SNSのデマから学ぶ、未知への恐れを克服する方法

ライフスタイル

「数日前から強い頭痛と共に、耳の下と顎あたりが痛む。今朝になってから口から血が出てきた。それも強い口臭と共に…」
謎の病気は怖い、私は不安なのでHappy Birthdayの曲を歌いながら果物と野菜を食べた…。

これが虫歯と歯周病が原因だと知ったら、「なんだバカバカしい!」「歯を磨け!」と思うはずです。しかし虫歯でなく、原因に馴染みがない少々難しい分野であったらどうなるか?それはご存知の通り、今起こっています。
一日中家に居るので暇つぶしにSNSを見ると以下のようなスクリーンショットと共に、イブプロフェンが危険だ!と大量の投稿がされています。

多くの人が未知の怖いものを知ろうとしない

人間、未知の現象に対して恐怖を抱くようになっています。これは人だけでなく犬や猫など動物も同じです。振動や知らない音やニオイがしただけでも警戒して恐怖を覚えるのです。

そして自分の理解できない恐怖に対して、さも詳しい有識者のような人間に対して安心感を覚えて、言われたことに従ってしまうのです。それがどんなにマヌケなことであっても……。

「ウイルスって怖い!感染すると死んでしまうかも……」
「そうだ、ウイルスって何か調べてみよう!」

とならないのが世の中の殆どの人なのです。もちろん専門家であってもドクターであってもウイルスが怖いのは違いありませんが、全くの無知だと何に対して怖がっているのかさえ分かっていないのです。
どう対処するか別として、何が怖いのか?くらい分かれば、何に対して恐怖を抱いているのか明確になります。多くの人はそこまでいかずに、まるで幽霊のように漠然とウイルスという存在に対して恐れているのです。

Covid 19ワクチンの為、UH施設で働いている同僚の友達から
「とりあえず、ロキソニン、イヴ系の薬はコロナ菌が増殖するから、飲まない方がいい。ハーバード大学医師からのメールです!」

という突っ込みどころ満載のデマが蔓延しているのは、信憑性が”ありそう”なコツを演出しているからです。例えさきほどの内容が

「キリンのため、日本平動物園で働いている同僚から
「とりあえず納豆、味噌はコロナ菌が増殖するから、食べない方がいい。飲み屋で会った禁煙中のオヤジからのメールです!」

であったなら、こんなにも拡散されていません。今回は詳しく触れませんが、ロバート・B・チャルディーニ『影響力の武器:なぜ、人は動かされるのか』には、商品を売り込んだりサービスを広める方法などについて細かい研究が載っています。特に、権威を用いた人を説得する方法や、返報性や一貫性などを用いたコントロール方法が書かれています。

この場合は「未知」と「思い込み」が恐怖心を煽る

1つ目はウイルスに関する知識が無いことによる恐怖です。コロナ菌が増殖するなんてのは高校の生物基礎を50点でも取れた人なら可笑しいということがすぐに分かります。基礎の部分が全くない状況で、そこに踏み込んだ専門的な話が入り交じるので更に恐怖心が生まれるのです。2つ目は、発熱や抗炎症薬に対して正しい知識が無いからです。これに関しては後ほど説明します。

ウイルスとは何ですか?と聞かれてパッと答えれるどころか菌とウイルスの違いも知らない人が多いのです。大人本からリナシメントに転記して、さっとおさらいをしますが例えば「雑菌」「ばい菌」「細菌」「病原菌」「真菌」「ウイルス」を整理すると以下のようになります。

「雑菌」、「ばい菌」は、ほぼ「細菌」と同義。
「細菌」は細胞膜を持つ原核生物で、腸内細菌や病原細菌など。栄養があれば単独で増殖できます。
「病原菌・病原体」は一般的には細菌・ウイルスを含む、人間に対して害がある、病気の原因となるものを指します。
「真菌」は端的に言うと、水虫やタムシなどの白癬やカンジダ症、一方で醤油や味噌などの麹カビ、一部鰹節などのカビ付けも真菌です。
「菌類」は菌糸や子実体を形成するキノコ・カビ、酵母を呼び、真菌も菌類に含まれますがややこしいので、医学的には病原性のあるものを「真菌」と呼びます。
「ウイルス」は一番馴染みがあるのが風邪(急性上気道炎)です。人や宿主に依存しないと増殖できず、菌より遥かに小さい存在です。自己増殖の設計図を持ち、人間などの細胞に刺さって自己増殖に関するDNA・RNAを転写して増えます。

ウイルスとは?

他の細菌、真菌は栄養があれば自己だけで分裂増殖できるのですが、ウイルスだけは栄養があっても宿主がなければ単独で増殖できません。先ほど触れたように人間などの細胞分裂する仕組みに依存します。イメージでいうと工場に侵入して乗っ取り、自分の作りたいものを作ってしまう感じです。

一般的にはウイルスに効果的な薬は少ないです。しばし風邪に抗生物質が意味がないと言われるのは、抗生物質は細菌が増殖するのに必要な代謝経路を阻害するのが主な作用で、ウイルスの増殖には効果がないからです。ウイルスにはワクチンと言って、弱毒性や不活性化されたウイルスを予め注射すると体内の自然免疫を活性化して獲得免疫を誘導します。次にウイルスに暴露したときに素早く免疫が対処できるようになります。

・風邪(ライノウイルス・コロナウイルス等)
・インフルエンザウイルス
・ノロウイルス
・肺炎ウイルス
・ヘルペスウイルス
・エイズウイルスなど

インフルエンザウイルスは意外にも寿命が短く、H1N1型だと2~8時間ほどと言われています。衣服やドア、肌に付着したとしても数日経過すれば、そこから感染することはまず無いです。エンベロープといって脂質二重層のトゲトゲの膜を持っています。脂質で出来ているため、手洗い石鹸や界面活性剤で簡単に不活性化できるようです。
ですので帰宅後に石鹸で十分に手洗いして、最後にアルコールスプレーを使えば高い確率でインフルエンザウイルスが手につくのを予防できます。飛沫感染以外、口や鼻に入らなければ大丈夫なので特に手を気をつける訳です。マスクをするのもその理由です。

「雑菌」「ばい菌」「細菌」「病原菌」「真菌」「ウイルス」の違い、知っていますか?

続きは上記の記事に書いてありますが、少しウイルスについて調べるだけで、どのように対処すれば良いか分かります。

二つ目は思い込みです。私の友人が書いているNext Pharmacist.netの解熱剤は「何度」で飲めばいいですか?に詳しく書いてありますが、熱で痙攣を起こす人など一部を除いて、無理に熱を下げる必要は無いということです。「(体温が)何度で飲めばいいですか?」なんてくだらない質問、もうしないでくださいね。と薬剤師である著者が答えていますが、余程の事情がない限り解熱剤を飲む必要がありません。むしろ体温が下がることで免疫の活動が抑えられることもあります。
発熱自体がサイトカインというタンパク質の生理活性物質によって引き起こされているので、菌が直接的に熱を上げる原因でなく、自分の免疫が体温を上げたり炎症を起こしているのです。
適切な文献が見つからなかったのですが、関東労災病院の市販薬って効くの?というページでは、市販薬について以下のように解説しています。

そもそも「かぜ薬」とはどのような薬のことなのでしょうか?

一般にかぜ薬とは、熱を下げる「解熱薬」、頭痛やのどの痛みを和らげる「鎮痛薬」、鼻水を抑える「抗ヒスタミン薬」、咳止めや痰を出しやすくする薬剤、またこれらを一つの薬にまとめた「総合感冒薬」のことを指します。

これらの薬剤(専門用語で「対症療法薬」と言います)は、どれも一般的に「かぜ」と呼ばれている様々なウイルス感染症によって現れるつらい症状を和らげて、「かぜ」が治るまでの療養期間を、薬の力を借りて少し楽にしのぐための薬です。
決して「かぜ薬」が「かぜ」そのものを治してくれるわけではありませんので、極端に言うと、飲んでも飲まなくても、かぜが治るまでの期間は大差ないと認識されています。

また「対症療法薬」は、“市販薬”と“病院で処方される薬(処方箋医薬品)”とほぼ同じ成分が使用されています。
例えば、冬になると流行するインフルエンザでは、高熱が出て、のどが痛くなって、関節が痛くなることがあります。
それに対して、病院では、熱や痛みを和らげるために、解熱鎮痛剤としてアセトアミノフェンという成分の薬をよく使用します。

実はこのアセトアミノフェンは、市販されている解熱鎮痛剤の多くで、ほとんど同じ量が使用されています。
すなわち、市販薬であっても、病院で処方される薬であっても、どちらを飲んでも効果はほとんど同じなのです。 https://www.kantoh.johas.go.jp/hanasi/tabid/491/Default.aspxより引用

つまり、そもそも風邪の症状で慌てて飲む必要が無いのです。
それを知った上で、本当にイブプロフェンがコロナウイルス症状に危険なのか調べてみます。イブプロフェンは非ステロイド系の消炎鎮痛剤 (NSAID) ですが、以下のような記事が見つかりました。

(一社)日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT・ジャムティ)が配信する海外がん医療情報リファレンスというサイトで、翻訳 木下秀文 / 監修峯野知子(薬学・分子薬化学/高崎健康福祉大学)とあります。情報元は米国食品医薬品局(FDA)で同時に原文へのリンクが貼られています。
https://www.fda.gov/drugs/drug-safety-and-availability/fda-advises-patients-use-non-steroidal-anti-inflammatory-drugs-nsaids-covid-19

このように信憑性の高いと思える情報サイトを参考にすると、確かにイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)がコロナウイルス感染症に対して悪化する可能性があると書かれています。つまり今回のデマが100%嘘で作り話という訳ではなく、これらの情報が不確かな状態でデマへと繋がったと推測できます。
NSAIDsについて詳しく知りたい場合は日本ペインクリニック学会のNSAIDsとアセトアミノフェンというページに薬理作用や作用機序が分かりやすく書かれています。

デマをまとめると「NSAIDsがコロナウイルス感染症の悪化に関与している”可能性”がある」「風邪の症状では総合感冒薬は飲まなくてもいい」という事が分かります。こう考えてみると、もし感染してもパニックにならずに家でじっとしていて欲しいと政府が発表している理由も理解できるはずです。そして元々飲む必要が無い抗炎症薬を、「FDAがゴニョゴニョ言ってるし、念の為にアセトアミノフェンだけにしておくか」と医療関係者が判断してもおかしくはなく、それがデマに更なるリアリティを与えていると言えます。

このようにまとめてみると、「漠然とした恐怖心」が「具体性を持った怖さ」に変わっていくのが分かるはずです。怖い対象を調べたり、それに関する基礎知識を付けることによって、デマや噂話に怯えることなく、克服する一歩を踏み出すことができるのです。

 

※この情報は一般人である筆者が調べつつまとめたもので、正確性や安全性を保証するものではありません。
また内容の誤りなどがある場合はお手数ですがご連絡頂ければ幸いです。

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