ジャズの名曲の中でも、Bill Evans(ビル・エヴァンス)が演奏する「枯れ葉(Autumn Leaves)」は、特に有名で、多くの人が一度は耳にしたことがあるはずです。日本においても、ジャズの代表的なアーティストといえば、エヴァンスやジョン・コルトレーン、マイルス・デイヴィスの名前がまず挙がるほど広く知られています。特にBill Evansによる「枯れ葉」は、現代に至るまで多くの人々に愛され続けています。
しかし、実はこの「枯れ葉」という曲は、Bill Evansが作曲したものではありません。それにもかかわらず、なぜ彼が演奏した「枯れ葉」がこれほどまでに人気を集めたのでしょうか。その秘密に迫ってみます。
独特のハーモニーと即興演奏
Bill Evansはピアノにおいて、従来のジャズの枠を超えた高度なハーモニーと即興演奏を駆使しました。「枯れ葉」はもともとフランスのシャンソンからジャズスタンダードへと転換された曲ですが、Evansはそのシンプルなメロディラインを、複雑かつ美しいハーモニーで新たに解釈しました。
彼の演奏では、ピアノが単なるリズムの支えではなく、曲全体を豊かに彩る主役として機能しているのが感じられます。
ピアノトリオの革新
Bill Evansがスコット・ラファロ(ベース)やポール・モチアン(ドラム)と共に取り組んだピアノトリオの革新も、彼の「枯れ葉」が評価される理由の一つです。
それまで、ジャズにおけるリズムセクションはソリストを支える役割が中心でしたが、Evansのトリオでは、全員が対等にインタープレイし、曲の構造を共に作り上げるスタイルが確立されました。
「枯れ葉」では、特にベースとドラムが自由に動き回りながら、ピアノとの絶妙な会話を繰り広げています。この新しいアプローチが、他の演奏とは一線を画す理由です。
フランスのルーツとシャンソンの魅力
「枯れ葉(Les Feuilles Mortes)」のルーツはフランスのシャンソンにあります。1945年にジョセフ・コスマ(Joseph Kosma)が作曲し、ジャック・プレヴェール(Jacques Prévert)が作詞したこの曲は、映画『夜の門(Les Portes de la Nuit)』で使用されたことから広まりました。その後、ジャズ界でも愛されるようになり、特に英語版「Autumn Leaves」が広く演奏されるようになりました。夜の門は、2024年10月1日現在はアマゾン・プライムビデオで無料で配信されていますので、興味ある方にはオススメです!
ここで、フランスのシャンソンの原点を感じさせる貴重なバージョンとして、1958年に録音されたMouloudji chante “Les feuilles mortes” (Jacques Prévert/ Joseph Kosma) version inédite 1958が存在します。この未発表バージョンでは、フランス特有の哀愁漂うシャンソンの魅力が凝縮されており、Bill Evansの「枯れ葉」との対比が興味深いです。ムルージの感情豊かな歌唱とEvansの内省的なピアノ演奏は、同じ曲でありながら異なる感情を引き出します。
感情的な深みと内省的なスタイル
Bill Evansの演奏は、常に感情的で内省的な要素が強く、「枯れ葉」も例外ではありません。
この曲のメロディには秋の物寂しさと哀愁が漂っており、Evansの演奏はその感情を深く掘り下げています。彼の繊細なタッチとフレージングは、リスナーに強い感情的な共鳴を与え、ただの「演奏」ではなく、個人的な体験や感情を共有しているかのような印象を残します。
『枯れ葉』が時代を超えて愛される理由
Bill Evansの「枯れ葉」がこれほど有名である理由は、その革新性、感情的な深み、そしてピアノトリオの新しいアプローチにあります。
また、フランスのシャンソンとしてのルーツを感じさせるMouloudjiのバージョンも、この名曲の歴史を語る上で重要です。Evansの「枯れ葉」は、単なる演奏ではなく、時代や文化、感情が交差する特別な瞬間を捉えた作品として、今も多くの人々の心に残り続けています。