オランダ、マーストリヒト(Maastricht)のおすすめの場所のご紹介、後篇です。
マーストリヒトってどこ?って方のために簡単に説明すると、オランダの南東部、ベルギーとドイツの間に挟まれたリンブルフという州のベルギー川にある都市で、そのリンブルフ州の州都です。
オランダの一番大きな空港であるアムステルダム・スキポール空港からマーストリヒトまで電車で三時間かかります。しかし見どころは多く、マース川という大きな川を挟んで作られた都市はその地形から少しパリを思い起こさせるようであり(ずっと小規模ですが)、古い建造物が櫛比した街は、主要な観光スポットは一日二日で見終えることができるほどコンパクトにまとまっていながら、ずっとぶらぶら歩いていても飽きないという、ゆったりとした旅をしたい人にはうってつけの場所です。ベルギーやドイツからも近いので、そちらへ行く予定がある方は、ひとつオランダにでも足を延ばそうかと思った時に、この都市をぜひ訪ねてみてください。
前回は元ドミニコ会の教会を利用した本屋のご紹介までで終わっていました。今回、まずどの観光案内でも取り上げられる、この町を代表する二つの大きな教会のご紹介から始めたいと思います。
Basiliek van Onze Lieve Vrouwe Onze Lieve Vrouweplein 7, 6211 HD
聖母マリア教会です。ヨーロッパの観光地なんて結局城と教会しかないなんて毒づいた日本人の知り合いがいますが、確かにその通りでしょう。教会はキリスト教徒でもないと、どこを訪れても同じように見えて、はじめは美しさに感心していたのが、だんだん飽きてくるというのはヨーロッパ観光あるあるかもしれませんが、そこでめげてはいけません。耐えましょう。興味がなくても行ってください。世の中に面白いことなんてそんなにないのです。人間の頭なんて、朝から夕方に飲む予定のビールで占められているぐらいの軽薄なものですが(とりもなおさず私の頭のことですが)、朝からえんえんとテラスに座ってビールを飲んでいるなんてそれまた一種の地獄です。楽しいことは夜の一瞬であるから楽しいのです。昼は教会に行きましょう。
五世紀からこの地に教会が建っていたといわれ、オランダ最古の教会であると目されています。教会というのは建て替え建て増しをされるのが常なので、今のままの姿で五世紀から建っていた訳ではもちろんありませんが(五世紀にロマネスク様式はない)。
現在の建物はロマネスク様式です。ゴシックってなんだか見慣れてくると下品だなと感じる人にはこの慎ましやかな教会のデザインが気に入るでしょう。正直、一番最初の写真はちょっと牢獄みたいですよね。
附属のチャペルの前には車椅子に座ったおばあさんが座っており、教会のためなのかそれとも自分のためなのか、判断がつきかねますが、訪問客へ袋をかざしながらお金を無心していました。あるだけの硬貨をあげていると、トイレへ行くけど、自分じゃこのお金の入った袋を仕舞えないからと、車いすの後部の収納スペースの蓋を開けて、私にそこに硬貨でずっしりと重くなった袋を入れるように言いました。普段からトイレに行くたびに人をつかまえているのでしょうか。老後にもっとも必要なのがコミュニケーション能力だということが分かりました。東洋人で、分かったような分かっていないような反応をしながら彼女のオランダ語を聞いていたからか、最後には’merci beaucoup’と言われました。英語が出てこないのが素晴らしい。ヨーロッパを旅行していて、英語で話しかけられることほど、詰まらないことはありません。便利なのですが、旅行先ではコミュニケーションなどスムーズに取れない方がいいのです。今日、『地球の歩き方』の最後の方の頁にある現地語の会話フレーズを使う機会がどこにあるでしょう。相手はいらいらしたような顔をしながら英語で話してくるのが落ちです。英語なんてなくなればいいのに。
Sint-Servaasbasiliek Keizer Karelplein 3, 6211 TC
立派な門構えですね。ちなみに後ろに見える赤い塔はこの教会の一部ではありません。左の白い建物と赤レンガの建物の間に門がありますが、そこは小さな庭の入り口で、中に入ってゆっくり休んでもいいと太っ腹な文句の掲示があります。実際に中に入って休んでみたところ、黄色いアフリカのプリントの服を着た黒人女性が水やりをしていて、少し立ち話をしました。マーストリヒトで学んでいた日本人の留学生の友達がいて、大阪にその人を訪ねに行ったことがあるとか。マーストリヒトは穏やかで平和な町だと言っていました。旅先で知らない人とこうしたちょっとした感情のやり取りをするのは心の温まるものです。共通語(英語)というのは偉大です(前言撤回)。
聖セルヴァティウスの墓(教会内にある)。
チャペルだけなら無料ですが、教会な部と宝物館を見るためには4.5ユーロ払わらなければいけません(大人料金)。しかしそれだけの価値はあります。美しい教会内部はもちろんのこと、キリスト教の興味深いお宝の数々を目に焼き付けることができるのです。例えば、この上の写真にあるどこぞの聖人の腕の骨だとかという触れ込みの聖遺物。人魚の骨とかいうのと同じくらいの胡散臭さです。しかしこうした虚構がお宝として伝わっているという事実が感慨深い。
教会の名に冠されている聖セルヴァティウス(Sint-Servaas)というのはマーストリヒトで死去し(384年)、この町の守護聖人である人の名前です。歴史的に確認されているオランダで最も早い司教として知られています。
Sint-Janskerk Vrijthof 24, 6211 LD
あの赤い塔はこの教会のものでした。入っていないのですが、上のSint-Servaasbasiliekの隣に立ち、赤い塔はより目立ちます。教会というのは内部を見てがっかりすることが多いので、ここには入りませんでした(どうせ入ったところで塔の天辺まで昇らせてくれるわけじゃないし)。外からみて口を開けてぼんやり眺めていればよいのではないでしょうか。美しいです。
Café SjiekのZoervleis Sint Pieterstraat 13, 6211 JM
オランダに料理なんてものはないと言われています。ええ、そう聞いたのです。それでもオランダの南部ではカトリック優勢で、ベルギーにも近いので(どういう理由?)レストランで出てくる料理が美味しくなると小耳に挟んでおりました。
ところが’Maastricht restaurant’といったキーワードで探してみても、出てくるのはタイ料理とかイタリア料理、フランス料理ばかり。フランス料理はまあ地理的に分からないでもないですが、もっと伝統的なものが食べられないかと。探してみつけたお店がこのCafé Sjiek。
頼んだ料理はZoervleis。リンブルフの方言表記ではZoervleis、オランダ標準語表記ではZuurvlees。意味は「酸っぱい肉」。馬肉を軟らかく煮込んで、甘酸っぱく味付けしたものです。付け合わせはフライドポテト。リンゴの甘いソースとマヨネーズが添えられています。
オランダに来て初めてレストランで、(アジア料理以外で)美味しいものを食べた気がします。そう、こういったうまい田舎料理があるはずなのです、ヨーロッパには。
Stadsbrouwerij de Maastrichter Maltezer Oeverwal 12, 6221 EN
ビール! ビール! すみません、興奮してしまいました。
マース川沿いにDe Maltezerというマーストリヒトの醸造所兼ビアバーがあります。事前に知らなかったのですが、歩いていたら目に入り、当然入りました。
これは試飲セットです。左からほにゃらら……。すみません、うろ覚えなのです。左からRoyal Martinus (ブロンド)、Yihaa! Giddyhop (ダークIPA)、Easy Ryeder (ライ麦ビール)、Krachtige Victoria (トリペル) だったと思います。試飲セットはずっと固定ではないので、みなさんがもし訪れたとしたら、違うものが出る可能性は大いにあります。
ライ麦ビールの味が個性的で面白かったです。ライというのはウィスキーでも近年注目を浴びています。オランダのクラフトビールでも、リナシメントでいつだったかご紹介したJopenのビールでよく使われていました。
こちらはHoly Smoke (スモークビール)。スモークビールだけど分かってる?って店員に聞かれました。一、二回しかこの手のビールは飲んだことがありませんでしたが、美味しかった記憶があるので、「知ってるよ!」と知ったかぶりをして注文しました。
Bisschopsmolen Stenenbrug 3, 6211 HP
遡れば7世紀からあるという水車小屋に併設されたパン屋です。水車が回っている様子は無料で見学できます。隣にはカフェがあり、そこで買ったパンを食べてもよし、ただパンやフラーイ(vlaai)を買ってホテルで楽しむもよし。フラーイというのはこの地方の甘いタルトのことです(上の写真参照)。
マーストリヒトにはここに紹介しきれなかったような魅力がまだあります。例えばマーストリヒトの世俗建築で最古の一つと言われるFotomuseum aan het Vrijthofや起源は13世紀に遡れ、石灰岩の採掘に使われており、二次大戦の間にはシェルターになった洞窟など。私が知らないこともまだまだ多いのでぜひみなさんご自身の目で確かめて、探究してみてください。
オランダのマーストリヒト(Maastricht)でおすすめの場所(前篇)