銀座や渋谷など、一等地で駅から近い場所にも関わらず、 来客がなくて悩んでいるバーをちょいちょい見かけます。ひどいケースでは、それをSNSに「今日もお客さんが来なかった」、「今日もノーゲストです」 など、悲壮感漂うツイートを毎日投稿しています。
お客さんは何を求めてくるのか?
「バー」という営業形態は特殊なもので、日常生活に必ず必要なものではありません。スーパーマーケットやコンビニ、ドラッグストアは、どんなに買い物に興味がない人でも必ず行きますし、どの年齢層や年代性別にも絶対的な需要があります。
それに比べて、お酒を中心としたお店は居酒屋がありますし、 安く料理もたくさん出てくるようなお店は数多く存在します。日高屋に行けば千円で食べて飲んでができるわけです。
人気の無いバーは、自分がやりたいことだけをしてしまっていて、お客さんが何を求めているか明確になっていません。
これは一例ですがバーを利用する人は、こんなものを求めています。
- 人とのコミュニケーションを求めている
- 出会いを求めている
- 感動する空間を求めてくる
- 癒やされる空間を求めている
- 総合的な演出を求めにくる
他にもあるかもしれませんが、単純に「このお酒が飲みたいから来る」という人は少なく動機がそれだけの場合は、 一杯飲んだら満足して、二度と来店しなくなってしまいます。
例えば、キャンペーンで山崎18年を1杯1000円で提供したとしても、一度それを飲んで、追加のものも頼まずに、 二度と来店しない可能性があります。
人とのコミュニケーションを求めている
人とのコミュニケーションを求めている場合は、主にスナックのような小規模なお店で、オーナーや店員さんとのおしゃべりが楽しくて来店しています
家に帰っても一人だったり、話ができる人がいないと仕事帰りに寄ることも多く、 常連さんになると週に5日も6日も来店する場合があります。
私が静岡で見たお店では、 週に6日くらい常連さんがひっきりなしに入っているので、 まるで親戚の集まりかと思うくらいに、 毎日同じ顔ぶれの人たちが揃っています。デメリットとしては、オーナー本人がカウンターに立っていないとみんな集まらないということです。
出会いを求めている
これは延長線上なのですが、お店のスタッフだけでなく、 他のお客さんと仲良くなり、常連さん同士で楽しく盛り上がるケースも多いです。
必ずしも魅力的な異性が必要ではなく、 同じ年代の同性や、年上のおじさんであっても、 顔なじみな人がいつもその空間にいるという安心感や、楽しさにつられて来店しています。 そのため店が多少古くて汚なかったり、お酒の種類が少なかったり、 味が大したことがないお店でも、 毎日満員御礼になります。
感動する空間を求めてくる
これは、デートや友人と来店する場合で、非日常的な感動する空間を求めてくるものです。InstagramやTikTokで紹介されているような鮮やかなバーで、調度品が豪華だったり、所狭しに花が飾られていたり、美しいLED照明で演出されたりしています。
伝統的な、クラシックなインテリアで、ピアノやジャズの生演奏サービスがあるような店も、同じことが言えます。
癒やされる空間を求めている
私の個人的なイメージでは、プロントのようなカジュアルなチェーン店です。
格安な大衆店とも違い、かといって高級店ともいえない、スターバックスくらいのイメージで、ちょっと美味しい料理とちょっと美味しいお酒が飲めて、スマホを見たり雑誌を読んだりするのにちょうどいいような場所です。
そんなに接客は大切ではなく、少しプライベートな空間でありつつ、 カジュアルに利用できるというのがメリットだと思います。知り合いが誰もいなくても何度も利用してしまうのではないでしょうか。
総合的な演出を求めにくる
そのお店のオーナーがいても、いなくても楽しめる店です。
ディズニーランドのように空間づくりや演出がとても上手で、 調度品も洗練されていて、照明のバランスもよく、 BGMなども考えられていて、 疲れたらすぐに行ってしまいたくなるようなお店です。徹底的に掃除がされていて、余計な物が出ておらず、洗面所がきれいだったり、少しいい匂いの芳香剤が置いてあったりします。
高級ホテルから過剰なサービスと予算を抑えたような個人店です。
スタッフの服装や仕草、言葉遣いなども安定していて、 調度品だけでなく、お酒や器など上質なものが楽しめて五感で満足できます。
全てはCX(カスタマー・エクスペリエンス)によるもの
お客さんがその店に来店するという動機づけは、顧客の体験がすべてだと思います。
一度目はSNSを見たり、雑誌を見たり、来店する動機は様々ですが、 二回目以降は、一回目で体験したことが来店の動機になります。
バーのオーナーにありがちなのが「なぜこんなに珍しいお酒を安く提供しているのにお客さんが来ないんだ」だとか「これだけ銀座駅から近いのに、なぜお客さんが来ないんだろう」と、来客した人のCX(カスタマー・エクスペリエンス)=顧客体験価値を無視しているケースがほとんどです。
来店しても楽しめない、くつろげない、安心できない。
そのようなお店になっているにも関わらず、 SNSで割引をしたり、自分のお店がいかに安いかをPRしても、 常連さんを獲得するのは難しいです。
「お客さんが来ない」投稿は最悪の選択
最も良くないのが、 今日は誰も来ませんでした、と悲壮感を漂う投稿をし続けるようなお店です。
ある行きたい店があるとして、 お店の公式アカウントで「今日も人が誰も来ませんでした」と投稿していたら、行こうと思っていた人は逆に不安になってしまい、行くのを辞めるのではないでしょうか。
人気のあるお店が投稿する場合は「週末の混雑から一転して、ただいまお席に余裕がございます」や「本日は席に余裕があり、ゆったりお過ごし頂けます」と、「今が空いているチャンスだから行かなきゃ」と捉えてもらえる言葉選びをします。
余裕のある店ほど、ゲストが1人でも穏やかな対応で、「この一人で売上あげなきゃ!!」としたギラギラがありません。
売ってやろうという店は売れない
飲食店とは違いますが、アクセサリーショップなんかは特に顕著で、「今必ずこいつに売りつけてやろう」というオーラは、 お客さんに伝わってしまいやすいものです。
絶対に売りつけてやろうというお店は、大抵一言目に、「今日は何をお探しですか?」と誘導する導線を作りがちです。
これがカー用品店だった場合は、具体的にバッテリーやブレーキパッドなど明確に必要としている人が多いですが、アクセサリーショップに明確にこんな形のこれが欲しいという動機で来店する人は少ないはずです。
そんなに有名でないアクセサリーショップの場合、大抵の人は「時間があったから寄ってみた」「可愛いものが並んでいるから寄ってみた」「なんかいいものがあったら欲しいかもしれない」など、ゆるい動機で来店します。
こんな時にかけられてうれしい言葉は、「気になるものがございましたら、ケースからお出しさせていただきますね」です。もし何も買わずに出て行ったとしても、 対応が丁寧で穏やかだと、次見たときに安心して買い物もできます。
これも同じように顧客体験価値が売上につながるケースです。
一定数の常連客がつかないお店は、お店に問題がある
先ほど話に出した静岡の小さなバーは、大したお酒は置いてないのですが、 あまりの居心地の良さに、名古屋に転勤に行った人が、新幹線でその店のために訪れます。私も東京から年に2回くらいは行きたいなと思い、高速バスで通ったことがあります。
店の業態やスタイルによって必ずしもオーナーが前に出て、 丁寧な対応する必要はないと思います。ただし、お客さんがその空間に何を求めているのか、どんな体験が心地が良いか、というのをしっかりと考えることが大切です。
これが「立地が全てと」考えるとうまくいかない理由です。
※ちなみに都心や京都など観光地にある一部のラーメン屋さんは、毎回一見さんが来るので、原価率最優先で粗雑なものを出すところもあります。新宿駅に近い焼き肉屋さんなんかも、「入れればどこでもいい!」というニーズがあるため、不味くても、ぼったくりでも生き残っています。
バーもそうした方法で成功している店もありそうです。