Turnbull & Asser 英国紳士によるその優雅なる反逆

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ダンディズムという言葉が流行ってしばらく経ちましたが、その本来の姿については意外にも知られていない部分が多いといいます。

ダンディという言葉に秘められているのは、日本で考えられているような「渋い」「紳士的」という意味合いではないのです。ダンディはむしろ世俗に媚びない信念を持っていること、あるいはその人の生き様を常に通していること、と表現すべきでしょう……。

英国には数多くの紳士がいますが、ダンディはそう多くない。どうやってダンディを見分けるか? 簡単ですよ、あなた。

彼らはターンブル&アッサーのシャツを着ているのです。

実に奇抜な「紳士」だと思わないかね?

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かつて大英帝国時代には、世界の中心と言われたロンドン・ピカデリーサーカス。

そこから円弧を描いて伸びるリージェント・ストリートは世界一のショッピング通りと言われますが、そのすぐ脇にはかの有名なサヴィルロウ通りが平行しています。これは言わずと知れた仕立て服の聖地です。

それとは別の方向に、ピカデリー・サーカス駅から伸びる通りがあります。これが、もう一つの紳士服の聖地と言われるジャーミン・ストリートです。

ジョンロブやエドワード・グリーン、クロケット・ジョーンズといった英国を代表する靴ブランドから始まり、数多くの紳士用品店が軒を連ねるのです。

その中でも最も有名なのがこのターンブル&アッサーであることは、もう説明不要でしょう。白い外壁が特徴的なターンブル&アッサーの本店です。

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さて何を隠そうイタリア贔屓である私は、店に入るやいなやストライプのシャツを探し始めました。さあ、ここはロンドン紳士風にブルーかバーガンディのロンドンストライプといこう……。

ところがこれが、まったく大外れも甚だしい。そもそも私を丁寧に迎えてくれたターンブル&アッサーの紳士が、7色の線が複雑なチェック柄を描いたシャツを着て、そこにペイズリー柄のワインレッドのネクタイをしていたのだから。

紳士の国と言われる英国。その英国きってのドレスシャツブランドである、ターンブル & アッサー。シャツを一つ一つ見ていくと、なんとも華やかなこと。7色チェック柄に始まり、マルチストライプ、ピンクとグリーンのオルタネートなど、エキセントリックな柄がシャツ売り場の多くを占めているのです。

まあ、実に奇抜な「紳士」だこと!

ターンブル & アッサーの真実

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日本人が英国の紳士について考えるとき、思い浮かべるのはシックなグレースーツに白シャツ、ソリッドのネクタイを締め、黒いプレーントゥの革靴を履いている姿でしょうか。

確かにロンドンにはそんな着こなしのお洒落な紳士がたくさんいます。ジェントルマンはたくさんいるのです。

ターンブル & アッサーは、そのイメージとは随分違います。これは彼らの着る服ではない。

リージェント・ストリートを99人の紳士がピカデリー・サーカスに向かって歩いても、たった1人で反対方向のオックスフォード・サーカスに向かって歩く紳士。

すなわちダンディの着る服なのです。

ターンブル & アッサーではもちろん、白や青のソリッドシャツも手に入ります。しかしこの店を訪れる英国人たちは、むしろ少し変わったチェック柄やストライプ柄を手に入れていく。

そして(私が思うところでは)むしろそのようなシャツにこそ、ターンブル & アッサーらしさが宿っているのです。誰がなんと言おうと、どう思おうと、自分が好きなシャツを好きなように着る。これがターンブル & アッサーに存在する唯一の着こなしルールというわけですね。

そのシャツはいくら奇抜な色柄でも、着る人が堂々たる意志を持って着こなしていれば、なぜか非常にお洒落に見える。

私が先ほど紹介した7色チェック柄に赤いペイズリーネクタイの紳士は、驚くほどお洒落でした。カラーコーディネートのセオリー(おお、なんと多くの人々がこの言葉に惑わされていることか!)基づいているわけでもなければ、全てが完璧なマッチングというわけでもない。

しかし彼は彼の信念に基づいており、それがあまりにも魅力的だったのです。

私は、ある意味で道化的とも言えるボー・ブランメルに人々が魅了されたときの気持ちを、ターンブル & アッサーに入って初めて理解したような気がします。

これからターンブル & アッサーを買う人へ

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もしもまだあなたが1着もターンブル & アッサーを持っていて、これから1着手に入れたいと思っているのであれば。

ついつい手を伸ばしてしまいそうな白や青の無地のことを、一旦忘れてしまうのはいかがでしょう。

これは私の意見ですが、無地のシャツを買うのであれば、アンナ・マトッツォやG.イングレーゼのようなナポリ・南イタリアのシャツの方が面白い。というのも、無地のシャツはともすると退屈で平面的な印象になりがちですが、ここにナポリの手縫いのステッチやギャザーが入ると、非常に表情豊かで優雅な雰囲気になるのです。

ターンブル & アッサーではむしろ、ちょっとエキセントリックな柄を。もちろん好きでもない柄をあえて選ぶ必要は全くありません。ターンブル & アッサーほどのコレクションの豊富さならば、「これは!」と思う色柄のシャツに、一枚くらいは出会うはずです。

そしてそれがどんなに奇抜でも、むしろ少し地味に見えても、それを買うこと。それを好きなように着こなして、自信を持って出かけること。

馬鹿馬鹿しく思えるかもしれませんが、これは大切なことです。

なぜならターンブル & アッサーのシャツを着ることは、世俗に媚びない信念を持つ現代のダンディ達の、ささやかで優雅な反逆なのだから。

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