Fallan & Harvey サヴィルロウの注文服テーラーが作る、既製服 (上)
(こちらの記事は上の続きとなります。)
サヴィルロウ、注文服のディテール
前回はシルエットについてを見てきましたが、やはり細かな部分の仕立ても注文服ならではのものと言えます。
まずはびっしりと手縫いで施されたラペルのハ刺し。
相当手間のかかったスーツでない限りはミシン縫いで施されることの多いハ刺しも、やはり手縫いです。最近では最高級既製服といわれていながら、ハ刺しに手間をかけないものも少なくありませんね。
襟の返りが良くなるのはもちろん、着心地に関わる部分といわれていますので、ここが熟練した職人によって縫われているかどうかで、やはり完成度は変わります。
また細かな部分ですが、ボタンホールの美しさも特筆すべき点です。細い糸を使って繊細に、しかしやや横長に作られるボタンホールは、意外にイタリア服では見られない雰囲気です。
ナポリのものはもう少しボリューム感があって、ぼってりとした愛嬌のある雰囲気であることが多いですね。ミラノではジャンニ・カンパーニャのような繊細さを極めたボタンホールがよく見られます。
またラペルやフロントカーブ、ポケットなどに沿うステッチも素晴らしい繊細さです。決して目立たせるわけでもないのに、細かく美しく入れたステッチは、もったいなく感じてしまうほど。ピッチの細かいステッチに、どれだけ職人が真摯にそのジャケットに向き合っていたかを垣間見ることができます。
スラックスに至っても、手のかかり方は同じです。ボタンホールはもちろん手縫いですが、その手縫いの美しさは目をみはるもの。もちろんライニングの縫い付けも手縫いで、注文服のような雰囲気を醸し出しています。
英国紳士のテイスト (Buon Gusto!)
最後にこのスーツのテイストを見ていきましょう。
いかにも英国らしいグレンチェックのウールは、最高級の生地を作ることで有名なレッサー&サンズのもの。モヘヤのようなシャリ感があり、それでいながら柔らかさもある不思議な手触り。
ハリがあって光沢感の少ない風合いは、いかにも英国の生地らしいですね。ドラマチックなドレープを作り、立体的なシルエットを構築するには、やはりこういった生地が良いのでしょう。彼らのいうところの「仕立て栄えのする生地」ですね。
ダブルブレステッドに、チェンジポケット、サイドベンツ。
まるきり刀を持った侍に近いステレオタイプな英国紳士のイメージです。しかしこれがかっこいい。何度も英国でスーツを誂えている人ならともかく、英国スーツを初めて一着という私にはこういう設定が嬉しくてたまらないわけです。
裏地はサヴィルロウの仕立てらしい総裏地です。シルエットが崩れにくく、生地も痛みにくいのが総裏地のメリットと言われていますが、ファーラン&ハービーやその他サヴィルロウのテーラーのスーツのように10年〜20年と着られるものになって初めて、それが本当に必要なディテールになります。
スラックスはツーインプリーツのベルトレス、サイドアジャスターに右後ろポケット無しの仕様。個人的には大変好みなスタイルですね。
いかがでしょう。
どれをとっても英国紳士の誂える、ビスポークスーツのディテール。なんて、ロンドンに住んでいない我々は思ってみます。もちろん英国紳士から見たら「いやね、それは少々やりすぎだよ、君」と言われてしまうかもしれません。
しかし少なくとも、英国贔屓なナポリのサルトリア達は声を揃えて言うでしょう。
Buon Gusto! (いい趣味してるね!)
いかがでしたか?今回は二回に分けてファーラン&ハービーのスーツを紹介してみました。イタリアファッションが主流の今だからこそ、是非サヴィルロウのスーツを見直しましょう。
構築的の一言では表せない深い魅力に、きっとはまってしまうことでしょう。
そのときにはメイフェアの薄暗いパブで待ち合わせ、1パイントのエールを片手に乾杯しようじゃありませんか。