インターネットの料理研究家が味の素を多用していて炎上しているのを見て、私も歳を取ったなと実感しました。少なくとも20年前は料理人が味の素を使うのなんて恥ずかしい事で、忙しい人がこっそりと味の素を使っていたものです。当時の料理本の中に味の素や顆粒ダシを使えと書いてあるものは殆ど存在しないのです。私の好きな辻嘉一の料理本である『料理のお手本』(1958)には出汁の取り方の基本はもちろん、レール物を避けろとまで記述されています。
私の家や祖母の家では当たり前のように鰹節を削っていましたし、私自身も保守派でL-グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム等を添加したうま味調味料は絶対に使いません。それどころか異性化糖(液糖)も避けるようにしています。ポン酢もケチャップも市販品を買いません。マーガリンに至っては外食で口に入れてから吐き出してしまうことさえあります。それらを避けた食生活を送っていると、次第に口に入れたときに異物として脳が判断できるようになります。
このように私は厳格な保守派ですが「化学調味料は体に悪い」「味の素は危険」と主張する人たちとは論点が異なります。
L-グルタミン酸ナトリウム、いわゆる化学調味料全般が体に害があるとは思っていません。味の素のような売上が1兆円を超すような巨大企業は食品添加物に対して細心の注意と安全性の確証があると考えて自然です。そもそもの定義の化学調味料という言葉もあやふやで、原材料が何か、またどのように有機合成したかで判断しては本質を見失います。
それよりも味覚の劣化を指摘するべきです。味覚というのは数値に置き換えれない感覚器の一種ですが、嗅覚と同じように過剰な物質に暴露すると閾値が上昇する現象が起こります。十分に熟れたリンゴを食べるとき、直前にコカコーラを飲んだらどうなるでしょうか?本来であればリンゴ由来の香りとともに口の中に甘みが広がるはずが、コカコーラを飲んだ直後では紙を食っているように感じることでしょう。同じことが様々な分野でいえるのです。液糖ならまだしも、アスパルテームのような合成甘味料はもっと酷いことが起こります。脳が砂糖の200倍の甘みに感じるのです。常飲していたならば、甜菜糖など未精製の優しい甘みを感じにくくなったとしても、なんら不思議ではありません。受容体の閾値が上がると指摘したいのです。
味の素や顆粒だしを常用していると、本枯節の雄節(おぶし)、雌節(めぶし)の違いどころか枯宗田節との違いも分からないかもしれません。家庭で時間があるときは鰹節で出汁を取り、忙しい時に補助的に味の素を使っている人であれば心配は少ないのですが、依存しすぎると先ほど話に出した料理研究家のように、何にでも味の素を入れないと満足できない味盲(みもう)になるのです。
私は宇治茶は絶対に飲みませんが、これは窒素肥料を過度に使っているために茶葉の抽出後にも強いアミノ酸が出て気持ち悪くなるためです。静岡市民の年配者には未だに窒素添加の緑茶は飲めない人も多く存在します。逆に窒素添加の緑茶に慣れた”西の人”は、過度な肥料を与えていない従来の製法で作った静岡茶を飲んで、「あっさりしすぎて味がしない」「コクがない」と判断することもあるようです。窒素肥料を起因とした茶葉のアミノ酸は健康被害は無いですが、強い刺激に慣れすぎた舌がどうなるかは想像に難くないでしょう。
本題から話が逸れましたが、忙しい現代人の救世主といえるのが、この「鰹節の使い切りパック」です。
紀伊国屋で買ったものですが、「一本釣り 枕崎産鰹節 かつお節を本枯れ節 血合抜き三番カビに限定。独自の遠赤焼軟加工による旨みと香りの削りぶしです。」と紹介されています。袋を開けてサッと使えるパックは、私にとってこれこそが”うま味調味料”です。
10年ほど前、私自身が料理がマイブームだったことがあり、枯本節二年物を料理の直前にカンナで削って出汁を取っていましたが、家庭で薄く削るのは難しく、時間もかかり節の管理も大変です。そこで最近まで大袋の鰹節を使っていたのですが、これもまた管理が大変で、空気を抜いて冷蔵庫に保管しているのに2週間程度で風味が落ちてきて1ヶ月も立てば酸化で使い物になりません。
乾物という横つながりがあるお茶ですが、烏龍茶も同じように酸化や劣化が激しく管理が大変です。脱酸素剤であるエージレスと乾燥剤のシリカゲルを何個か缶に入れたところ、劣化の進行が遅くなり開封時の風味に近いまま維持ができています。
同じように大袋の鰹節を買うのであれば、エージレスやシリカゲルで酸化対策をしたり、真空パック機で空気を抜けば新鮮な風味を維持できますが、忙しく料理をしている時に真空をするのは現実的ではありません。
辻嘉一の言う”本物”からは離れてしまいますが、鮮度の維持と風味を考えた結果、鰹節は小分けパックが良いのではないでしょうか。毎日和食を中心にしている家庭であれば、大袋を買っても良いのですが、使い切るのに1ヶ月以上掛かる家庭であれば小分けパックをおすすめします。
ちなみに余談ではありますが、先ほど紹介した茶葉は台湾で買った凍頂烏龍茶です。
台湾南投県鹿谷郷で生産された凍頂烏龍茶で、2018年春のコンクールでは貳等奨を受賞しています。特等賞、頭等賞と比べるとランクは落ちるのですが十分に美味しい茶葉といえます。一煎目では香りは薄いのですが、二煎目以降は清凉な葉の香りと共に焙煎したナッツやブーケのような複雑な香りが飛び出てきて感動的です。現地では一斤(200gが3缶入った箱)、1万円程度で入手できます。茶壺(急須)のサイズにもよりますが、5~6gあれば十煎以上も楽しめるのでコスパ抜群です。
現在は海外旅行は控えた方が良いタイミングですが、いずれもし台湾旅行する機会があれば現地で本物の烏龍茶を探すのも楽しいですよ。