イギリスのブランドを見かけない?
このサイトではイタリアのブランドをいくつも紹介してきましたが、イギリスのブランドの紹介はあまりしていません。
実際にブリティッシュのスーツやジャケットが欲しい!と思っても、結局英国製のスーツではなく、英国製を意識した日本製や海外製のものになってしまいますよね。
ブリティッシュトラッドという言葉はスーツの世界では有名ですが、その割に「イギリス製」のスーツはほとんど日本で手に入らない。例えば日本のAustin Reed オースチンリードはライセンス品で、ロイヤルワラントのオースチンリードとはだいぶものが違いますね。
非常に多様化していて既製服ブランドとして様々なものが人気になっては日本で紹介されていくイタリアのブランドとは違い、イギリスのテーラーというのはかなりおカタい印象がある。これはイギリスの伝統的なスーツの作り方による印象です。
日本でも有名なブリティッシュスーツといえば、サヴィルロウですがこれはビスポークのテーラーが軒を連ねるかの有名な英国スーツの聖地です。
このサヴィルロウのテーラーは伝統的にビスポークつまりは注文服を作るテーラーであって、ファッションブランドではないため既製服をほとんど展開しないわけですね。だから日本にはイタリア製のインポートが山ほど入ってくるのに、イギリスのブランドのインポートというのは、それほど多くないんですね。
イギリスからのインポートはむしろ、カットソーやニット類、あるいは生地のみであることが多いですね。例えばこちらのニットはイギリスのインポートです。
このOldderby Knitwearのようなニットブランドはイギリスにも多いですね。またポロシャツなどゴルフに関連したスポーツウェアもイギリス製のものがわりと入って来ています。
なぜイギリスからのインポートのスーツやドレスアイテムが少ないか。特にインポートのジャケットやスーツが既製服として日本に入ってこないのには理由があります。
構築的なスーツには完璧なサイジングが必要
それはまずイタリアのアンコンなど芯材が入らないリラックスしたシルエットのジャケットに比べ、イギリスのジャケットは構築的なシルエットのため、しっかりと個人に合った完璧なサイジングでないとシルエットが良くない場合が多いからですね。
例えば以下のようなイタリアのジャケット。
袖の部分にやわらかなギャザーが寄せられていて、非常にリラックスした印象です。こういったジャケットは、例えばジャケットの本来のサイジングよりも少し肩が広い人や、逆にやや肩が狭い人、想定よりも少し上腕がガッチリとしている人、逆に腕が細い人でも違和感なくジャケットを着ることができます。
なで肩の人にも怒り肩の人にもこういったジャケットは着やすいですね。
しかしこれがしっかりと肩パットが入った構築的な英国のスーツになるとそうはいかない。肩が広い人は窮屈で、肩が足りない人は極端に肩が余ってしまう。日本のサラリーマンのスーツは肩が余っていることが非常に多いですが、これは日本のスーツが英国風を狙った構築的なシルエットであることが多く、それを選ぶ人の肩幅がスーツに合っていないからそうなってしまうのですね。
また肩パットが入り構築的な既製品のスーツは、怒り肩の人が着るとあまりにいかつくバランスが悪く見え、逆になで肩の人の場合にはパットが浮いてしまうことが多いですね。
もちろん構築的なスーツが悪いというわけではありませんが、構築的なスーツは体の形に合わせて構築されているべきなので、サイジングがぴったりでないと違和感があるのです。
そういうわけで、イギリスのサヴィルロウ仕立てのスーツは、既製服だとその魅力を最大限に引き出すことができません。一つにはそういう理由があって、イギリスのスーツは日本にあまり入ってこないんです。
イギリスのスーツは高級品
もう一つ、イタリアのブランドと英国のブランドでは値段帯が違います。イタリアのブランドは独特の生地感や色彩、デザイン、その雰囲気などが魅力で売れている場合が多いので、作りはそこまで厳密でなくてもトレンド性があったり斬新さがあったりすれば評価されます。結果マシンメイドで作られているものも多く、それらは比較的手の届きやすい値段で展開されています。
しかしその仕立てひとつで評価されているイギリスのスーツは、その良さを最大限に引き出そうとすれば必然的にハンドメイドになり、その分値段が高くなってしまう。
あげくにチュニジアなどからの移民や南部の人々など多くの安価な労働力を持ち、しかもマシンメイドで作るイタリア製とは違い、人件費の恐ろしく高いイギリス人の、中でも高い技術を持った職人に作ってもらうイギリス製のスーツは値段が下げられません。
そういうことで、中々日本で輸入されて売られることが少ないのですね。
いかがでしたか?
今回はイギリスのスーツやジャケットのブランドが少ない理由について考えてみました。
スーツの世界は奥深くて面白いですね。