マーストリヒト(Maastricht)に今夏行ってみたので、どんな見どころがあるのかご紹介したいと思います。マーストリヒトは以前からオランダ在住歴の長い知人におすすめされていました。
マーストリヒトと聞いてまずどんなことが思い浮かびますか。現代史に詳しい方ならマーストリヒト条約という言葉が頭に浮かぶでしょう。1992年に調印されたこの条約は今日の欧州連合(EU)を創設した取り決めとして現代史において重要な位置を占めています。ヨーロッパ周遊旅行などをして、「ユーロって超便利!」って思っているかもしれないあなた、この統一通貨の創設が決められたのもこの条約においてなのです。
マーストリヒト条約はその名の通り、マーストリヒトで調印されました。それでは具体的にマーストリヒトのどこでしょうか。それはマーストリヒトにあるリンブルフ(Limburg)州政府の建物です。
リンブルフ州政府 住所:Hoge Weerd 10
この建物を訪れて、特に何ができるというわけでもありませんが、マーストリヒト条約が調印された場所に来ているのだと思うと感慨があります。単純に建築も味がある。この建物のことを知らないでマーストリヒトに行っても、市街地の方にある橋から遠景にこの建造物の上部が目に入り、好奇心をくすぐられると思います。
1985年に建設されたこの建物は人工の中州に建っており、建築家はB.G.J.J.Snelder。上の写真の左側に見える円形の部分で州議会が開かれているそうです。
普段は州政府の建物として機能していますが、ヨーロッパ規模の条約が調印された場所としての矜持も忘れていません。
また、ここはマーストリヒトの中心部からは少し離れており、市街の賑やかな光景とはまた違う、魅力のある田舎の風景が眼前に広がります。
市街から離れいているといっても、歩いて十分ほどの距離でこの美しい自然に出会うことが出来ます。眼前には小さいながらも山が見え、どこか懐かしく感じました。というのはオランダに来て以来、この平らな国で山というものを見ていなかったからです。
筆者はMuseumkaart(美術館のカード)という年間64.9ユーロで国内のほぼすべての美術館を無料で訪れることができるカードを持っていることもあり、知らない都市に行くとまずは美術館を探します。マーストリヒトはそれほど美術館が充実しているというわけではないですが、美術好きならぜひ行ってみたい美術館が一つあります。
ボネファンテン美術館(Bonnefantenmuseum) 住所:Avenue Céramique 250
近代的で大きな建物の中には宗教美術などのひと昔前のものと現代美術という二本柱で展示がされています。
西洋の美術館に行くと、必ず目にすることになるキリスト教関係の美術ですが、正直知識がないままではあまり興味がわくものではありません。しかしかといってまったく現物を見ないまま、はじめから知識がある人というのもあまりいないでしょう。何度も目にするうちにこれはどういう意味?何を象徴しているの?といった疑問を持ち、少しずつ調べて興味関心を広げていくのがおすすめです。
好みの聖人を見付けておくのもキリスト教美術を楽しむための一つの手段です。例えば筆者の「推し」聖人は聖ロクスなのですが、この聖人はコロナ禍でタイムリーなことに、ペストなどの伝染病の守護聖人とされています。ボネファンテン美術館では次の二体が見つかりました。
1500年頃、リンデン材
1520年頃、オーク材
像などではこのように傷ついた脚を見せつけている姿が表現されています。「俺の傷を見ろ!」。一種の露出狂ですね。
上の二体の像では見えませんが、聖ロクスの特徴としては。傍らに犬を従えていることも多いです。
この美術館は現代美術館も見応えがあり、カール・マルクスの頭部を住居としてデザインした模型や、床に体育座りをして泣いている、薄い髪の毛を長く伸ばした不気味な人形、ビデオ映像を影絵のように、性的な場面を映写した部屋(子供にはショッキングな場面が含まれているかもしれません、親御さんはご注意くださいと注意書きがありました)、などなど訪問客の精神を不安にさせる展示が充実しています。
Centre Céramique 住所:Avenue Céramique 50
リンブルフ州政府、ボネファンテン美術館とマース川(Maas)の東岸の南(市の中心部は西岸のより北にある)まで足を延ばしたなら、そこから中心部に戻るついでにこのCentre Céramiqueもついでに見て行けばどうでしょうか。図書館、美術館やイベントスペースとして使われているこの建物は、Jo Coenen設計で1999年に建てられており、現代建築の一つとして、建築に関心があれば、立ち寄って損はない堂々たる建物です。
市役所(Stadhuis van Maastricht) 住所:Markt 78
この市役所は1685年に建ったものです。古典的で美しく、街の中心部にこうした建築があるというのは市民の美的感覚にとって有意義なことでしょう。市役所前の広場は市場が立ち、多くの人々で賑わいます。上の写真からも分かる通り、この建物の前には人々が日光浴をしながら座り込み、お喋りをしたり、休んだりしています。オランダに来てから思ったのは、外で過ごす人々が多いということです。太陽が出たらすぐさま街は賑わい、他に何もすることがないのか、カフェのテラスでくつろいだり、公園でのんびりとしています。
このReitzというお店は市役所の目の前にあるフライドポテトの有名店です。筆者は試していないのですが、ご覧の通り行列が出来ていました。オランダやベルギーといえばフライドポテトというイメージがありますが、本当にこの辺の人はよくフライドポテトを食べます。おつまみにも食べますが、単体でぱくついている姿をよく見るのでちょっとしたカルチャーショックを感じます。まあ、日本でいうタコ焼きみたいな感覚でしょうか。大の大人が広場の噴水の台に座って黙々と食べている様子は、愛らしくもあり、また、どこか中毒患者のようにも見えます。笹の葉を噛んでいるパンダを見ているような。こんなことを書いていると誰かに怒られそうだ。
ちなみにこのReitz、ネットのヴォーグのオランダ版で、マーストリヒトのおすすめのレストランの一つに挙がっていました。ヴォーグも、フライドポテト屋をおすすめするのか……いや、フライドポテト以外の美味しそうな料理もメニューには載っていますが、ヴォーグの記事で書かれているのはほぼフライドポテトのことだけ。
Boekhandel Dominicanen (Bookstore Dominicanen)
住所:Dominicanerkerkstraat 1
マーストリヒトを訪れたなら、この本屋を訪ねないで去ることはできません。元ドミニコ会教会の建物の中に、なんと今は本屋が入っています!
こんな本屋なら何時間でもいたくなりますね。ドミニコ会になんの思い入れもなくとも、ドミニコ会、ありがとう、こんな素敵な建物を残してくれて、とお礼を言いたくなります。すでに200年ほど前に教会としての機能を失っていたという建物なのですが、以後、爬虫類小屋、自転車置き場、「カーニバル寺院」などと雑多な使われ方をしていましたが、2006年から本屋になりました(典拠:https://www.visitmaastricht.com/locations/30386516/dominicanen-bookshop。
教会を訪れると、天井など上のほうに目が行きがちですが、床を見てみても発見があります。このドミニコ会本屋の床には上の写真のようなレリーフがいくつかあり、ふと床に落とした目も楽しませてくれます。
どんな本が置いてあるのか。もちろん一言では言えませんが、一例を挙げれば、エドガー・アラン・ポーの古書の隣に攻殻機動隊が並んでいる!
児童書のコーナーにはミッフィーちゃんの姿も見えます。
まだマーストリヒトには魅力的な場所がたくさんあります。長くなってしまったので一旦ここで切りますが、近日中に後編をアップします。マーストリヒトのグルメやビールもご紹介したいと思いますので、ご期待ください。
マーストリヒトの建築について次の書籍を参照した:
Mariëlle Hageman, De Nederlandse Architectuur 1000-2005, Bussum : THOTH, 2004.