最近Twitterで、漫画の一コマのスクリーンショットとともに、その時代には存在しないものが描かれていると指摘するツイートを見かけることが増えています。
1983年に謎に小さめのアルファード所有してる家族の少女が普通なわけないでしょ pic.twitter.com/5Lsl3OJeyO
— おとっさん (@otosuotosu) September 22, 2024
例えば、こちらのツイートは1983年にサイズが小さいアルファードが描かれているのがおかしいとされています。サイズが小さいのは仕方ないとしても、 確かに1980年代前半にはミニバンは存在しなかったわけで、 古いクラウンなどセダン車を書くのが良さそうですね。
1985年頃、茨城・常陸多賀駅前 pic.twitter.com/NX4CZ5wPtA
— ちょっと昔の日本の景色bot (@japan80to00) September 28, 2024
車の描写に限らず、見落とされがちなのが、住宅の窓や外壁のデザイン、ガス機器などです。時代ごとにデザインが大きく異なるため、当時の雑誌や本、テレビドラマなどを参考にするのが良いですが、手軽に再現したい場合は「ちょっと昔の日本の景色bot」などのアカウントを参考にするのも一案です。
オルクセン王国史コミカライズについていいたいことがあったりなかったりする今日この頃。 pic.twitter.com/QA8IGmEYyF
— もふ⋈きち (@LCW_mofu) September 28, 2024
またこちらはファンタジー漫画であり、細かい設定に口を出すのはどうかと思いますが、 ケーキの下にアルミ箔があることで指摘されてしまっています。
確かに、この1カットだけを見ると、2000年以降の日本を思わせるような絵になってしまっています。私はしがない食器マニアですが、このシェイプのカップは2010年前後から流行したものですし、プリント転写のパターンもこの頃人気だったものです。
ファンタジーモノなので特に関係がないかもしれませんが、 ケーキのデザインやカップ&ソーサーを見て、 「最近の日本だな」と思ってしまう方も多いかもしれません。
昔の西洋を舞台にしていて失敗しやすい描写は?
歴史的な作品で特に間違いがちな描写の一つに、シャンパーニュの乾杯シーンがあります。
現在一般的に使われている細長いフルートグラスは、実は19世紀後半から普及し始めたものです。19世紀以前のシーンでフルートグラスが登場すると、歴史に詳しい観客や読者は違和感を覚える可能性があります。特に、シャンパーニュが飲まれるようになったのは18世紀中頃からであり、それ以前の作品にシャンパーニュを描写すること自体がやや違和感を覚えます。
一方、クープグラスは18世紀から19世紀にかけて人気がありましたが、泡が抜けやすいため、その後フルートグラスに取って代わられました。しかし、クープグラスは1920年代のアメリカで再び人気を博し、特に1930年代から1960年代の映画やセレブリティの影響で愛用されました。フランスのマリー・アントワネットがモデルとされたという逸話もありますが、これは実際には事実ではなく、後に創作された話です。
また、ナイフやフォーク、スプーンなどのカトラリーについても、これらがセットとして広く使用されるようになったのは19世紀からです。それ以前は、ヨーロッパでは多くの食事が野蛮にも手掴みで行われ、肉を切り分けるためナイフだけが主に使用されていました。
一方、日本では6世紀から7世紀にはすでに箸やさじが使用されていたと言われています。この点からも、食器文化においては日本がヨーロッパに先行していたことがわかります。
ロンドンのポートベローマーケットに行くと、このように立派なカトロリーが並んでいますが、いずれもそこまで古いわけではないですし、貴族や富裕層の一部が日常的に使っていただけであり、庶民は手掴みでご飯を食べていたことになります。
他にも、特定の歴史的時代を舞台にした作品では、衣服のデザインや素材、色合いがその時代に適しているかを確認することも大切です。例えば、18世紀のヨーロッパを舞台にした作品で、19世紀後半に流行した豪華なビクトリアン風ドレスが登場すると、違和感を覚えてしまいます。
宮廷で演奏するシーンでは、ピアノではなくチェンバロ、また、演奏している人たちの人数や構成、選曲、髪型、他にも庭のデザイン、こうしたものたちが文化的な人にとっては当たり前でも、絵を描く人にとっては当たり前ではないので、そこの差を埋めることが大切になってきます。
時代物の漫画の描写は難しい
特に日本では、武器や兵器の描写に対して非常に詳しいファンが多く、その点については厳しく指摘されることがよくあります。しかし、それ以外の部分、食文化や調度品、建物、衣服といったものはおろそかにされることもあります。
「別に大した問題ではないから、適当でもいいでしょう」と思う人もいるかもしれませんが、 例えば、私たち日本人がアメリカ人が作った作品を見て、中国の調度品と日本の調度品がごちゃ混ぜになって、 神道と仏教も混ざって出てきたら、「うーん、なんだか…」となんとも言えない気持ちになると思います。
これらをよりリアルに描くためには、当時の資料や写真を参考にしたり、映画やドラマからその時代の雰囲気を掴むのが効果的です。少し手間がかかるかもしれませんが、そういった細かい部分にこだわることで、読者にとってより没入感のある作品ができそうです。
(※カバー写真はファンタジーな雰囲気もあるフランス・ボーヌ市街です)