珈琲貴族 渋谷店に面白い美術品が展示されていました。
この喫茶店にはマイセンやセーブル、十四代柿右衛門など美術館にあってもおかしくないような美しい作品がガラスケースに飾られています。コーヒーを頼んだだけでもウェッジウッドのホワイトホール(パウダー)で出てくるという、カップ&ソーサーマニア垂涎の喫茶店なのです。
レジ前にある2つのカップ&ソーサーを眺めていると、こんな一文がありました。
●マイセン 柿右衛門写しざくろのある草花文カップ&ソウサー(1774~1790年)
●十四代柿右衛門 錦苺花文珈琲椀皿
寛永二十年(1643年)初代柿右衛門(酒井田喜三右衛門)は、日本で初めて赤絵磁器を完成。その後、有田の色絵磁器は急速な進歩をとげ、広くヨーロッパに紹介されます。中でも柿右衛門の赤絵は特に賞賛され、十八世紀になるとヨーロッパ各地の窯で「柿右衛門様式」の模倣品が数多く生産されました。
この二つの作品でどちらがマイセンでどちらが柿右衛門かおわかりでしょうか。
カップ&ソーサー『A』
カップ&ソーサー『B』
リナシメント読者の皆さまなら簡単にお分かりだと思います。
正解は・・・。
柿右衛門『A』
マイセン『B』
でした!
柿右衛門とマイセンの見分け方は?
この問題はかなり簡単です。
バックスタンプ(マーク)以外にも見分け方はいくつかあります。
一番簡単なのはシェイプとソーサーを見ることです。柿右衛門はカップのシェイプに一癖あり、壺のような滑らかな膨らみになっています。マイセンは直線的な造形です。ソーサーは柿右衛門が滑らかな形状になっていて、マイセンは一箇所折れているような造形になっています。
マイセンは典型的なコーヒーカップのように見えます。そして一番判断しやすいのがハンドルの形状。あまり写っていないので分かりにくいかもしれませんが、四角いハンドル(持ち手)は柿右衛門には存在しません。
形状以外での判断方法は、柿右衛門特有の色です。濁手(にごしで)と呼ばれる乳白色の下地は柿右衛門様式の大きな特徴で、素地調合によって青みがかることなく絵を目立たせる白さです。何度か柿右衛門の実物を見るとその特有の色も判断要素の一つとなります。下地の光沢感も異なります。
絵付けでの見分け方はそのタッチと塗り方の濃淡です。下の写真をみれば分かりますが、左の柿右衛門は葉の色に立体感を出そうとして浮き上がった部分を濃く塗り、沈んだ部分を薄く彩色しています。右のマイセンは、水彩画のような何度かなぞるタッチで、葉の部分はグラデーションのようなシンプルな塗りになっています。
枝葉を線で表現するのも昔からのマイセンの技法で、修理工だった歴史のヘレンドもこのマイセンのタッチを真似ているといえます。柿右衛門はひとつの線を描くのに何度も筆を運び、鋸歯状の葉縁を再現するために線が抜けている部分もあります。一部に線がないので私達は「きっと葉の先が少しトゲトゲしているのだな」と直感的に分かります。草花の色や形状を見ると、その国がどこか何となく想像できます。それは絵を描く人が自分が見慣れた草花の色や形状を模倣しやすいために起こります。日本人にとって右の絵がファンシーに感じる理由はそのためです。
マイセンと柿右衛門どちらが優れているのか
これは優劣がつけられず好みとしか言いようがありません。技術的にはどちらも素晴らしい窯です。柿右衛門は日本を代表する焼き物で重要無形文化財にも指定されています。マイセンはザクセン選帝侯兼ポーランド王のアウグスト2世が指示して設立された「王立ザクセン磁器工場」にルーツがある偉大な窯です。
ひとつ言えることはマイセンは柿右衛門などの日本の焼き物を手本としていますし、その日本の焼き物も中国の磁器職人が朝鮮半島を経由して伝えたと言われています。それも焼き物発祥の景徳鎮では漢王朝の時代には陶磁器生産されていたそうです。その景徳鎮も今では日用品程度の焼き物しか作られず、偉大な作家や窯が不在だというので不思議なものです。
珈琲貴族 渋谷店には実物が飾られていますので、気になる方は本物を見てマイセンと柿右衛門を比較してみると楽しいですよ。