食料自給率が4割を切る日本は、主要先進国の中でも最下位レベルゆえ、食料安保上の懸念が大きいというのは、農水省が長年、国民に刷り込んできたプロパガンダでした。
農業保護政策により、省益を守りたい農水省が「カロリーベース」などという、どこの国も使わない尺度で国民をミスリードしてきたのです。今では、批判を受けた農水省のHPもカロリーベースだけでなく、世界標準の生産額ベースのデータも示さざるをえなくなっています。
引用元:「知らないとソンする!価格と儲けのカラクリ」(21世紀ビジョンの会著)
いかにも表紙が怪しくて、トンデモ本のような雰囲気が漂う本書ですが、実際に読んでみると面白い章もあり勉強になります。
表紙を開いて1ページ目には「ポストハーベスト農薬散布の激安外国産野菜はどこで消費されるのか?」という見出しで、農林水産省を痛烈に批判するところから本が始まります。最近このような主張の強い本はあまり見かけないので、久しぶりに読んで懐かしささえ感じてしまいました。
食料輸入を他国に依存する危険性
これは高卒の私でも中学の授業で勉強した問題ですが、国民が生活するために必要な食料を他国に依存してしまうと、有事の際に混乱が起きてしまうだけでなく、輸出国依存になり為替や経済政策などで関税を掛けられて単価が上がると国民の生活に直撃するということです。
本書では、財務省の貿易統計から具体的な数値を引用していて、生野菜の輸入は33%、加工野菜は66%を占めていると説明しています。
実際に農林水産省の公開する「令和2年農林水産物輸出入概況」PDFを開いて見たのですが、いかに多くの冷凍食品が中国から輸入されているか分かりますでしょうか。スーパーで買い物をするときには、あまり意識しなかったのですがこのように統計資料を見ることによって、どの国からどれくらいの量を輸入しているかというのがわかります。
特に冷凍野菜に関しては47.6%と言う50%近い輸入量を中国だけで賄っており、その他の冷凍鶏肉や、加工肉などを入れると相当な量を中国に依存してることがわかります。最近のニュースで、ウクライナとロシアの情勢が悪化していると連日報道されていますが、そんなロシアからも食料を依存している部分もあります。仮に日中の関係が悪化した場合、中国が輸出量を制限したり、高い関税を掛けるということも絶対にない話ではありません。
ポストハーベスト(収穫後)農薬散布が問題も
特に本書で危惧しているポストハーベスト(収穫後)農薬散布が問題視されていて、収穫後の輸送で腐ったり痛むことのないように必要以上の農薬が使用されている可能性があると懸念しています。
確かに考えてみれば、採れたての野菜が中国から日本のスーパーに並ぶまで少なくとも1週間以上はかかるはずです。その間野菜が痛んだり、腐ってしまったりしないのは収穫後に十分な殺菌や農薬を散布しているからと考えるのが自然です。
「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定」で海外依存が加速
警鐘を鳴らしているこの本書が発刊されたのは2014年12月という、まだTPP締結前で反対運動が活発であった時です。農協を始めとする多数の反対はを押し切って締結されたTPPですが、今年の2022年1月1日からは更に各国の関税軽減や段階的撤廃を行う地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が発効しました。
出典:https://www.maff.go.jp/j/kokusai/renkei/fta_kanren/f_rcep/attach/pdf/index-21.pdf
こちらの資料は「畜産物、園芸作物等の品目別の交渉結果概要(担当:生産局)(PDF:393KB)」より引用したものですが、畜産から水産、生野菜から加工野菜まで幅広くの関税撤廃・削減されます。
今まで10%近い高い関税がかけられていた品目に関しても、即時撤廃や段階撤廃することにより、今以上にさらに多くの食品が中国や各国から輸入されてくることになります。日本の経済情勢はすでに悪化しており、物の値段は上がるのに給料は上がらない、サービスや労働の賃金は下がっていくスタグフレーションに陥っています。そんな中、国産の割高に感じる野菜よりも、輸入の安い野菜を利用する消費者や飲食店、加工食品が増えていくのではないでしょうか。
これはほんの一例ですが、スーパーマーケットに並んでいるニンニク。中国産であれば5個で200円で買えますが、青森産だと小ぶりなMサイズでも1個300円します。最近ではスペイン産など他の選択肢もありますが、このような価格の差があると、消費者はおのずと安いほうに手が伸びてしまいます。
日本の農業は緩やかな死?
先ほどの地域的な包括的経済連携(RCEP)協定も全てが悪いわけではなく、日本の特産物であるフルーツなどは、関税が撤廃されることにより、輸出量を増やしたり売り上げを伸ばすことが可能になるかもしれません。
日本の在来品種である野菜やフルーツの苗を、中国人や韓国人が持ち帰り栽培し、第3国に販売してるというのが問題になっています。ブランド牛の精子なども不法に持ち出して、日本のパテントを侵害しています。
このような外交上の問題が改善されていない状態で、関税撤廃されると日本の在来品種の逆輸入が起こる可能性もあります。
逆輸入される可能性とは
例えば、中国産のシャインマスカットが日本に格安で輸入されるかもしれません。シャインマスカットは、農林水産省が所管する「食品産業技術総合研究機構・農研機構」で育種・登録された広島生まれの品種ですが、これが中国で安く作られてしまえば国内の農家のダメージは非常に大きいです。日本での流通を規制しても、EUや米国市場など第三国に輸出されれば、日本の売り上げが下がることになります。
もし、このような事態が起こらないとしても、中国や韓国の格安の野菜がそのままの値段で大量に輸入され続ければ、国内で生産された野菜は値段が高いと忌避されて、穏やかな死に向かいます。
既に農協による農家の野菜の買取価格は下落を続け、中では脱会して個人でメルカリや楽天市場などで売る生産者も出たほどです。このままスタグフレーションが続くと、農業生産に必要な種や土・肥料、農機具などの値段が上昇し、それが野菜の価格に反映されて更に日本の野菜離れが加速する未来が待ち受けています。
農業の問題と言うのはあまりテレビやメディアでは話題にならないものですが、一人一人が今以上に考えていく必要がありそうです。