神楽坂に”オカマ”なバーが多いのは以前もお話した通りで、ウイスキーを飲んでいると、これ見よがしにバカラのアルクールのショットグラスで出してきます。2~3杯飲んで次の店に行くと再びバカラのアルクールが並び、隣には金に輝くバカラのエンパイア・ロックグラスが…。
驚くほどに芸がないのです!そんな時に限って隣のカウンターで「これはバカラのグラスなんですよ〜」「やっぱり良いグラスだと美味しいですね」なんて会話が聞こえて、お前らコピペか!と思ってしまう訳です。神楽坂はバカラ信仰が強く、分かりやすいシルエットの現行品ばかりで本当に芸がないのです。
しこたまサンルイのグラスを集めて分かったのが、意外にも1990年代まで美しいということです。オールドバカラやオールドサンルイを収集するコレクターの中には、スタンプがない1930年以前のものこそが美しいなどと言っている人も居ますが、古すぎると鉛の含有量が低く吹きもカットも野暮ったいものも多いのです。オールドノリタケも同じように、古いものの方が貴重で、手作業で丁寧に作られているので人気なのは分かりますが、日常的に酒を飲むのに使うのであれば1990年代までのサンルイはとても実用的で美しいのです。
こちらはサンルイのフローレンス、パイナップルカットと呼ばれる果皮の形のようなクロスしたカッティングが施されています。程よい重量感と透明感、そして中は底に向かって厚みを持たせてあります。この構造は現代のグラスには余り見かけないもので、底の方は厚みがあるので大胆な深いカッティングが可能になり、立体的なエンボスで影ができます。
そして底に向かって重量が出てくるので置いたときに安定感があるというわけです。日本のうすはりグラスを始めとした透明度の高いグラスは、極端に薄くしていますが実際に使うと握る時に緊張して、飲み干してテーブルに置くときにも割れないように細心の注意が必要です。
サンルイの素晴らしいところの一つに、美術的な美しさがあるにも関わらず実用品としても優れているというところです。強度もあるので5年間みっちり使っているのに未だに割れません。
こちらは金彩の有るサンルイ・カットグラヴィールです。先ほどのパイナップルカットとは異なり、表面を細かくめくるような彫刻方法=カットグラヴィールで花モチーフを描いています。有機的な曲線が美しく、花によって深さが異なります。
光のあたり方によって浮き上がったり消えたりと、ため息が出るほどに美しいです。先ほどのフローレンスが男性的なカットだとすれば、こちらは女性的なカットと言えそうです。金彩もサンルイThistle (ティスル)のようなゴテゴテの古典的装飾でなく、ほんの上下に一本ずつ引いてあるところも上品でエレガントです。
いずれも古すぎないので比較的入手しやすく、6客セットで出ていることもあります。キャビネットに飾らずにお酒や水、歯磨きのウガイから、ボールペン立てまで適当にゆるく使うのがお勧めです。
何よりも重要なのが、いちいち人に「これサンルイだよ」と言わないことです。聞かれたら答えればいいですが、聞かれもしないのに「バカラだよ」「サンルイだよ。エルメスにも売ってるすごいやつ」なんて説明するのは野暮です。
ましてはインスタグラムに #お家バー #サンルイ #バカラ #saintlouiscrystal #グラス なんてタグを付けてアップするのは格好悪いので控えることです。
そして、間違って入った神楽坂のバーテンダーがバカラの魅力を語りだしたとしても、あなたがたは心を無にして黙って水割りを飲んでいろということです。(はっしー)
※本宅にあるサンルイコレクションの数々(右のはヴァルサンランベールです)