ジンの由来がオランダだって知ってました?
17世紀の中ごろ、オランダのライデン大学のシルビウス教授が熱病の治療薬をつくる目的で、利尿剤として知られたネズの実をアルコールで浸漬(しんし)し、精油をとり、これを蒸留した。この酒は薬効があるのでgenièvreまたはgenièvreと名づけられ、ライデン市内の薬局で売り出された。その後特有の芳香が人々の間に知られ、薬より酒としてオランダ全土に広がり、名前もGeneva, Geneverとなった。さらにイギリスではginとなった。その後イギリスで発達したのは、17世紀末にオランダから迎えられてイギリスの王となったウィリアム3世が、ジンをイギリス国内に普及させるため、フランスから輸入されているワイン、ブランデーに重い関税を課す政策をとり、急速にイギリス国内に広めたことによる。以後、連続蒸留機の導入により、ロンドンを中心に、くせのないすっきりした現在のロンドンジンの基がつくられた。現在ではアメリカでも大量につくられ、日本、そのほかの国でも生産されている。
「ジン」『日本大百科全書』、小学館
しかし日本語版のウィキペディアによると、11世紀にイタリアでジンの特徴であるジュニパーベリー(ヨウシュネズ)を使った蒸留者が作られていたとの記述があるとのこと。英語版ではもっとも早いジュニパーベリーを使ったお酒についての文献は13世紀の百科事典にあり、もっとも早い印刷されたレシピは16世紀にあるといいます。上の『日本大百科全書』ではオランダのシルビウスなる教授にジンの発明者としての功績が帰せられていますが、それは現在では疑わしいとされています。ジンの前身であるオランダのイェネーヴァ(jenever; genever)の名前はシルビウス以前の文献にすでに表れているからです(Veronique Van Acker – Beittel, Genever: 500 Years of History in a Bottle, Flemish Lion LLC, 2013)。
冒頭の文に「由来」と曖昧な言葉を使ったのはこういう経緯があるからです。しかしジンの起源を名乗ることは難しいとしても、今日あるジン(イギリスで発展したジン)の直接の由来がオランダのjenever(イェネーヴァ)という蒸留酒であることは確実です。それは上の『日本大百科全書』の引用にあるように、ウィレム三世(オラニエ公)が、ウィリアム三世としてイギリスの国王として即位した際に(1689年)、フランスから輸入されたワインやブランデーに思い税金を課し、代わりに英語でジンと呼ばれるようになったイェネーヴァがイギリスで急速に普及するようになったからです。
今日でもjeneverはオランダの酒屋で簡単に手に入れることが出来ます。日本の焼酎のように銘柄が豊富とはいえませんが、それでもいくつか伝統ある蒸留所があります。そのひとつがデン・ハーグのファン・クレーフ(Van Kleef)です。ファン・クレーフは現在ではハーグで唯一のjeneverのブランドです。
私が住んでいる町はハーグから電車で十分の距離にあるライデン市というところですが、そこの酒屋ではこのブランドのお酒は特に見かけたことがありませんでした。いつもよくいく酒屋はオランダで全国チェーン展開しているGall & Gallというお店です。これまでハーグの酒屋に寄ったことがなかったのですが、最近ハーグでGall & Gallに入ってみたところ、このファン・クレーフのお酒が存在感たっぷりに棚に並んでいるのに出くわしました。
しかしここまで引っ張っておいて、実はここのjeneverやジンはまだ試していません。その代わり、気になったリキュールを二本買いました。
それぞれOranjebitter(オレンジビターズ)とHaagsch Hopjeといいう名前です。オレンジビターズはいいとしてもHaagsch Hopjeとはなんでしょうか。これはもともとコーヒーやキャラメル味の飴の名前で、コーヒー中毒だったといわれるHop男爵がハーグに引っ越したさい、Van Haaren & Nieuwerkerkという菓子屋の入った建物の上の部屋に住むことになり、いっしょにこのコーヒーキャンデーをつくったと言われています(“Het verhaal achter de Haagsche hopjes”, Indebuurt: Den Haag)。つまり、このリキュールはコーヒーリキュールです。
さて、この二本のお酒を買ったはいいもののどう飲むか。オレンジビターズの方はそのままでもちびちびと食前酒にでもして飲むことが出来そうですが、コーヒーリキュールはやはりカクテルにするのが一番よい使い道でしょう。それぞれどんなカクテルが作れるか。早速作ってみました。
これはマンハッタンです。氷抜きでクープグラスに入れた方がインスタ映えしそうですが、夏なので氷を入れてロックグラスで。飾り(ガーニッシュ)にはチェリーを梅酒の梅みたいに沈めてみました。
バーボンかライウィスキーを使うのが正式ですが、ジョニーウォーカーのレッドライフィニッシュという一本を使ってみました。スコッチですが、ファーストフィルのバーボン樽で熟成し、ライウィスキーの樽で仕上げてあるので、バーボンやライよりの味です。ブレンダーズバッチという特別なシリーズの最初の一本で、ストレートで飲むような味ではなく、カクテル向きです。価格は25ユーロくらいで、日本でも2000円後半くらいの値段で売られているようです。
レシピ:
ウィスキー 2/3
スウィートベルモット 1/3 *上ではあえてというわけでもないんですが、Biancoを使用しています。Rossoとドライの中間くらいの位置づけです。
オレンジビターズ(Oranje Bitter) 2ダッシュ
チェリー
氷
材料をステアし、チェリーを飾る。
単にウィスキーとベルモットを混ぜただけでは、この味にはならない。どんなものでもいいですが、ビターズを少量加えるだけでぐっと本格的な味になります。
こちらはコーヒーリキュールを使ったカクテル、ホワイトルシアンです。
レシピ
ウォッカ 1/2
コーヒーリキュール(Haagsch Hopje) 1/4
生クリーム 1/4
氷
材料をステア
生クリームを使っているのでカロリーが気になりますが、ランニングすれば大丈夫です。体型維持のためにはおいしいものを我慢するより運動しましょう。
上に自分が書いたレシピでもカタカナを多用していますが、カクテル関係の文章には横文字が多いですよね。外国のものを日本に輸入する際にカタカナを使いすぎるのは弊害があるとも思います。というのは「ステア」だなんて書いていますが、英語だとstirという棒状のものを使ってかき混ぜるという意味のよく使われる動詞です。もちろんカクテルでは英語でもシェイクと対立する専門用語ではあるわけですが、日常的な意味から発しているのでイメージしやすい。それが日本語に入ると、イメージしにくいがちがちの専門用語に聞こえるので、カクテルはバーテンという専門職の人が作るもの、という固定観念が作られやすいですが、ようは酒を色々混ぜているだけです。本職を馬鹿にするわけでは決してありませんが、家でありあわせの材料でつくる気軽なカクテルの楽しみ方がもっと普及してもいいのではないでしょうか。
*カクテルのレシピの分量は飾りや少量足す液体以外のメインの液体の分量を分数で比率として表しています。