コンテンツへスキップ

六本木ヒルズに対しての勘違い?『ヒルズ 挑戦する都市』

初めて六本木ヒルズを訪れたのは2012年、麻布十番の公共駐車場が1日1800円という安さで、仕事の関係で何度も訪れるようになりました。その頃に周辺を散歩して六本木ヒルズの壮大な街づくりに驚いたことを覚えています。建物の形がバラバラなのに一貫性があって、散歩すると心地よく高揚感を覚えました。「コレが東京かぁ〜」とテンプレートな田舎人として洗練された街に憧れてしまいました。
駐車場や歩道、街灯まで海外のような雰囲気で、オシャレな輸入書籍やデザイン書が揃ったツタヤや、併設のスターバックスは朝4時まで営業していて、心の底から羨ましい生活に思えました。

当時わたしは二十歳やそこらで知識が無かったので、ホリエモンなんかの成功者は一番大きな森タワーの上層階に住んでると思い込んでいました。後になって、メインの丸形のビルは商用ビルでオフィスと店舗しか入っておらず、写真にあるような横のA~D棟が居住区だと知って少し恥ずかしくなりました。

東京に引っ越してからは様々な街に行ったのですが、地価が日本一の銀座よりも街並みが統一されていてキレイだなぁというのが率直な感想でした。田舎出身だからか銀座四丁目の交差点に立ったときに、古典的な建築様式の和光本館とアールデコ風な銀座三越、前衛的なリコーの丸いビルに、近代的なソニービル。どれもチグハグで変な街だなと思いました。和光のような古典的な建築で並んでいたらカッコいいのにな〜と今でも思っています。

森稔著・『ヒルズ 挑戦する都市』(朝日新書、2009年)を読んで、多くの人が六本木ヒルズに勘違いをしているのではと疑問が起こりました。都内に住んでいる人や、博識な大人本の読者の方々はご存知だと思いますが、六本木ヒルズの再開発事業は1982年にテレビ朝日の本社建て替えを伴い、近隣の建物の老朽化や極狭道路の防災上も兼ねて広い敷地を再開発することになりました。六本木ヒルズの竣工が2003年なので実に20年以上も再開発を続けたことになります。

ある東京の友人に「六本木ヒルズってどう思う?」と聞いたところ、「あぁ〜なんか大きな会社が建てたんでしょ?」と答えが帰ってきました。地方の人であれば漠然とテレビやYoutubeで見ただけで、似たようなイメージを持っているのではないでしょうか。

森ビルが単独で街づくりをした訳ではない?

本書を読んで初めて知ったのですが、六本木ヒルズは設計者であり事業主体の森ビルが単独で建てたものではなく、テレビ朝日や近隣地区の地権者400人以上、借家人300人以上もの人の協力で実現したそうです。昭和終わりの六本木6丁目周辺は、まるでブルゴーニュの畑のように細分化していて、底地権・借地権が複雑に入り混じっていたそうです。それを権利変換(等価交換)や土地の買い取りをすることで少しずつ集めていきました。
タイミング悪くバブルで地価が高騰したので、売り手が地価高騰を見越して高い金額を提示したそうです。国土計画利用法で土地取引価格が制限されていたのでバブル期は買収が難航したそうです。
本書では地域住民を説得するために幾度とない困難に直面したことや、反対グループへの説得と協力のお願いを回ったこと、最終的にほとんど全ての住民が納得して再開発を行ったと紹介されています。実際には本書は当時森ビルの社長であった森稔氏(2012年逝去)によって執筆されているので、住民の本心が全て反映されているとは限りませんが、少なくとも莫大な資金で安直に解決して建てたプロジェクトではないということは分かります。

「一般人には関係がない、高級な街並みを作っただけ」と批判を受けることもあったそうですが、森稔氏はそれを間違いだと書いています。
六本木ヒルズは竣工から20年経った今でさえ富の象徴やセレブの象徴になっていますが、街の再開発のモデルケースとして実現したかったそうで、これが成功したらモデルケースとして色々な街で色々なデベロッパーが真似をすればいい言っています。つまり新宿なら新宿にあった街の再開発、池袋なら池袋にあった方法、日本全国どの街でも真似をできる部分があります。
特に「垂直の庭園都市」と称したコンパクトな街づくりは、職、住、遊、学、交、食、泊、医、憩を集約して統合した街づくりで、土地に限りのある日本ではそれを地下や地上高く立体的にすることで有効的に使うという概念です。

これは本当に共感ができることです。単なる一般人の私が都市設計について語るのはおこがましいですが、現在の街作りは建物ひとつひとつの所有者に依存しきってしまい、持続可能な社会とは無縁の再開発になっています。建物を取り壊して空き地ができれば、小さな投資用マンションを建てたり、極小の商用ビルを建ててしまいます。デザインも何も一貫性はなく、雑居ビルが乱雑にバラバラのタイミングで作られることで混沌とした街になっています。

大きな敷地で街を開発することによって、公共施設や病院・学校などを導入しやすくなり、街の緑化をすることも可能になります。本書には緑化の度合いを示す「緑被率」が元麻布ヒルズでは44%以上を占めていると書かれてします。空撮すると年々増えていくということが分かっているそうで、大きな都市開発により、大型の地下駐車場や地下商用施設、地下コンサートホール、地上は庭園をつくってゆとりのある街を実現できます。

冒頭にヒルズの最上階はセレブが住んでいると勘違いした、と書きましたが実際に森稔氏は「なぜ最も高価で貸し出せる最上階を、美術館と図書館にしてしまうんだ?」と何度も聞かれたそうです。
それにたいして、全体的な街づくりをするために、象徴であるビルの最上階を公共な美術館にして発信するといった答えをしました。再開発にあたって、もっと緑を減らしてビル面積を増やせば儲かりますし、最上階も企業に貸し出せば利益も上がります。それをしなかったのは氏がお金よりも魅力的な街づくりをしたかったということの裏返しなんだと思います。

上記のイラストは一見では小学生の妄想のようですが、様々な地域でバラバラになっていた土地をまとめ上げて”ヒルズ”という街を作り上げた張本人が描いたとなると説得力があります。
最近ではSDGs(持続可能な開発目標)という言葉がひとり歩きしていて、コンビニのレジ袋が有料化されたり、大量生産、大量廃棄しているファッションブランドが回収ペットボトルで鞄を作ったり、まとえを得ていないSDGs宣伝が目立ちます。
森ビルによる”ヒルズ再開発”はSDGsの「11: 包摂的で安全かつ強靱で持続可能な都市及び人間居住を実現する」を見越した一つの答えだとすると、森稔氏の先見性は称賛に値するものだと思います。

森稔著・『ヒルズ 挑戦する都市』(朝日新書、2009年)