなあ。でも俺もワンオブロック気になってるんだよね」
と、ちょっとくらい間違えちゃっても、女の子は大喜びするはずです。
オペラ鑑賞の始め方
それはともかく、好奇心からこのオペラという崇高な趣味を始めてみたいとお思いの方は多いでしょう。(モテたいならワンオクとBuck Numberの有名曲を頭に入れておくことです)
しかしそもそもイタリア語で歌われており、さらにセリフは全て音楽に合わせて発せられる。
そして写実性のかけらもない舞台で、むさ苦しい重量級のテノールや、クレオパトラよろしい厚化粧のヒロインが歌う姿を見て、最初から共感するのは難しいことです。
どうやってオペラの世界への一歩を踏み出すか。
実はオペラには「アリア」というものがあります。
これは一曲が大抵3〜4幕に別れ、一時間を超えるオペラの中でも、特に力強く、美しく印象に残る、見せ場の部分のこと。言ってしまえばサビに近い存在です。
こちらはオペラ「トゥーランドット」の一番有名なオペラ、「誰も寝てはならぬ」です。
これらのアリアはテレビやCMにも使われているため、聞いたことのあるフレーズが少なくない。そんなアリアの詰め合わせを聞くのが、オペラファンになる一番の近道なのです。
最初の一枚におすすめのアリア特集アルバム
おすすめのアルバムはこちら。
世界三大テノールの一人、パヴァロッティの「誰も寝てはならぬ」と名付けられたベストアルバム。
プッチーニという作曲家の有名なアリアをかき集めた、特筆すべきミーハーさと安直さの集大成アルバムです。そしてプロフェソーレ・ランバルディ静岡でもヘビロテの一枚です。
順を追ってご説明いたしましょう。
まずこのパヴァロッティなる人物は、世界でも最も有名なテノール。彼の透き通った声の美しさと来たら…。
しかし私が他の誰よりもパヴァロッティを推す理由は、それだけではありません。
もともとオペラファンの方はあまり気にかけていないことかもしれませんが、パヴァロッティは言葉のテンポ、リズムが非常にはっきりとしており、その点で4ビート、8ビートといったグルーブに則った現代音楽に耳が慣れた私たちにも非常に聴きやすいのです。
聴きなれたら是非、ジュゼッペ・ディ・ステファーノやプラシド・ドミンゴなど色々な歌手と比べてみてください。
さらに私がプッチーニ推しなのも、殆ど同じ理由です。まだ古典音楽的な雰囲気を残し、クラシック然としたロッシーニやヴェルディのオーケストレーション(伴奏)に比べ、プッチーニはより映画音楽に近いものがある。
そのため古典的なクラシックファンならずとも、そのハーモニーの美しさに感動してしまうはずです。
ドイツオペラに比べると筋書きがシンプルで平易なのもおすすめの理由です。
ちなみに私のおすすめのアリアは、このアルバムに全て集まっております。
そしてこれをヘビロテして聴いているうちに、きっとお気に入りのアリアが見つかり、そのアリアがどんな意味なんだろう、どんな場面なんだろうと気になりだしてくる。
そのときに字幕付きの動画を見て見たり、対訳本などを手に取ってみると、一気にはまってしまい、気付いたときには私のようにビスポークジャケットのポケットに手を突っ込んで、トゥーランドットの一節を口ずさみながら歩いている自分を発見するはずです。
Tre enigmi m’hai proposto, e tre ne sciolsi.
Uno soltanto a te ne proporrò: il mio nome non sai.
Dimmi il mio nome.
Dimmi il mio nome, prima dell’alba, e all’alba morirò!
三つの謎をあなたは出して 、その三つを私は解きました 。
たった一つの謎を、私からあなたに出しましょう。
あなたは私の名前をご存じない 。
私にその名前を告げてください、夜が明ける前に 。
そして私は夜明けと共に、死にましょう。
ああ、なんと愚かで美しいこと。