値段が高いものは美味しいのか

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筆者は静岡で28年間暮らし、6ヶ月前に東京の港区に引っ越しました。都心で生活するようになってから、高価な食材を購入する機会が増えましたが、「値段の高いものは本当に美味しいのか?」という疑問を抱くようになりました。ここでは、そのことについて考えてみます。

値段が高いものは美味しい

静岡に住んでいた頃、私は「東京の高級食材は、ただ物価や賃料が上乗せされているだけで、必ずしも美味しいとは限らない」と思っていました。しかし、引っ越してから三越や紀伊国屋インターナショナルなどの高級スーパーに日常的に通うようになると、東京と静岡で売られている食材が全く異なることに気づきました。

例えば、牛肉の場合、神戸牛や松坂牛、近江牛といった産地ごとに等級が分けられ、その場でカットされることもあります。赤身肉でも「イチボ」など、旨味がしっかりと感じられる部位が揃っています。静岡ではオーストラリア産の輸入牛肉が多く、国産品は一部に限られますが、東京の高級スーパーでは数十種類の中から選ぶことができます。

鮮魚も同様で、寿司屋でしか見かけないような高級魚が、切り身や柵として売られています。アワビや天然の真鯛なども頻繁に並び、それらはすべて解凍されていない生の状態です。野菜に関しても、最高品質のものが揃っています。

思い返してみると、静岡の修善寺はしいたけの産地ですが、現地ではお土産用の乾燥しいたけしか売られていません。また、わさびの発祥地とされる静岡の有東木でも、ワサビ自体があまり販売されていません。多くの農家は、品質の良いものを市場や農協に出荷し、高価格で取引される都内の高級スーパーに流れてしまうのです。

鮮度が重要なものは現地の方が美味しい

ただし、例外もあります。鮮度が命の食材に関しては、地元で手に入る安価なものの方が、時に遥かに美味しいことがあります。静岡では生シラスや生桜えびがその好例です。他県では、九州で食べた釣りたての生イカや、漁師が水揚げしたばかりのアワビ、船上でさばかれる魚は別格の美味しさでした。

牛肉に関しては定かではありませんが、鹿やイノシシ、キジバトなどのジビエは、田舎で猟友会に知り合いがいれば譲ってもらえることがあり、これもまた非常に美味です。

野菜についても、収穫したてのものは特に美味しいです。例えば、高級スーパーで買っていたハーブ(スイートバジル、タイム、ローズマリー)や大葉、ネギなどを家庭菜園に切り替えてみると、その香りの違いに驚きました。家庭レベルでもこれほどの違いがあるので、産地直売やファーマーズマーケットで手に入る朝採れ野菜がデパ地下の高級野菜よりも美味しいことはよくあります。

高級スーパーでは見栄えを重視して「土付き」「根付き」などを避け、まるで模型のようにピカピカにして売ることが多いですが、野菜の知識がある人なら、土付きの野菜にはむしろ喜んで飛びつくでしょう。

むしろ現地の土ごとセットで販売してほしいくらいです。そうすれば、少し水をやるだけで、まるで採れたてのような美味しさを味わうことができるのです。

総合スーパーが諸悪の根源

「安い物=不味い物」という方程式が成り立ってしまう背景には、総合スーパーの影響があると言えます。先日、某全国チェーンの総合スーパーを久しぶりに訪れましたが、新鮮で美味しいものがほとんどなく、代わりに冷凍食品や輸入品が安く並んでいるだけでした。食欲をそそる商品は皆無でした。

例えば、朝食で食べる納豆や豆腐にしても、従来の製法で作られたものは見当たりません。鮭などの焼き魚も、天日干しされたものではなく、すべて輸入品です。梅干しもハチミツ漬けばかりで、イカの塩辛も人工的な製品ばかり。このような状況なら、町の魚屋でスルメイカを買って自分で塩辛を作った方がよほど美味しいでしょう。一夜干しやチーズ、ベーコンも、伝統的な製法を無視したものが並んでいます。

このように、総合スーパーが食の質を落としていることは明白です。20〜30年前までは、商店で当たり前に売られていた質の良い商品が、今では手に入らなくなっています。静岡では昔ながらの豆腐屋が今も健在で、伝統的な製法を守っています。便利だからと総合スーパーに頼りすぎると、結果として「安い物=まずい物」という状態になりかねません。

結局のところ、重要なのは店選びと商品選定です。旬の食材を正しい場所で買えば、安くても美味しいものを手に入れることができます。

旬の茄子が、生産者ごとに大量に並んでいる

まとめると、食の選び方は私たちの健康や生活の質に大きな影響を与えます。高価な食材が必ずしも美味しいわけではない一方で、安価な食材もまた質が低いとは限りません。重要なのは、鮮度や製法に注目し、信頼できる店や市場で正しい食材を選ぶことです。とくに、地元の新鮮な食材や伝統的な製法で作られたものは、価格に関係なく、しばしば驚くほど美味しいことがあります。

便利さに流されず、食材選びにこだわることで、食の喜びをより深く味わうことができるでしょう。

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