『大人になれる本』をご愛読いただき、誠にありがとうございます。
メンズファッション担当のライター田中です。
このコーナーでは「ライター田中のメンズファッション講座」と題して、ちょっと綺麗目なジャケパンスタイルやスーツスタイルなどをメインとしてメンズファッションを解説していきます。
着こなしの基本からコーディネートをグレードアップさせるテクニック、アイテム選びのコツなどさまざまなことを解説していきますので、ぜひご参考ください。
今回は第1回「メンズファッション何をどう着るべきか」編です。それでは早速いきましょう。
大人は何をどう着るべきか?
まずメンズファッションについて考えるときに皆さんが一番気になるのは、大人になったら何を着るべきか、ということではないでしょうか。
よく大学生ファッション、という言葉が使われ、それは大学生特有の着こなしとされています。しかしでは具体的に大学生ファッションと大人のファッションの何がどう違うのか?ということを聞かれると、正直よく分からないという人も少なくありません。大人が着るべきものを理解するために、まずは大学生ファッションと大人のファッションの違い、それについて考えてみる必要があります。
そもそも大学生ファッションには大きく二つの特徴があります。
低価格なファッションブランドで構成されていること
特別こだわりのあるマニアックな学生でない限り、基本的に大学生のファッションは低価格なブランドの服で構成されています。HARE ハレやRAGEBLUE レイジブルーなどがその代表ですね。このようなブランドではシャツが2500円、パンツが3000円、ジャケットが5000円といったような具合で使いやすいものが非常に低価格で売られていますので、大学生にはちょうど使いやすい。定番になっているのも分かりますね。
常にカジュアルであること
例えば大人になればスーツを着るようになることはもちろんのこと、スーツだとやり過ぎになってしまう打ち合わせや、ビジネススーツを着るわけにはいかないホテルディナーなど様々な「ドレススタイル」が必要になってきます。しかし大学生にはほとんどそういう機会もなく、あってもスーツを着ていれば「大学生だししょうがない」と許されてしまいますので、基本的に大学生はドレススタイルの概念を持っていません。そういうわけで大学生はカジュアルなんですね。ジャケット等を着ている学生を見ることもありますが、着こなしはカジュアルにテーラードジャケットで「綺麗目」な印象を足しただけの物。スーツスタイルを所謂ドレスダウンしてドレススタイルを作っているわけではないのです。
ではもう一度大人のファッションについて考えてみましょう。上の大学生ファッションの特徴を見れば、大人の着るべきものがコントラストで浮かび上がってくるでしょう。
ある程度品質の良い物を着よう
もちろん誰もが高級なものを着るべき、というわけではありません。しかし素材の特徴や値段と品質のバランスを見ながら「本当にコストに見合っているものはどれか」という考えを身につけれる事が大事です。またメンズのファッションアイテムの中には、品質で雰囲気ががらりと変わってしまうアイテムも少なくありません。例えばチェスターコート。
昨今トレンドのチェスターコートですが、これはファッションアイテムの中でも特に面積が大きいため、生地の品質とシルエットの良し悪しが非常に目立ちます。例えば大学生の着ているようなナイロン素材のメルトン生地のチェスターコートと、しっかりしたスーツブランドのカシミアウールを使用した生地のチェスターコートでは雰囲気がまったく異なります。
しっかりとしたスーツブランドが作るコートは上質な生地を使用していることの他、身体に沿うようなシルエットが美しいですね。そのように身体に沿うコートは身体を縦長に見せるため、スタイルを良く見せてくれます。
またラペルに施されたステッチや、各所の繊細な仕上げは全体に落ち着きをもたらし、大人っぽい雰囲気を作ります。
それに対し、安いブランドのものはこんな感じです。
いくら着こなしが洗練されていてもあまりにおもちゃのような雰囲気のチェスターコートを着ていては、結局大学生ファッションと言われてしまうかもしれませんね。
逆にパンツなんかはどうでしょう。私は仕事でファッションについてを書いているため、それこそ一着4~5万円する(Rota ロータというブランドです)パンツも買って履いてみたりしています。もちろんそういったパンツは履き心地もシルエットも良く、生地も一流で流石という印象。
ですがもしもユニクロのパンツとこのRota ロータのパンツを履いている人が、まったく同じトップスを着て数メートル離れていたら、どっちがどっちかを確実に当てられる自信はありません。もちろんユニクロのパンツの方は平面的な裁断で加減の無いミシン縫いなので履き心地では劣るかもしれませんが、パンツの品質の違いは見ている人にはそれほど分からないものなのです。
ですから大事なのはどのアイテムに、どの位お金を掛けるべきか、どんな物を選ぶべきかを知ることです。また品質の良し悪しを見分けられるようになるのも大事ですね。
ドレスダウンを基本にしよう
大学生ファッションと大人のファッションを比べたときに、次に考えるべきはドレススタイルの有無です。先ほど大学生にはカジュアルしかないという話をしました。
大人になったら?これは基本的にイタリアのファッションを紹介している『大人になれる本』なりの提案ですが、「ドレスダウン」基本としてカジュアルを作るべきだと思います。
ドレスダウンとはどういうことか、それを考える前にカジュアルの意味について一考を。
カジュアルのファッションとは何か?様々な答えがあるでしょう。しかしこれを明確に定義してくれと頼んでも「カジュアルとはこういうもの」と言える人は少ないはずです。
これは私の答えですが、カジュアルというのは「スーツから離れているもの」だと考えるのはいかがでしょうか。スーツから離れていればいるほど、カジュアル度が高いと考えるわけですね。
カジュアルの対義語がフォーマルなのは皆さんご存知の通りかと思います。しかし現代で我々一般人のファッションの話をするのに、燕尾服やらフロックコートを持ち出して、厳密にはフロックコートはフォーマルではない、なんていう話をするのはナンセンスでしょう。そこで、我々の普段着るものの中で最もフォーマルに近い位置にあるもの=スーツを基準に考えます。
私がおすすめするのは、カジュアルを着こなす時にも必ず軸をスーツに置き、どのくらいスーツからドレスダウン(カジュアル化するか)という考え方をするというファッションの作り方です。
ドレスダウンというのは聞き慣れない言葉かもしれませんが、スーツにカジュアルなアイテムや要素を一つ入れることによって、一つドレスダウン(カジュアル化)すると考えればOKです。
例えば休日に仕事関係の人とランチミーティングをすることになった。
ここでカジュアルとスーツをまったく関係ないものとしていると、混乱してしまいます。スーツだと堅すぎるから、私服?だけど私服だと失礼かもしれないから、ジャケットを着た方がいいかもしれない。でもジャケットに合わせる服は……?
とこういった感じですね。
しかしそこでスーツを軸にして、そこからの距離でカジュアル化するという考え方をすればどうでしょう。
スーツだと堅すぎる。ではスーツを一段か二段ドレスダウンしよう。ネクタイや革靴などはそのままスーツのパンツに別の色のスラックスを合わせてジャケパンスタイルに。これで一段ドレスダウンですが、打ち合わせとはいえ休日だからそこまでしっかりした格好は必要ないかもしれない。
ではそのパンツをさらに綿パンツにしたジャケパンスタイルにしてもう一段ドレスダウンしよう。
こうして「綿パンツを合わせたジャケパン」という位置を決めたら、後はチノパンに合うジャケットやシャツを適切に選ぶ。こんな具合です。
ではホテルでのディナーは?
相手は誰でしょう。まだ付き合う前の女性だとしましょう。それではスーツからどれくらいドレスダウンするといいでしょうか。
まずは二段ドレスダウンした綿パンツを使ったジャケパンスタイルを考えつきますね。しかしちょっと気合いを入れすぎて、堅苦しく見えます。
ではこのジャケパンからネクタイを取り除きます。もう一段ドレスダウンですね。では革靴をやめて、スニーカーにしたらもっとリラックスした感じになるかも。いやホテルディナーだから、革靴はこのままにしよう。こういう考え方をしていくわけです。
もしドレスダウンの考え方を持っていない人が同じことをしようとしたら、非常に苦労してしまうはずです。ホテルだからジャケット?テーラードジャケットの着こなしを調べなければ。テーラードジャケットの着こなしで調べても色々な情報が出てくるけど、どういう着こなしがいいんだろう?
そもそもスニーカーとジャケットって合わせても良いの?むしろ革靴ってカジュアルで履けるの?
とそんな具合です。
もちろん実際にはスーツのパンツを綿パンツに変えてもジャケパンスタイルにはなりません。チノパンの素材感にあったジャケットを用意する必要がありますし、革靴だってスーツ用の黒光りした地味な靴をリラックスしたジャケパンスタイルに合わせるのは考えものです。
そこで、少し時間は掛かりますが、一つ一つのアイテム単位でドレスダウンを覚えていくのです。
例えばこんな具合です。左から順にドレスダウンしていきます。
1. 基本スタイル
スーツ > スラックスを使ったジャケパン > チノパンを使ったジャケパン > デニムを使ったジャケパン > チノパンとカジュアルなアウター > カジュアルなボトムスとカジュアルなアウター
2. トップス
ジャケット > ジャケット由来のトップス(ベスト等) > カントリー由来のトップス(セーター等) > ミリタリーやワーク、ストリート由来のトップス(デニムジャケット、MA-1等)
白のドレスシャツ > 薄い青のドレスシャツ > その他ストライプのドレスシャツ > チェック柄などのドレスシャツ > カジュアルシャツ > カットソー
3. ボトムス
ウール素材のスラックス > 綿素材のパンツ(プレス入り) > 綿素材のパンツ(プレス無し) > デニム > スウェットパンツ等
4. ネクタイ着こなし
ネクタイ+チーフ > ネクタイのみ > センツァクラバッタ(ネクタイ無し)+チーフ > 何も無し
5. 靴
黒のストレートチップの革靴 > 紐ありの革靴 > 紐無しの革靴 > スニーカー等
といった具合ですね。これらはごく一例ですし、本当はもっと細々とドレス > カジュアルの位置づけをしていくことができます。しかしそれはいざ悩んだときに自分で調べたり、考えたりすれば十分です。
例えばこの上の一番左の要素だけを集めてみましょう。スーツ、白いドレスシャツ、ネクタイ+チーフ、黒のストレートチップの革靴ですね。スーツやネクタイの色は選ぶ必要がありますが、首脳会談での各国の大統領の着こなしのようなドレス感の強い着こなしになります。
逆に一番右の要素だけを集めてみます。
カジュアルなボトムスとカジュアルなアウター、ストリート由来のトップス(デニムジャケット、MA-1等)、カットソー、スウェットパンツ、スニーカーになりますね。どうでしょう、雑誌Safariなどでハリウッドセレブが着ている休日のカジュアルスタイルが出来そうな予感がします。
このように着こなし全体でもアイテム単体でもスーツを基準にし、そこから「どれだけドレスダウンするか」という考え方でファッションを作ってみると、色々な場面で悩むことが少なくなります。
いかがでしたか?
ライター田中のメンズファッション講座、一回目ではメンズファッションで「何を、どう着るべきか」についてを解説してみました。
次はメンズファッションの品質の話です。