アダム・スミスの「見えざる手」とは何か?分かりやすく現代社会を例に解説

経済・投資

昨今のSNSで”アダム・スミスの例”を持ち出す人は、どこか怪しげで騙してきそうな雰囲気さえあります。ただし、現代の経済学の基礎となったものも確かです。今回はアダム・スミスが『国富論』で提唱した「見えざる手」について具体的に解説してみます。

一言で言うと個人が自分の利益を追求する過程で、意図せずとも社会全体の利益につながる仕組みを指します。
この概念は、現代の市場経済にも深く根付いており、私たちの身近な経済活動でも見られます。ここでは、具体的な例を通じて「見えざる手」を考察してみましょう。

自動化と生産効率の向上

例えば、工場が生産効率を上げるために最新の自動化機械を導入するとします。この導入は、企業がコストを削減し利益を最大化することを目的としています。機械化により、製品はより速く、正確に作られ、生産コストが削減されます。これは一見すると企業の利益を追求した行動ですが、その結果、製品の価格が下がり、消費者は安価で高品質な商品を手に入れることができます。

このように、企業が自らの利益を追求することが、結果的に消費者に利益をもたらし、社会全体の効率的な資源配分につながるというのが「見えざる手」の典型的な例です。

不動産市場における価格調整

マンションや一戸建ての中古市場では、売り手と買い手が価格交渉を行います。売り手は自分の利益を最大化するために高値で売りたいと思いますが、買い手はできるだけ安く購入したいと考えます。この需給バランスの調整を通じて、価格が自然と市場で決まっていきます。例えば、地域の需要が高まりマンションの価値が上がれば、売り手はより高い価格を設定し、利益を得ることができます。

一方で、買い手も納得のいく価格で住宅を手に入れることができ、最終的には両者が利益を享受します。これも「見えざる手」の働きであり、各個人が自分の利益を追求することで市場全体が適切に機能する一例です。

オンラインマーケットプレイスの価格競争

Amazonや楽天などのオンラインショッピングサイトでは、多くの出品者が商品を販売しています。各出品者は自社の商品がより多く売れるように価格を競い合います。この競争により、消費者はより安い価格で商品を購入することができるようになります。出品者同士の競争が激化すれば、価格はさらに下がり、品質も向上します。

この競争のプロセスは、誰かが全体の価格や品質を管理しているわけではなく、各出品者が自らの利益を追求した結果として市場全体の効率性を高めているのです。これも、スミスが指摘した「見えざる手」の現代的な具体例と言えます。

配達サービスの最適化

もう一つの現代的な例は、配送業者の配達ルート最適化です。各配送業者は、燃料コストや時間の節約を考え、できるだけ効率的なルートで荷物を届けようとします。これにより、企業は利益を上げることができ、消費者も迅速で安価な配達サービスを受けることができます。このように、企業が自らの効率を追求することが結果的に社会全体のサービス改善につながるのも「見えざる手」の一つです。

「見えざる手」とは何か

人は自分自身の安全と利益だけを求めようとする。この利益は、例えば「莫大な利益を生み出し得る品物を生産する」といった形で事業を運営することにより、得られるものである。そして人がこのような行動を意図するのは、他の多くの事例同様、人が全く意図していなかった目的を達成させようとする見えざる手によって導かれた結果なのである。
…he intends only his own security; and by directing that industry in such a manner as its produce may be of the greatest value, he intends only his own gain; and he is in this, as in many other cases, led by an invisible hand to promote an end which was no part of his intention.
— 『国富論』第4編「経済学の諸体系について」第2章

アダム・スミスの「見えざる手」は、現代社会の多くの経済活動においてもその原理が働いています。個人や企業が自分の利益を追求する行動が、結果的に社会全体の利益につながるという考え方は、効率的な資源配分を自然に導く市場メカニズムの核心をなしています。

これが、機械化、価格競争、不動産市場、配達サービスなど、私たちの日常生活の中で多くの場面で見られる現象です。

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