ワインショップに行ったら、ほんの半年前までフランス・ブルゴーニュのドメーヌ(蔵元)地下セラーで眠いっていたというワインを発見しました。ワインというのは気温や湿度の変化に弱く、平成初期のバブルに日本に来たワインの9割以上は傷んでいます。
なぜなら当時は家庭用ワインセラーというのが一般的でなく、キャビネットに立てて飾ったり、テレビボードの横にインテリアとして飾ったり、とにかく温度や湿度、紫外線の影響を受けて傷んでいるものがおおいのです。
ではワインセラーに保管されていれば完璧か?と聞かれると必ずしもそうではなく、セラー内でもムラがったり、夏場の高温でペルチェ素子式ではパワーが足りなかったり、湿度が低く乾燥していたりと美味しい状態を維持するのは本当に難しいことです。
最も良い古酒は生まれたときから一度も旅行していない
人の場合は「可愛い子には旅をさせよ」といいますが、ワインは「旅させるな」です。
ステンレスタンクや樽で眠って、瓶に詰められたら残りの余生の大半をドメーヌの地下セラーで一度も動かさずに眠っているのが理想です。
一部マーラ・ベッセのような買付業者が数十〜数百ケース単位で買い付けて、自社のセラーで眠らせる場合もありますが、一般的には生産者から出ないワインが美味しいのです。
その点では、今回入手したサンセールは30年以上も生産者が保管しているというお墨付きの最高コンディションでした。
白ワインのピーク……それは何年?
これは非常に難しい問題です。
ソーテルヌの一級ワインであるシャトー・ディケムなんかは甘口ワインで長期熟成に向いています。
20~30年は寝かせないと美味しくならないと言われるだけでなく、100年以上前のディケムも甘美な味わいを持つというエネルギーのあるワインです。セパージュはセミヨンとソーヴィニヨン・ブランです。
このサンセールは、どちらかというとカジュアルなワインで、シャブリのように5~10年でピークを迎えるワインです。
中でもソーヴィニヨン・ブラン100%というのは暑い夏にしゃきっと飲むような用途が一般的で、白身魚やサラダやマリネに向いているようなワインです。
一般的なワインショップに行くと2~3年前のビンテージが3~4千円で売られています。
このサンセールは、ドメーヌ・ジトン・ペール・エ・フィスという元詰で、平均樹齢65年のヴィエイユ・ヴィーニュのソーヴィニヨン・ブラン種100%を用いています。
何が凄いというと、ただでさえ33年前にもかかわらずVV(ヴィエーニュヴィーニュ)=古樹が使われて平均寿命65年なのです。
そうなると平均寿命だけでも97年前。つまり大正10年ころの約100年前に植えられたワインを飲んでいることになります。
途方も無いスケールを感じますね。
1988年のサンセールの味わいは?
「うお!酸っぱいなぁ〜」
「酸化したにおいがやばい」
という最初飲んだときは、スペインのシェリーのフィノやアモンティリャードを思い起こさせました。
白ワインが完全に発酵していて、中国の発行醤油や瓶熟成の黒酢や味噌のような匂いを感じました。
りんりんワインメモから一部感想を引用してみます。
ラ・ヴィーニュ・デュ・ラレ・ブラン サンセール1988 例のごとくブラインドだが、まずこれがシェリーなのか通常の白ワインなのかわからないほどのアモンティリャード香が漂う
鯉の餌、堆肥、エリンギ、こんにゃく入り腐りかけ煮物、濃い醤油、茹で白大豆をつぶしたもの。
夏のドブ、稲刈り、藁納豆、アモンティリャードやんけ、腐った傷口に貼った絆創膏。これがパロミノ系の何かなのか皆目検討がつかないし、もちろんソーヴィニヨンブランであるともわからない。 ややオークの香りが強く出ているのはわかるが、100年前の木から生まれた味わいと香りがコレか……。
上に挙げたレビューノートを見返していると想像を絶する不味さであるとうかがえるかもしれないが、実はそうではなくちゃんと美味しいし、モノがいいことはわかる。 ただ、なんとなく17-18世紀のスペイン南部みたいな情景があって、今のフランスのそれではない。
アルハンブラ宮殿に座する東方風黒髪の王女、カラッとした日照りと赤主体のドレス、ジブラルタル海峡の向かいに見えるモロッコ……みたいな感じが牧歌的で田舎臭く、古いヨーロッパであることを示唆しているのかな。 #りんりんワインメモ
という感想で、同時に飲んだ私も似たような感想でした。
4日後に突如としておいしくなる
コクもあって凄いのですが、初日は酸味が独特で1グラスずつしか飲めませんでした。
「コレは失敗したかな?」と思って数日放置して、「あのときのサンセールやっつけちゃおう!」と料理に合わせてみると
「なんじゃこりゃー!」と美味くなってるではないですか。
確かに酸っぱさや香りは変化ないのですが、瓶底に向かってミネラル感が強くなって本来のエネルギーを感じることができます。
最後のワングラスには未知の領域のブルゴーニュ白ワインが入っていて、波が出るほどに滋味深い味を体験することができました。
もしブルゴーニュ古酒ワイン会があるとすれば、「僕は初心者なので一番最後をいただきたいです」と率先して最後の一杯を奪いたいですね〜
そんなわけで、33年前のブルゴーニュワイン。私が生まれる前年の白ワインがこんな姿なのかぁ、とうっとりしてしまったのでした。
もし私に子供ができたら本人が飲む飲まないにしても生まれ年の優れた白ワインと赤ワインを数多く残してあげたいなぁという小学生並みの感想でした……!