商品企画部の気まぐれによって作られたのか?あるいは狙いがあって別注されたのか?同じブランドなのに全然作りが違う特別な一品。
あるいはもう作りが変わってしまって、前ほどのクオリティやこだわりは感じられなくなってしまったブランドの服。過去に存在した不朽の名車。
今回はそんな、今では手に入らないイタリアの『過去の名品』の特集です。
BORRELLI ボレッリの手縫いジャケット
世界で最も有名なハンドメイドシャツのブランドであるルイジボレッリ。
このブランドが単なるカミチェリア(シャツ工房)から世界に通用するラグジュアリーブランドへの一歩を踏み出したのが数年前の話ですね。
かの有名なイタリア最高峰のブランド、Kiton キートンの工場責任者をヘッドハンティングして重衣料に力を入れ始めてすぐのルイジボレッリのジャケットは、まるきりキートンやアットリーニと同じ水準で作られる手縫いを多用したものでした。
フロントエッジからジャケット全体にわたって施されるステッチは手縫いによるもの。アットリーニのように精巧でありながらも、手縫いならではの自然な温かみが出ています。
ナポリ仕立て特有のダブルステッチをパッチポケット部分に施している辺りにも、ルイジボレッリがナポリ発祥のラグジュアリーブランドとして世界へ売り込もうとしていたことが感じられますね。
襟付け、袖付け、ボタンホールに至るまで本当に多くの部分が手縫いによって仕上げられています。袖付けのいせこみは非常にナポリらしいマニカ・カミーチャです。
キートンやアットリーニのものよりも大胆で、ダルクォーレやパニコなどのサルトリアの仕上げをより明瞭にしたような雰囲気の雨降らしですね。
全体から醸し出されている雰囲気が、並々ならぬものです。
最近のルイジボレッリはAMFステッチと、それなりのナポリ風の雰囲気を盛り込んだ良質なジャケットを主に作っています。もちろん手縫いを要所に用いており、値段にしては抜群のクオリティですのでおすすめです。
しかしこのジャケットのような美しく手間の掛かったものが、別注やリニューアルで再び登場し、もっと多くの人の手に届けばそれに超したことはありません。
Valditaro ヴァルディターロのナポリ風ジャケット
それはそれはちょっと昔の話。まったくどういう企画だったのか、SHIPS別注のValditaro ヴァルディターロが、ナポリ風のジャケットを作ったことがあったようです。
ヴァルディターロはイタリアで高い評価を受けるCARUSO カルーゾというブランドを展開する会社が持つ別ブランド。
このブランドのジャケットはいつも質が良い。ボリオリやラルディーニと同じ値段でありながらも、襟幅や裾丈などのどこをとってもオーセンティックでバランスの良いスタイルを持ち、手間のかかった仕立てであることが特徴です。
基本的におすすめなブランドで、当編集部でも一押しですが、なぜかそのヴァルディターロがナポリ風のジャケットを出したことがあります。
これでもかというくらい分かりやすい雨降らしの袖付け。
故・落合氏が見たら「ディティールばかりが先行している好例だ!」とさぞお怒りになったでしょうが、これはこれで大変面白い。個人的にはこういうデザインの服として、非常に面白いと思います。
スタイルは3つボタン段返りに、レーヨン100%の裏地、手縫いのボタンホールに、手縫いのステッチ。まるきり定価10万円強とは思えない仕様です。
先ほども書いたように、今でもValditaro ヴァルディターロのジャケットやスーツは素晴らしい。品質と値段のバランスから言って、ダントツではないでしょうか。
しかしこんなぶっ飛んだ、お茶目なValditaro ヴァルディターロも、もう一度ネタとしてお願いしたいところです。
Sartoria Attolini 旧アットリーニのシャツ
言わずとしれたイタリア南部ナポリの最高峰サルトリアであるCesare Attolini チェザレアットリーニですが、以前の名前はSartoria Attolini サルトリア・アットリーニでした。
そしてその時代のアットリーニのシャツは、なんとアンナマトッツォに下請けで出していたらしいですね。
サルトリア・アットリーニのシャツは複雑に波打つ各所のギャザーが非常にエレガントで女性的なふくらみを生み出し、襟付けからカフスまでを仕上げる手縫いは一針一針が気が遠くなるほど丁寧で繊細です。
今のアットリーニのシャツもさすが一流サルトリアだけあり、非常にクオリティが高くおすすめですが、この時代の超絶技巧のようなシャツをもう一度買えるときが来ることを願いましょう。
ステファノベーメル旧工房のホールカット
2012年に48歳という若さで急逝した天才的な靴職人ステファノベーメル。
世界中から靴作りを学びに人々が集まった彼の工房は、国籍に関わらず心から素晴らしい靴を作りたいと願う人々だけが集まる奇跡の工房とも言えるものでした。
「イタリアで最も愛された職人」とまで言われるステファノベーメルですが、世界中から優秀な職人が彼の元に集まったのは、彼の情熱的で靴をひたすらに愛する人柄のおかげに他ならないでしょう。
そんなステファノベーメルが亡くなってから、工房は新しい社長の元で心機一転、ステファノベーメルの世界観をより体感できる新しい工房となりました。もちろん以前と変わらないクオリティでの靴作りを続けています。
しかしやっぱり一足は、ステファノベーメル本人の元で作られた靴が欲しい。こちらは旧工房で作られたステファノベーメルのホールカットです。
何が違うというわけではありませんが、ステファノベーメルがひたすらに靴を作り続けた工房で作られた靴を、一度は体験してみたいものですよね。
まだ亡くなってから3年。今なら旧工房で作られた靴が見つかる可能性も少なくありません。
フェラーリ製エンジンのマセラティ
イタリアの名車マセラティは、現在FIATの元で劇的な変化をしている最中です。マセラティ・ギブリのような新しい顧客を開拓する低価格のラグジュアリーカーの発表、ツインターボをメインとする効率の良いエンジン、BMW並みの安定した品質……。
そんな現代のマセラティと、「宇宙一壊れる」と言われたビトルボ時代に挟まれたほんのわずかな期間に作られた名車がある。
マセラティ版F1マチックであるカンビオコルサを載せた、マセラティクーペとマセラティスパイダーですね。
非実用的ながら究極の曲線美と、クラシカルな優雅さを持つボディデザインに、フェラーリ製の4200cc V8エンジンを搭載。官能的で上品なサウンドと、ポルトローナフラウ製の一級品のレザーシートでのドライブを楽しめる、いかにもイタリア製らしい魅力の詰まった一台です。
こちらはもう10年近く前に現行から外れたモデルですが、車である以上まだ中古車での購入が可能。
恐ろしくも官能的なマセラティワールドにどっぷりと、浸かってしまおうじゃありませんか。
いかがでしたか?
今回はイタリアの過去の名品を紹介する企画でした。
今皆さんの目の前に存在するものの中にも、数年後には貴重で入手困難になる将来の『過去の名品』があるかもしれません。