ナポリシャツの魔力
ドレスシャツというのは面白いもので、非常にシンプルなアイテムでありながら、その生地やわずかなディティール、そして作りによって驚くほど雰囲気や着心地が変わります。
イギリスのターンブル&アーサーやフランスのシャルベなどヨーロッパには代表と言われるシャツファクトリーが多数ありますが、イタリアにはそういった「イタリア代表」と言えるシャツファクトリーが存在しない。それはなぜか。一流のシャツブランドが多すぎるからです。
北の名門マシンメイドシャツFRAY フライは有名どころですが、イタリア南部の街ナポリにくればもうめちゃくちゃです。数多くの驚くべき技術を持ったブランドが、人知れず存在する。
もちろんルイジボレリのシャツは有名ですが、常にサルバトーレピッコロのシャツは隠れた人気を誇っていますし、アンナマトッツォのシャツに至っては伝説になりつつある。アットリーニやキートンなどの名門サルトリアが自社工場で作り始めたシャツも、恐ろしく魅力的です。
そんな中でも、何より美しさを体現しているナポリのハンドメイドシャツのブランドが、マリオ・ムスカリエッロです。
Mario Muscariello マリオ・ムスカリエッロ
ナポリ近郊の街に1964年に創業したこのマリオ・ムスカリエッロは、既に19世紀後半にはシャツ職人であった一族のブランドといわれています。
ナポリの伝統である手縫いのシャツの手法をうまく現代的なハンドメイドに落とし込み、9工程を手縫いにて行うマリオ・ムスカリエッロは、ボレリやサルバトーレ・ピッコロに比べてもまるきり見劣りしないどことか、独特の美しさと端正さを持っていますね。
例えば注目したいのは、この生地選びとシャツのデザインです。地代わりのストライプにクレリックのデザインであるだけでなく、クレリックの生地は折り柄で小紋柄(菱形)が入っている。控えめとは言えないシャツですが、独特のカジュアル感が「どんなジャケットと組み合わせられるんだろう」と着る人をわくわくさせます。
もちろん生地のコットンは非常に上質でさらさらとしています。このブランドのシャツはラグジュアリーさよりも着ている人の心地よさと、気取らない美しさによる洒脱感を重視した生地で作られていることが多く、それがナポリらしい自然な魅力を持っていますね。
もちろん注目すべきはデザインだけではない。作りにいたっても、マリオ・ムスカリエッロには他にない美しさがあります。
例えばボタンホール。サルバトーレピッコロのように手縫い感溢れるボタンホールではなく、どちらかというと控えめで端正なボタンホールは非常に丁寧に縫われていて、非常に時間を掛けて作られていることが分かります。かなり細身でスタイリッシュに仕上げられていて、少し都会的な印象のあるシャツですね。
分厚すぎないボタンは、やり過ぎることのないお洒落を演出しており、そのさじ加減は他のブランドよりも控えめな主張を感じます。
手縫いは襟付けや袖付け、ガゼットの縫い付けなど主要な部分に用いられていますね。
ハンドによる袖付けは中級以上のイタリアシャツでは定番の仕様ではありますが、それでもそのレベルによって着心地には相当な差がある。マリオ・ムスカリエッロのシャツには、サイズが少し小さめであっても動きを阻害しないほどの柔らかさがあり、それはまさに手縫いの技術の高さが垣間見える部分ではないでしょうか。
ちなみにこのマリオ・ムスカリエッロはカプリシャツでも人気なブランドで、4工程を手縫いにて行って作るカプリシャツは、プルオーバーのカジュアルなシャツなのにも関わらず本格的な仕立てなので、非常にリッチな雰囲気の漂うものになっていますね。
いかがでしたか?今回はMario Muscariello マリオ・ムスカリエッロのシャツを紹介してみました。
ルイジボレッリやサルバトーレピッコロ、あるいはバルバやマリアサンタンジェロ、アレッサンドロ・ゲラルディなどのシャツを着ている人には是非チェックしていただきたいシャツブランドです。
セレクトショップなどで見かけたら、試着してその良さを感じてみましょう。