日本人であれば、新聞によって政治的立ち位置や思想が異なることをご存知だと思います。会社の雑談で、その人が読んでいる新聞を知ってしまい、 気まずい気持ちになった人もいるかもしれません。
では、イタリア国内にどのような新聞があるかといったら、それを知っている人は少ないと思います。日本と同じように、地域によっても人気のある紙面が異なり、 文化的に寄ったものや経済や政治を中心としたもの、 また社会問題やスポーツをメインとしたものなど、各社の特徴が異なります。
イタリア国内にはCorriere della Sera(コリエーレ・デラ・セラ)、La Repubblica(ラ・レプッブリカ)、La Stampa(ラ・スタンパ)、Il Sole 24 Ore(イル・ソーレ 24 オーレ)、Il Messaggero(イル・メッサジェーロ)といった新聞がいくつか存在します。中でも「La Stampa」と「Corriere della Sera」は、イタリアを代表する新聞として、多くの読者に影響を与えています。
本記事では、これら2つの新聞を比較し、どのようなテーマに焦点を当てているのか、そしてそれぞれの思想や主張がどのように異なるのかを詳しく見ていきます。
※カバー写真は、ローマのパンテオンですが、右に写っているのはローマ帝国時代にエジプトからパクってきたオベリスクです。本来、上部に十字架の装飾がないのですが、悪趣味にも魔改造されてしまっています。ちなみにパンテオンには古典ラテン語で
M·AGRIPPA·L·F·COS·TERTIVM·FECIT
マルクス・アグリッパ、ルキウスの子、三度目の執政官としてこれを建てた
と記され、大変かっこいい書式になっています。
ローマの執政官(コンスル)は日本でいう内閣総理大臣に相当するのですが、日本の建造物に「岸田文雄がこれを建てた」と記したら非難轟々かもしれませんね……。小泉純一郎の子、進次郎が建てたでも駄目かもしれません……。
「La Stampa」とは?
さて「La Stampa(ラ・スタンパ)」は1867年に創刊され、イタリア北部のトリノを拠点にする新聞です。中道的な立場を保ちながら、国際ニュースや社会問題に深い関心を示し、バランスの取れた報道を提供しています。特に、経済、国際関係、そして社会的なトピックに対する視点が豊富で、多くの読者から信頼を得ています。
取り上げられるテーマ
「La Stampa」の記事は、幅広いテーマにわたっており、以下のようなトピックが頻繁に見られます。例えば、今日(2024年10月4日)の時点で見出しになっているニュースのタイトルを抜粋してみます。
- Il governo deve dirci la verità sui conti – 政府は財政に関する真実を語るべきだ
- La vecchia Europa nel mondo che cambia – 変化する世界の中の古きヨーロッパ
- Se chi scende in piazza calpesta la democrazia – デモ参加者が民主主義を踏みにじるなら
- Oggi serve la resistenza pacifica alla guerra – 今日は平和的な戦争抵抗が必要だ
- Mettete una Thatcher in curva per ripulire davvero gli stadi – 本当にスタジアムを浄化するためにはサッチャーを置け
- La risposta di Netanyahu non sarà più simbolica – ネタニヤフの対応はもはや象徴的ではないだろう
- Incidente sui binari a San Giorgio di Piano, travolto un operaio – サンジョルジョ・ディ・ピアーノでの線路事故、作業員が巻き込まれる
- Treni: non c’è una vera linea per l’alta velocità, noi appesi a un chiodo per altri 10 anni – 列車:本当の高速線がなく、あと10年は釘付け状態
- Tasse sui profitti, gelo Giorgetti-Meloni – 利益に対する税金、ジョルジェッティとメローニの間に冷たい空気
- Più tasse sul diesel, il Tesoro nega – ディーゼル燃料への増税、財務省は否定
- Carlo Messina: “Sì agli aiuti senza colpire i bilanci” – カルロ・メッシーナ:「財政に打撃を与えずに支援を」
- Medio Oriente: attacchi notturni su Beirut – 中東:ベイルートへの夜間攻撃
- Bambina yazida rapita dall’Isis, torna a casa dopo 10 anni – イスラム国に誘拐されたヤジディの少女、10年後に帰宅
- Nascosta in una stanza con i miei due figli, così siamo sopravvissuti – 2人の子供と部屋に隠れ、こうして私たちは生き延びた
- Ramin Bahrami: “Teheran è come un cane che abbaia” – ラミン・バフラミ:「テヘランは吠える犬のようだ」
- Cacciari: “Delirante il corteo pro Hamas” – カッチャーリ:「ハマス支持の行進は狂っている」
- Verbania: medici in fuga, così muore la Sanità – ヴェルバニア:医師の流出、こうして医療が崩壊する
- Leonardo DiCaprio cena a Roma e “beffa” i paparazzi – レオナルド・ディカプリオ、ローマで食事しパパラッチを出し抜く
- Vaccino anti-influenzale, tutto quello che c’è da sapere – インフルエンザワクチン、知っておくべきことすべて
- Christian Greco: “Vi presento il mio nuovo museo Egizio” – クリスチャン・グレコ:「私の新しいエジプト博物館を紹介します」
このように、政治や経済、また、戦争や難民問題などが、興味深く読まれていることがわかります。日本の新聞と比べると、芸能人のスクープなどはほとんどないように見えます。
国際ニュースと外交関係
イタリア国内だけでなく、ヨーロッパや国際的なニュースを詳細に報道しています。特に、EUの政策、ロシアとウクライナの戦争、中東問題などに焦点を当て、グローバルな視点で読者に情報を提供しています。
政治と経済
イタリアの国内政治や経済に関する分析が豊富で、特にイタリア政府の政策、財政赤字、公共投資、税制改革に関する議論が多く見られます。これらの記事は、国民の生活に直結する内容であり、社会の安定や経済成長に重きを置いています。
環境とサステナビリティ
環境問題についても積極的に取り上げており、気候変動やエネルギー政策に対する意識を高める記事が多く見られます。環境保護や持続可能な経済成長についての議論が強調され、読者に環境意識を高める機会を提供しています。
La Stampaの思想と主張
「La Stampa」は、全体として中道的な視点を持ち、特定の政治勢力に偏らないバランスの取れた報道を心がけています。特に、国際ニュースに関する報道は広範囲にわたり、グローバルな問題に対する冷静な分析が目立ちます。また、経済成長と社会的安定の両立を重視し、持続可能な発展に対する強い関心を示しています。
「Corriere della Sera」とは?
「Corriere della Sera(コリエーレ・デラ・セラ)」は1876年に創刊されたイタリアを代表する新聞で、特に保守的な視点を持つことで知られています。ビジネスや経済に関する報道が充実しており、イタリアの政界や財界に大きな影響力を持つ新聞としての地位を築いています。主にイタリア国内の安定や伝統的な価値観を重視する保守的な層に支持されています。
取り上げられるテーマ
「Corriere della Sera」のタイトルには、経済、ビジネス、政治に関する記事が多く、以下のようなテーマが目立ちます。
- Treni: l’America sta peggio di voi – 列車:アメリカはあなたたちよりも状況が悪い
- Litani, il fiume della guerra tra Israele e Hezbollah – リタニ川、イスラエルとヒズボラの戦争の川
- Perché in Italia è vietato inneggiare a una strage di ebrei – なぜイタリアではユダヤ人大虐殺を称賛することが禁止されているのか
- Operaio morto investito sulla linea Bologna-Venezia, treni sospesi per ore con ritardi e cancellazioni – ボローニャ-ヴェネツィア線で作業員が死亡、列車が数時間停止し、遅延とキャンセル発生
- Dai prelievi sugli utili ai bonus: è caccia ai fondi per la manovra – 利益への課税からボーナスへ:政府予算のために資金を探す
- Il Tesoro: «Nessun aumento delle tasse sui carburanti» – 財務省:「燃料税の増税はなし」
- La solitudine degli italiani. L’Italia cresce ma non ci sentiamo tanto bene, perché? – イタリア人の孤独感。イタリアは成長しているが、なぜ気分が晴れないのか?
- Nuovi raid israeliani: obiettivo Safieddine, successore di Nasrallah – 新たなイスラエルの攻撃:ナスラッラーの後継者サフィエッディンが標的
- Iran, cimici e talpe tra i pasdaran: così il vertice dell’asse sciita è stato infiltrato dal Mossad – イラン、革命防衛隊の中に盗聴器と内通者:シーア派の指導部がモサドに潜入された
- Fiumicino, gli italiani rientrati dal Libano: «Non sappiamo quando torneremo» – フィウミチーノ、レバノンから帰国したイタリア人:「いつ戻れるか分からない」
- La sanatoria per partite Iva e autonomi: come funziona il concordato senza sanzioni sui redditi 2018-22 – フリーランスや個人事業主向けの免除措置:2018-2022年の収入に対する無罰の調整方法
- Il Tesoro cerca coperture stabili per la manovra – 財務省、安定的な予算措置を探る
- La solitudine degli italiani: perché non ci sentiamo bene nonostante la crescita economica – イタリア人の孤独感:経済成長にもかかわらず、なぜ気分が優れないのか
- Dalle accise sui carburanti ai bonus fiscali: la caccia ai fondi per la legge di bilancio – 燃料税から税制ボーナスへ:財政法のための資金探し
- Litani, il fiume simbolo del conflitto tra Israele e Hezbollah – リタニ川、イスラエルとヒズボラ間の象徴的な紛争の川
- La manovra di bilancio 2024: tagli e nuove tasse in vista – 2024年の予算措置:削減と新たな税制が検討される
- Israele lancia nuovi raid aerei contro Hezbollah in Libano – イスラエルがレバノンでヒズボラに対する新たな空爆を開始
- I treni in Italia e negli USA: una crisi di trasporti a confronto – イタリアとアメリカの列車:比較される交通危機
- Morto operaio sulla linea ferroviaria Bologna-Venezia: disagi per i pendolari – ボローニャ-ヴェネツィアの鉄道線で作業員が死亡:通勤者に影響
- La crisi economica non rallenta la crescita della povertà in Italia – 経済危機でもイタリアの貧困は減速しない
書かれているテーマが、先ほどのラ・スタンパとは異なることがわかります。
La solitudine degli italiani. L’Italia cresce ma non ci sentiamo tanto bene, perché? – イタリア人の孤独感。イタリアは成長しているが、なぜ気分が晴れないのか?
このタイトルはなかなか面白いですね。覚えておいて一度扱ってみたいイタリア語です。
経済・ビジネス
イタリアの経済状況や企業動向、特に大企業や国際的なビジネスに関する報道が豊富です。財政政策や国際貿易、金融市場の動向に関する記事が頻繁に登場し、読者に対して経済の安定を求めるメッセージを伝えています。
国内政治の安定と保守的政策
政治に関する報道では、安定したリーダーシップや保守的な政策に対する支持が強調されます。イタリア政府の政策決定に対して冷静かつ詳細な分析がなされており、経済や安全保障における安定性が重視されます。
文化と伝統の維持
イタリアの文化的遺産や伝統を守ることに対しても強い関心を示しています。文化や歴史的遺産に対する報道は、保守的な価値観を持つ読者層に対する訴求力が高く、伝統を重んじる姿勢が鮮明です。
思想と主張
「Corriere della Sera」は保守的な立場を取り、特に経済的な自由主義やビジネスの成長を支持しています。また、政治的にも安定を重視し、大規模な変革よりも、漸進的な発展を好む傾向があります。移民問題や社会的な変化に対しては、慎重な態度を示し、治安や伝統的な価値観の維持を強調しています。
「La Stampa」と「Corriere della Sera」の比較
これら2つの新聞を比較すると、それぞれ異なる思想や主張が浮き彫りになります。
社会問題への視点
「La Stampa」は、国際問題や社会的公正に焦点を当て、進歩的な視点で報道しています。特に気候変動やサステナビリティ、移民問題に対しては、リベラルな姿勢を示し、弱者や少数派の権利に対して強い関心を寄せています。
一方、「Corriere della Sera」は、経済的な安定や伝統的な価値観を重視し、保守的な視点から社会問題を捉えています。経済の成長やビジネスの発展を重要視し、安定した政治体制を支持する記事が多く見られます。
政治的な立場
「La Stampa」は中道的でありながら、リベラルな要素を多く含んでおり、社会的な改革や多様性を重視する傾向があります。政府や大企業に対しても批判的な視点を持つことがあり、進歩的な価値観を持つ読者層に支持されています。
「Corriere della Sera」は、保守的な立場を取っており、政治的安定と伝統的な価値観を守ることに重点を置いています。特に、経済や治安に対する記事では、安定した政策が求められ、社会の急激な変化には慎重な姿勢を見せています。
イタリアの新聞には、何が書かれているのか
イタリアの新聞「La Stampa」と「Corriere della Sera」は、それぞれ異なる視点から社会や政治、経済に関する情報を提供しています。「La Stampa」は、リベラルで国際的な視点を持ち、社会的公正や環境問題に深い関心を示しています。一方で、「Corriere della Sera」は、経済の安定や保守的な価値観を強調し、伝統と秩序を守ることに重点を置いています。
普段、イタリアの新聞というのは一切触れることがないので、 こうして最新の記事を比較してタイトルを見てみると、 何に彼らが興味を持っているのか分かり、勉強になります。
現在では翻訳ソフトが進化を遂げて、簡単に文章を翻訳することができるので、 こうした日本以外の国、特にアメリカやイギリス以外の国の情報を調べてみるのも面白いかもしれませんね。
コメント