20世紀。仕立て服しか存在しなかった数百年という長い時代が終わり、世界には既製服が生まれました。
そのとき、既製服は仕立て服とは全く別の世界にあり、簡略化された服ともいうべきものでした。しかし時代が下るにつれて、既製服はどんどんそのレベルを上げていきます。
今となっては、最高級の素材を使い、手縫いを駆使して作り上げたラグジュアリーな既製服が当たり前のようになっています。
とはいえ仕立て服=ビスポークと既製服の間には、やはり明確な差があると言われている。それはその人に合わせるから、という理由だけでなく、その工程や手間のかけ方、考え方など様々な部分が異なるからです。
しかしここにキートンの服があります。美しい2着のスーツと、1着のジャケット。そしてその袖を通したとき、ふとこんな考えが頭に浮かんだのです。
キートンは、仕立て服を超えたのではないか。
歴史的な瞬間、Kiton キートンの始まり
世界には数多くのブランドが存在しており、それぞれが個性とそのブランドならではの魅力を持っています。
しかしその中でも完璧な仕立てと素晴らしい生地で、最高のクオリティを維持しているビッグメゾンは、意外にも片手で数える程度に限られています。
キートン、これはその中でも間違いなく最初に名の挙がるブランドです。
もともと7代続く服地卸商であった家に生まれたチロ・パオーネは、1969年にキートンを創立しました。
1969年といえばまだ仕立て服が主流であり、今ほど既製服の影響力も強くなかった時代。とはいえ20世紀前半の全盛期に比べれば、仕立て服の勢いは落ちつつあった。
服地卸商の家で育ったチロ・パオーネは、そこを訪れる仕立て服職人たちと触れう中で、そのときはまだ多くの人が気づかずにいたその事実を、誰よりも先に感じ取っていたのですね。
そして彼はナポリの仕立て服文化を継承するために、キートンを設立した。
すでに高齢化し始めていたナポリの仕立て職人達、後継者不足、そして仕立て服の需要の低下。その先でナポリの文化を救うのは既製服だ、と彼は考えたのです。
彼がキートンの設立時に集めたのは、今見れば驚くようなメンバーです。ナポリの伝説のサルトと言われたヴィンツェンツォ・アットリーニの息子、チェザレ・アットリーニ。彼は仕立て服の技術に精通していながら、モデリストとしての才能を持っていました。
エンリコ・イザイア、そしてルチアーノ・バルベラ。いずれも今ではナポリの有名ブランドとなったブランドを設立していますね。