ラテン語の入門の入門

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こんにちは。ラテン語さんです。初めて記事を書かせていただきます。よろしくお願いします。普段はツイッターでラテン語に関するつぶやきをしております(アカウント名は@latina_samaです)。私はラテン語は高校生から始めており、学習歴は10年目くらいになります(その他には英語、フランス語と、あと中国語が少しできます)。

今回は、ラテン語の入門の入門について書いていこうと思います。これは、ラテン語の入門書を読む前のレベルの方々に向けて書いています。

この記事は、主に以下で構成されます。

・なんでラテン語やるの?
・ラテン語とは?
・ラテン語を始めるにあたって
・ラテン語の時代区分

なんでラテン語やるの?

普通に生きていれば、私見たく10年近くをラテン語学習に捧げるなんていう生き方はしないはずです。それでも私は、ラテン語を学習する意義はあると思っています。ラテン語というのは今は死語と言われていますが、今でもラテン語で書く人や話す人は存在して死に絶えていません。また、この言語は2500年以上の長い歴史があります。古代共和政ローマの成長と共にラテン語文化圏も広がりを見せ、ローマ帝国の時代には世界帝国の公用語となり、ローマ帝国が滅びた後もヨーロッパで多大な影響力を持ったキリスト教の言語となり、宗教改革後でさえも学術書はラテン語で書かれていました。

そして今でも教皇庁はラテン語を使用しています。つまり、ヨーロッパ、とりわけ西ヨーロッパではラテン語は長い間使用されており、ラテン語を使えるというのはその時代に書かれた様々な本が読めるということで、これは大変な利点です。ここまで長く使われている言語はかなり珍しいです。また、スペイン語、イタリア語、フランス語、ポルトガル語などのロマンス諸語と呼ばれる言語の元であり、これらの言葉を学習する方はラテン語を知ることで語源を学べて、これらの現代語の知識を深められます。
また、英語にはラテン語から借用された語彙が多く、英語学習者にもオススメです。このように、西ヨーロッパの歴史や文化などに興味があれば、ラテン語を学習する意義は十分にあります。

「ラテン語」とは?

まず、ラテン語の「ラテン」ってなんだ?という疑問があると思います。フランス語はフランスの言語、韓国語は韓国の言語とすぐわかるのですが、ラテンというのはどこかと思う方も多いと思います。

「ラテン」というのは、現在のイタリア中央西部のラティウム(Latium)地方の地名に由来します(現在のイタリアのラツィオ州です)。ここに住んでいた民族はラテン人と言われ、話されていた言語はラテン語と言われます。ちなみに、「ラティウム地方の」という意味のラテン語はLatinusといい、Latinusは男性単数形ですがこれを男性複数形にしてLatiniとすると「ラティウム地方に住む人々」という意味も表せます。また女性名詞であるlingua「言語」にくっつける形でlingua Latinaと書けば、「ラティウム地方の言語→ラテン語」となります。

ラテン語を始めるにあたって

語学を始めるというのは、中には特に目標を定めずに勉強を続ける人もいるかもしれませんが、大半は何かしらの目標があり、そのために外国語のスキルが要るから勉強するというケースかと思います。そこで、まずは入門書を開く前に自分はラテン語を身につけて何をしたいかを考えてみてはどうでしょうか。なんでもいいです。たとえば「ラテン文学をそのままラテン語で読みたい」「ラテン語の聖書を読みたい」「植物の学名のラテン語の意味が知りたい」「ラテン語で話したい」など、将来のビジョンがはっきりしていた方が今後ブレずにラテン語学習を続けていけます。

また、方向性が定まれば、どのレベルまで到達したいかも決めると、よりはっきりとした心持ちで学習ができます。日本にラテン語の試験がないのでTOEICのように●●点、検定なら●級のような数字がはっきりした目標はたてられませんが、「誰々の作品を原語で読めるレベル」「ラテン語で簡単な文章が書けるレベル」「ラテン語でSNSで世界の人とコミュニケーションが取れるレベル」などの目標を設定することができます。
ラテン語文学の作家は一人一人レベルが違うので(例えばカエサルは初~中級、キケローは中~上級、プロペルティウスはかなり上級)、誰の作家の文を読めるかどうかで自分のレベルをある程度測りやすくなっています。もちろん、自分の好きなジャンルで読めるようになりたい作家を決めるやり方も大いにおすすめです。

どの時代のラテン語をやるか?

一言でラテン語といっても、様々な時代区分がありそこで微妙に文法や語法が違ってきます。

大まかな区分は以下の通りです。

・古ラテン語(~紀元前1世紀)
・古典ラテン語(紀元前1世紀~紀元2世紀)
・後期ラテン語(3~6世紀)
・中世ラテン語(7~15世紀)
・近代ラテン語(16~19世紀)
・現代ラテン語(20世紀~)
+α(俗ラテン語)

1. 古ラテン語

紀元前7世紀~1世紀頃のラテン語で、今に残るのは碑文などに書かれているものです。インド・ヨーロッパ語族の古代の言語や、ラテン語以外の古いイタリアの言語(オスク語など)に興味がある方におすすめです。また、古典期のラテン文学でも古いラテン語の語法や綴りが使われるケースもあるので、古典ラテン語を中心にやりたい方も古ラテン語をやっても損ではありません。

2. 古典ラテン語

この時代のラテン語が、現在のラテン語学習の標準になっています。入門書などはこの時代のラテン語を取り上げているものがほとんどで、他の時代のラテン語の入門であればその時代の名前がつきます(大学書林『中世ラテン語入門』など)。この時代に古代ローマは強国となり、勢力を拡大していきました。
文芸においてもウェルギリウスの『アエネーイス』やキケローの哲学書をはじめ現代でも有名なラテン文学が次々に生まれ、この時代のラテン語が現在まで規範とされています。なかには「カエサルやキケローが使った語法以外は認めない」というような方もいて、それほどこの時代のラテン語は現在でもラテン語学習者の中で重要な位置にあるということが伺えます。私もラテン文を書く際には、この時代のラテン語の文法や語法を使っています。いつの時代のラテン語を学習するかまだ定めていないかた、この古典ラテン語をおすすめします。

3. 後期ラテン語

中世ラテン語よりかは古典ラテン語と語法や文法の差異がないとはいえ、古典期の文法からは少し違っています。このあたりから、現存するテキストがキリスト教関係の作品の割合が多くなってきます。
この時代のラテン語の作品で有名なのは、アウグスティヌスの『告白』や『神の国』、また中世にカトリック教会で広く使われた「ウルガータ」と呼ばれる、ヒエロニムスによる聖書のラテン語訳であり、昔のイギリスの国王がラテン語から当時の英語に訳したボエティウスの『哲学の慰め』もこの時代の作品です。

4. 中世ラテン語

古典期のラテン語の文法や語法とは違ってしまっている点が多々あり、古典期の文法をマスターしてもこの時期のラテン語を読めるとは限らないので、古典期の文法を学習した後にこの時代の文法を学ぶ必要があります。また、この時代は、キリスト教関係のテキストがかなりの割合を占めていました。
哲学分野ではトマス・アクィナスの『哲学大全』、ロジャー・ベーコン、ウィリアム・オッカムなどが有名です。その他にはフランク王国のシャルルマーニュの宮廷に招かれたイングランドの聖職者アルクインの著作や、聖人伝の『黄金伝説』、また『カルミナ・ブラーナ』と呼ばれる詩集に入っている詩なども中世ラテン語で書かれています。

5. 近代ラテン語

ルネサンス時代から、古典ラテン語から離れてしまった中世ラテン語文法ではなく、古典の時代の文法に戻ろうという動きが活発になります。この時代から、「ラテン語で書く」というのは古典時代の文法で書くとほぼ同じ意味になります。
中世ラテン語時代の有名なテキストはキリスト教関係のものが多かったですが、近代ラテン語以降はそのようなことはなくなってきます。この時代で有名な作品は、トマス・モアの『ユートピア』やエラスムスの『痴愚神礼讃』、ホッブズの『リヴァイアサン』などがあります。その他にも科学の分野では、コペルニクスの『天球の回転について』やニュートンの『プリンキピア』などです。

6. 現代ラテン語

21世紀になっても、実はラテン語での執筆というのは未だ続いています。例えば、世界文学のラテン語訳などが出版されています(不思議の国のアリス、ハリー・ポッター、ホビット、くまのプーさんなど)。その他にも、ラテン語で小説を書いている人々がいて、新しい小説が毎年出版されています。また、ラテン語を話している人も少なからず存在し、Youtubeなどで活動しています。ラテン語会話の参考書なども複数出ています。

+α 俗ラテン語

俗ラテン語といっても低俗なラテン語という意味ではなく、古代に民衆が話していたラテン語です。
どういうことかというと、古代は民衆が普通に話す言葉と、公的な場で話したり法律や文学作品として書く言葉は違っていました。ラテン語の入門書で扱われるラテン語というのは後者の改まった場で用いられる文語を指します。そうではない方の、古代の日常語としてのラテン語を俗ラテン語と言います。
主に話し言葉なので、書いて残されているものはほとんどありませんが、文語ラテン語と、俗ラテン語から派生したロマンス諸語(フランス語、イタリア語、スペイン語など)から研究者が「俗ラテン語の綴りはこのようなものだったのではないか?」と推測していて、それで当時の話し言葉がある程度わかります。文語より話し言葉の方が好きで、俗ラテン語についてもっと詳しく知りたい方は文庫クセジュの『俗ラテン語』を読んでみてください。

忘れてはならないもう一つ、ラテン詩

ラテン文学を語る上で外せないのが、ラテン詩になります。ウェルギリウスの『アエネーイス』や、世代を超えて広く親しまれているオウィディウスの『変身物語』、また名言としてよく引用されるホラーティウスの作品など、詩がかなり多いです。ただ、これは散文の知識だけで読めるものではなく、韻律の知識が必要になってきます。詩を読みたい方は、音節の区切り方など韻律に関わる部分をよく読み、早く詩に慣れるようにする必要があります。

さて、ラテン語の大まかな説明をしたのでこれでもうラテン語を始める準備はばっちりです。自分のペースで、ラテン語を楽しめる程度に頑張ってください。応援してます。


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