メンズファッションを一から学びたい?
そんな人のための「ライター田中のメンズファッション講座」では、ちょっと綺麗目なジャケパンスタイルやスーツスタイルなど大人の男を対象としたメンズファッションを解説していきます。
前回は服の品質の話をしましたが、今回第3回では服を選ぶときの最も大事な基準の一つである、服の着心地についてを解説していきます。
着心地の良い服を着ていますか?
多くの人は服の着心地について、あまり考えたことがないでしょう。それは何よりも、カジュアルな服のほとんどが伸縮性の強いポリエステル等を用いており、基本的に身体の動きに合わせて伸びてくれるので、着心地が悪いと感じることは少ないからです。
しかしあるとき、テーラードジャケットを買ってみたら、腕が上がらなくて動きにくく感じた。いつも着ている服がなんとなく肌触りが悪いんじゃないか?と疑問を持った。スーツを着ると肩が凝る。ネクタイをするとき、シャツの襟が痛く感じる。
そんな人は服の着心地の良し悪しを既に体感しています。
実はメンズファッションで、特に着心地に注目すべきジャンルがある。それはスーツとジャケットです。皆さんは毎日着ているスーツ、シャツなどの着心地が良いと感じたことはあるでしょうか。残念ながら多くの人は堅苦しいし、着ていて窮屈だと感じるのではないでしょうか。
しかし質の良いスーツやジャケットを知っている人は、スーツを「窮屈だ」とは言いません。私なんかは変人ですから、昼寝をするときにジャケットを着ていてもそれほど気にならないものです。そう、実はスーツやジャケットは作りと、着る人の相性によって着心地がまったく変わるのです。
着心地の良いスーツはもちろん、ジャケットも、シャツも、極端に言えば巻き心地のネクタイなんていうのも存在します。
今回は改めて、メンズファッションの着心地について注目してみましょう。
スーツの着心地は悪いのか
さて、スーツを着ているときのことを思い出してみてください。あなたのスーツはどのような着心地でしょうか。
着ていると肩が凝る。腕が上がりにくくて、車を運転するときに困る……。残念なことに多くはクレームです。ほとんどの人はスーツの着心地によって「疲れる」「動きが制限される」というふうに感じているでしょう。
しかし本当はスーツはいかなる動きも制約しないし、一日着ていても疲れたりはしません。腕を上げれば真上まで突っかかりもなく上がるし、着心地はまるでカーディガンか何かを着ているかのように軽やかです。
とはいえ実際にこういったスーツを作ろうとすれば、大体15万円以上は掛かってしまいます。だから市場に出回っているスーツは、コストの関係で本来のスーツのあるべき姿とは違う、かなり省略やグレードダウンした形で作られ、売られているというわけです。
するとどうなるか。本来着心地に関わるため手縫いで行われている仕上げがミシンになる。普通立体的で身体のラインに合うシルエットを作り出すために熟練の職人が手で裁断する生地を、機械で一気に裁断する。シルエットはできるだけ多くの人に合わせるため、着る人の動きに付いてくようなスマートさはなく、各所に無駄や突っ張りが出来てしまうことになります。
最近では廉価スーツの見た目はどんどん本格的になってきています。しかしその着心地はやはり、良いとは言えないものばかりです。特に肩周りが重すぎたり、腕の動きが制限されてしまうスーツはやはり多い。
「スーツは堅苦しい」
という考えはそこから来ているのです。
ドレススタイルが好きでお洒落な人は大概スーツが好きです。下手な綿のパンツを履いてジャケパンスタイルにするよりも、さらりと適当なスーツを着る方がよほど気楽だと感じる人も多いです。その基本には着心地の軽く、動きに制限のない柔らかなスーツがあります。それはイタリアの総手縫いで作られるスーツかもしれないし、リングジャケットのような日本の老舗で、世界に通用するハンドメイドの上質な紳士服を作っているブランドのスーツかもしれません。
もしあなたが着心地のせいでスーツを嫌いになってしまったのであれば、どこか素晴らしいスーツを扱うお店に行って試着だけでもしてみるのがオススメです。買うか買わないかは別として、着心地の良いスーツというものが存在するということを知ることができます。
体感すべき良いスーツの基準ですが、15万円以上のものがいいでしょう。しかし15万円以上とはいえ、今雑誌で有名なボリオリやラルディーニ、タリアトーレ、カンタレリといったブランドはいけません。あれは人気で値段が上がっているだけで、本当に良いスーツでは無いからです。
また最近ではイザイアというブランドが日本で人気になっていますが、それを着ても値段と品質の不釣り合いにがっかりとするだけでしょう。
試着して頂きたいのは先ほども触れた日本のRING JACKETリングジャケット、特にマイスターというライン。こちらは手縫いを駆使した、イタリアのブランドであれば30万円以上もするようなクオリティを、その半値ばかりで実現してるコストパフォーマンスに優れたラインです。
それから、Belvest ベルベスト。これはイタリアのブランドですが、ミシンを主に使用した縫製を行うブランドの中では最高峰と言われています。計算されつくされたシルエットと、柔らかな生地や芯地からもたらされる極上の着心地に、目を見張るはずです。
もし機会があれば世界中の洒落者達を惹き付けている最高級ブランドの数々を試してみましょう。特に大阪や東京、名古屋や福岡に展開しているセレクトショップ、ストラスブルゴなどで扱いのあるKiton キートン。これを着てスーツの着心地を見直す人は非常に多いです。
もちろんどれほど高級なブランドでも、あくまで既製服ですので、人によっては合ったり合わなかったりがあります。しかしこれらのいくつかを試した後に、安い大量生産のスーツに袖を通してみると、何か違うものを感じるはずです。
その他、一部の高感度なセレクトショップで扱われているイタリア南部の街、ナポリの熟練した職人が作るハンドメイドスーツは、スーツというものの概念を変えてしまうほど柔らかく軽やかな着心地で、しかもリラックスした雰囲気があります。
個人的にスーツの着心地を見直すきっかけとなったのは、DALCUOREダルクォーレのスーツです。人間の形だけではなく人間の動きをとらえてスーツを作る、ナポリ仕立て。その異色な職人技の生み出す軽さ、自由さには驚きを隠せませんでした。
もしこれらのスーツを試して、素晴らしい着心地というものを体感することができたのであれば、それは大変ラッキーなことです。なぜならば、その後自分の予算の中で最もその素晴らしい着心地に近い着心地を持つスーツを購入すれな、もうスーツを嫌いにならずに済むからです。
シャツの着心地の要とは?
そういうわけでスーツやテーラードジャケットが、本当は良い着心地を持った物であるということを紹介しました。しかし、それに合わせるシャツが良くなければ、実はスーツやジャケットの着心地を最大限引き出すことができません。
シャツに着心地の違いなんてあるの?
あります。しかもシャツは肌に触れるもの、いわば下着なので他の服よりも更に肌触りの良さが求められる。また腕や肩の動かしやすさもシャツによってまったく異なります。
例えば一番多いのは、襟が硬くて着心地の悪いシャツです。安価で売られているシャツのほとんどがそういうものではないでしょうか。まるでボール紙のような襟、さらにクリーニングでのり付けなんかされてしまったシャツは、ネクタイをしてみて窮屈に感じるのは当然です。
本当に着心地の良いシャツは襟が柔らかく、しなやかです。芯地を接着することなく、襟の布の中で泳ぐような状態にしているため、表情も柔らかい。こういったシャツはネクタイを締めて着ていても、それほど負担を感じません。
また、袖口のボタンを締めると腕が上げられないシャツも少なくありません。これには大きく2つの原因があります。
一つは袖が短すぎること。
日本のシャツは往々にして袖が短すぎます。イタリアのシャツは非常に袖が長く「イタリア人は手が長く、それに合わせてあるから日本人には似合わない」なんていうことが言われることもありますが、それは完璧に間違っています。
シャツはある程度袖丈に余裕があり、手首のあたりにふんわりと袖が余って溜まるのが普通なのです。カフのボタンを外した状態では、親指が半分以上隠れる程度がいいでしょう。そうすることによって、手を伸ばしたり上げたりしたときにも突っ張りが無い。
シャツの袖丈が手首にぴったりと合っているのは、良いように感じますが長さが足りず、腕を上げた時に引っかかってしまいます。もしそういう感じがするシャツがあったら、カフのボタンを外して手を上げてみましょう。袖の先がずいぶんと手前にきてしまうのが分かるはずです。
もう一つ、シャツを着て腕を動かしにくくなる理由は、アームホールが大きすぎることです。
アームホールというのはつまり腕を突っ込む袖の付け根の穴の大きさのこと。これが大きすぎると着心地が大変に悪くなります。なぜか?これは説明しにくいのですが、実際にアームホールの大きい着心地の悪いシャツを持っている人は試してみるといいでしょう。
まずはそのまま腕を上げてみます。なんとなく突っ張る感じがしますね。次に、二の腕のあたりに余っている生地を掴んで、脇の下にぴったりとくっつけます。同時に、袖の肩の付け根の線をぐいっと首の方に引っ張ります。こうして腕を上げてみると、それは不思議、さっきまでは上がらなかったのに、腕が上がるようになるのです。
つまりシャツは(1)アームホールが出来るだけ狭く、(2)肩幅が広過ぎず、(3)肩の縫い付けが柔らかいと着心地が良いのです。
その他、シャツの着心地が悪い理由にはサイズが大きすぎることや小さすぎることも考えられます。オーバーサイズは色々なところにダブつきが出てしまうため、ジャケットを着た時に違和感があったり、フィット感がなくごろついたりします。小さすぎるサイズは単純に窮屈です。フィッティングルームで試着して直立しているときは良いですが、実際に動作をしようとするとすぐにキツさを感じます。
また、先ほども書きましたがシャツの着心地を決定的に左右するのが生地です。生地の良し悪しによって肌触りがまったく異なります。
ちなみに『大人になれる本』ではシャツの下にインナーを着ない前提で話をしていますが、日本でのその功罪については別の記事に譲るとしましょう。例え首回りと腕周りしかシャツに触れないとしても、その生地が素晴らしく滑らかなコットンかポリエステル混かでずいぶんと着心地は違うものです。
シャツの生地はコットン、それもできるだけ滑らかな上質なコットンが良い。特に有名なのはシーアイランドコットン、エジプシャンコットン、スーピマコットンといった種類のコットンですね。シーアイランド諸島でとれるコットン、エジプトでとれるコットンといったほどのものです。
エジプトはナイル川のアスワンハイダムによる土砂の不足で河口付近が水没の危機にあったり、タニシが大量発生したりということが起きていますが、そのアスワンハイダムは国の主な産物であるコットンを製造するために必要な施設でもあるんですね。
それはそれとして、これらのコットンは非常に上質で肌触りが良い。着ているものの肌触りがいいと、一日着た後の疲労感がまったく違います
いかがでしょうか。
今回は服の着心地についてを書いてみました。普段着ているTシャツの着心地を気にしたことがある人は多くないかもしれませんが、ジャケット、シャツは皆さん着心地の悪さを感じながらも「そんなものか」と変に納得してしまっていたりもします。
本当はジャケットやシャツは特に着心地がいい物です。自分なんかは家にいるときも、料理をするときなどをのぞいては割にシャツを着用しています。軽く買い出しに行く時などは必ずシャツでしょう。それはなぜかと言えば、ネクタイ無しでボタンを開けて着ているシャツは、まるきりTシャツよりも心地が良いと感じるからです。
かくいう私も、以前は着心地の悪いものを買ってしまうことが多かった。特にデザインを気に入って、試着したら「なんとなく窮屈だけど、見て変じゃないしいいか……」といってスーツやジャケット等を買うことは多かったですね。しかし実際に買った後は、そういった服を手に取ることは殆どありませんでした。結局、着心地の悪い服からは手が遠のいてしまうのですね。ずいぶんとお金を無駄にしました。
良い服に、決して窮屈なものはありません。これを覚えておけば無駄な遠回りをしなくて済みます。
ライター田中のメンズファッション講座、次回はどんな風に服にお金をかけるべきかを考えていこうかと思います。